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人生をやり直しまくる令嬢、サリーナ  作者: 高杉 涼子
おまけ(婚約後のルシオとサリーナ)
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サリーナ、ルシオと向き合う 後編

ぐずぐずになるまで泣いて、ルシオの腕の中でひくりと震えていたサリーナだったが、だんだんと落ち着いてきた。

あふれていた気持ちはゆっくりと戻り、呼吸もできる。

もぞもぞと動いたサリーナは、視線を落とす。

さすがにこれだけ泣いた後の顔は、見せられない。

しかもハンカチも使わずにべそべそしたので、ルシオの制服に被害が出てしまった。


「ルシオ様、すみません。制服も汚してしまいまして……」

「制服なんかどうでもいいから、顔が見たい」

「え」


あっさりと言われて、恥ずかしくなった。

言葉と態度から、大切にされていることが伝わってくる。

それでも、この目も鼻も真っ赤でずるずるになっている顔をルシオに見せることはできそうにない。

ここまできたら隠すこともないか、とサリーナは泣きはらした顔を戻す魔法を自分にかける。

見上げると、ルシオが瞬いた。


「魔法かけたの?別によかったのに」

「さすがに、泣きはらした顔は恥ずかしいです……」


もそもそと言うサリーナに対し、ルシオは考えるように「そんなもの?」と言っただけだった。

ルシオと少しだけ距離があいたので、サリーナはそのまま人差し指を振った。

涙を押し付けて湿った制服が少しだけふわりと揺れる。

涙の跡がすっかりと消えた制服を不思議そうに見たルシオが、顔をあげた。


「やっぱりサリーナ、学院内で習う魔法は習得済みなんだ」

「……はい」


サリーナは頷いた。

身支度といえば聞こえがいいが、制服も身体も清潔に戻す魔法は、カリキュラム上まだ習ってはいない。

以前にルシオにかけた「よく眠れる魔法」と併用して考えると、隠すのは今更のような気がした。


「サリーナの成績はわざと?」

「……そうです」


正直に告げる。

人生をやり直しまくっていることは黙っておくことにしているが、質問には正直に答えようと思う。

「ばれないようにね」と笑ったルシオは、特に気にする様子はないようだ。


ふう、と息をはいたサリーナは、頭を下げた。


「ご面倒をおかけしてしまい申し訳ありません」

「面倒なんて思ってないのに」

「本当にありがとうございます。もう大丈夫ですから……その、離して頂いてもよろしいでしょうか」

「何で?」


何で?

まさか聞き返されるとは思っていなかったサリーナは、言葉を切る。

泣いていた自分を慰めるためではなかったのか。

今更ながら、距離が近くて恥ずかしさが沸いてくる。

ルシオは離れようとするサリーナを引き寄せた。

ひぇ、とサリーナは身を引く。


「お話は終わりでは?」

「終わってないから、ダメ」

「離れても話はできますよ!」

「俺が離したくないから嫌」


しれっとしているルシオの言葉に、力が抜けた。

抵抗する気が一気になくなってしまった。

だって、サリーナだって離れたくないと思っている。

恥ずかしいだけで、側にいたい。


黙り込んで、腕の中で大人しくなったサリーナを見て、ルシオは切り出した。


「聞きたいんだけどさ」

「何でしょうか」

「王家は諦めると思う?」


サリーナは、頭の中で考える。

王家は決して綺麗ごとだけで成り立ってはいない。

後継者争いもあるし、婚約者の後ろ盾も関わっている。

昨日味方だった者が敵にもなり、その逆もありうる。

裏切りが隣り合わせの世界の中で、何よりも大切なのは正確な情報だ。

考えて、サリーナは「いいえ」とゆるりと首を振った。


「婚約解消までは至らなくても、諦めるとは思えません」

「だよね。王家が一番知りたいことって、裏切り行為?」

「反乱も含めてですが……」


それはそうだろう。

裏切りも反乱も、王家の立場を危うくする。

ルシオは「そう」と呟く。


「王家全員が、影を動かせるの?」

「いいえ。王家の影は王と王妃の直轄です。特にその存在は即位するまで伝えられないので、王族の方々でも知らないはずです」

「…………。つまり、国の運営に関することが最重要ってことか」

「ただ、王妃のための社交界や外交のための情報収集も影が担いますよ」

「それだけ動いて、よく周囲にバレないね」


思った以上に活動している影の存在を、本当に誰も知らないのだろうか。

コンラード商会が目をつけられたことはすぐにわかったのだから、王宮にいれば誰か違和感に気づきそうなものである。


「ええと。普段は鳥を飛ばすのですが、王宮内は特殊でして、その……」

「言いたくないんでしょ、いいよ」


もごもごとしているサリーナが、こくんと頷いた。

言いたくないほどの支持の出し方とは、と思いつつも、サリーナの髪をもてあそぶ。

一方で、あのろくでもない侯爵家が王家からすり抜けていた理由が、何となくわかった。

媚薬で領民を操っていたので、表面上は良い領主に見えたのだろう。

領民はせっせと働くので税金も問題なく納めていただろうし、影を動かす理由がない。

社交界のための情報収集レベルでは、あの内情は掴めない。


「どこまで求められるか、かな」


商人が一番重宝される理由は、貴族の領地や邸宅に入れることにある。

贔屓にしてもらえれば、領民やメイドと顔見知りにもなれる。

加えてコンラード商会は元々平民よりの品物を扱っていたこともあり、平民からの支持もある。

平民の中でおかしな噂や予兆があれば、おそらく気づくことができる。

隣国だけではなく遠方の国の品物も一早く売り出すことから、購入ルートもできあがっていることも魅力だろう。


コンラード商会としても、王家とのつながりは渡りに船だろう。

だが王妃となったことのあるサリーナは、影の暗殺も見てきた。

自分が殺される可能性がある今、離れていたいと考えるのは自然だった。


「怖い?」


ぶるりと震えたサリーナを、ルシオが抱え込んだ。

小さく「はい」と返す。

現在の王も王妃も、取り込むためには何をするかわからないし、敵だと判断すれば容赦ない人たちだ。

とにかくサリーナは、これ以上目立たないように大人しくしておくことしかできない。


サリーナの頭をのんびりと撫でていたルシオは「うーん」と頭を傾げた。


「サリーナ、この国で暮らしたい?」

「……え」

「この国は、サリーナにとって危険だよね。暗殺対象になる可能性があるんでしょ?」

「それは……そう、ですが」


顔をあげると、ほほ笑んだルシオと目があった。

その瞳が、細くなる。


「だったら、他の国に行く方がいいんじゃないの? 魔法も一通り習得済みなら、今すぐ学院を退学してもいいのかな」


今すぐ、と言われて唖然とする。

人生やり直しまくり令嬢なので、特にこの国で暮らしたいとは思っていない。

他国どころか世界中を駆け巡り、未開の地を突き進んだこともあるサリーナなので、やり方次第だと知っている。

ついでに言えば、学院を辞めてしまうことにもたいした抵抗はない。

両親や家族への説明が必要だと思う程度だ。

だた、それではルシオと離れ離れになってしまうだろう。

寂しい気持ちが湧いてきて、サリーナはルシオに頭を寄せた。


「遠距離になりましたら、たくさんお手紙を書きますね」

「何言ってるの。俺はサリーナと一緒に行くよ」

「いいい、一緒!?」

「俺は交流関係のためだけに学院に通ってるから、別に辞めてもいいかなと思って」


軽く笑いながら言われて、サリーナは口をつぐんだ。

サリーナのことだけを言っていたが、ルシオの方も学院に通う必要はないのだ。

わざわざ通っていたのか、と今更知ってしまった。

退学したら、当たり前のようにサリーナと一緒に着いてきてくれる気で話をしていることにも気づく。


ただ、コンラード商会の後継者が学院を退学するなど、響きは決して良くはない。


「商会をどうなさるおつもりですか?」

「商人は実力主義だよ。学歴が必要なら買えるし」


さらりと恐ろしいことを言い出すルシオに、焦りが止まらない。


「商会の皆さんにご迷惑をおかけすることになりますよ」

「……その認識なんだ」


ルシオが不思議そうなので、サリーナの方が黙った。

何の話かわからない。


「知っていることに偏りがあるのかな。俺に兄弟がいるのは知ってる?」

「はい」


ルシオには、兄も姉も、妹もいる。

ルシオが後継者となった理由は知らないが、少なくともどこかの人生で出会った大人のルシオは、コンラード商会の会頭だった。

今でも特に何も聞かないので、後継者争い等はなさそうだと思っている。


「早い話。後を継ぐのは俺じゃなくてもいいってこと」

「そんな! ずっと頑張っていらっしゃったのは、商会のためですよね」

「それがすべてじゃないよ。優先したいものが変わっただけ」


ルシオが商会を継がない未来は、サリーナも知らない。

想像したことのない未来が目の前に突然現れて、処理がおいつかない。

ルシオは指先でサリーナの頬を撫でた。


「さっきのは例えだけど。まぁ、何とかなるってこと」

「私のせいで……」

「何でそうなるの。サリーナは悪くないよ、あとはこっちの問題」


こっち、がどこまで含まれるのかわからず、言葉を切った。

おそらく商会の方だが、ルシオが何を指して口にしたのかわからない。

サリーナは、ルシオを見つめた。

何をどうするのか、サリーナには想像もつかない。

ルシオの表情から切羽詰まった感じがとれないだけに、読み取ることも難しい。


「……私にできることがあれば、おっしゃってくださいね」


そう言って、唇を噛む。

いつかのときと同じだ。

結局サリーナにできることなど思いつかない。

迷惑ばかりかけて、何もできていない。


体に力が入ったサリーナを、ぎゅっとルシオが抱きしめた。

サリーナの肩口に頭が乗った。


「ルシオ様?」


頬に柔らかな髪があたる。

俯いたルシオの表情が見えない。

力が入っていて、少し息が詰まる。

それでもサリーナは、黙ったまま力を抜いた。


温かくて、優しくて、やっぱり好きだなと思う。


やがて「サリーナ」とくぐもった声が聞こえた。


「側にいてね」

「……はい」


頷きながら、少しだけ笑ってしまった。

側にいたいのは、サリーナの方だ。

もぞもぞと動いて、その背に手を回した。


驚いたのか、少しびくついたルシオの体に顔を寄せた。

この部屋に入ってきた時とは比べ物にならないほど、気持ちが落ち着いていた。

ホッとして、穏やかで、嬉しくてたまらない。

頭の奥がしびれ、ふらりと傾く。


「寝ていいよ」


優しい声が聞こえる。

背中を軽くとんとんと叩かれ、体が重たくなる。

恥ずかしいと思うよりも安心感の方が強い。

温かさに包まれて、導かれるようにサリーナは目を閉じた。

本当に、一瞬だった。



ずーっとずーっと深くから、引っ張り上げられるような気がした。

ゆるゆると体が浮かび、ゆっくりとサリーナは目を開けた。

気付いたルシオの手が伸び、頭をなでる。


「おはよ、起きた?」

「……おはよう、ございます」


ぼんやりとしながら体を起こしたサリーナは、自分の体にかかっている毛布を見る。

数回目を閉じて固まった。

目の前のルシオが楽しそうにこちらを向いている。

一気に顔色が青くなった。


「ああ、あの、私っ……」

「少しは楽になった?」

「え? あ、はい……え?」


周囲を見渡して、今ここがどこで何をしていたのかを辿る。

意識がなくなったのか、と思わずにはいられないほどの失態だ。

顔色がおかしいサリーナを見て、ルシオが「お茶飲んで落ち着きなよ」と言う。

そんな場合ではない。

まさかではない、寝てしまったのだ。

馬車でのルシオのことを言っている場合ではない。

抱きしめてもらったまま眠るなんて、自分のやらかしの方が酷い。


「ご、ごめんなさいっ……」


半分泣きながら謝るサリーナの目元をルシオが触れた。

そろりと顔を覗き込む。

サリーナの体温が高く、色味も良い。


「少しは顔色、戻ったかな」

「本当に本当に、申し訳ありません」

「謝るのは俺の方。仕込んだのは、俺だから」


聞き流せない発言が飛び出した。

唖然とするサリーナに、ルシオはティーポットを持ち上げる。


「二重底になってるんだよ。下に睡眠導入剤を入れたんだ」

「そこまでします!?」

「そこまでします。あのね。ただでさえ避けられてムカついてたところに寝不足のサリーナを見て、一体俺が、どれだけ気を揉んだと思ってるの」


ルシオは悪びれた様子が全くない。

なかなか強烈な言葉が飛び出して、サリーナはあわわと慌てることしかできなかった。

心配をかけてしまったという申し訳ない気持ちと、心配をしてくれたという嬉しさが混ざり合って返す言葉が見つからない。


新しくお茶を入れなおしたルシオは「これは普通のお茶だよ」と言うが、疑いの目を向けてしまう。

じとりと見ると「おいしいのに」と笑われた。

そろそろとカップに手を伸ばしてみる。

ルシオが先に口をつけたので、問題ないということだろう。


口をつけると、少しだけ甘い。

やっぱり、おいしい。


「サリーナ」

「はい」

「今度から不安とか心配なことがあったら、俺に言ってね」


カップを置いたルシオがこっちを見ていた。

その表情が真剣だったので、サリーナもカップを机に戻す。


「はい、お約束します」

「それから、何かあったら必ず俺に相談して。一人で抱えて動くのはなしだよ」


それはルシオの方では、と思ったが口には出さない。

おそらくルシオは、人生をやり直しまくって得た知識や情報について話をしている。

もう二度と勝手をするつもりはないという決意を込めて「わかりました」と頷く。

ほっとしたように息を吐いたルシオは、ネックレスを取り出した。


「じゃ、これあげる」

「連絡手段用ですね」


理解が早いサリーナに、ルシオは「そうだよ」と笑う。

小さな紫色の石が埋め込まれただけの、シンプルなものだ。


「石を押し込めば、俺につながるよ。気になる場合は石をねじれば、周囲だけ防音の魔法がかかるから、使って」

「なるほど」

「危ないときは石をたたけば、俺に居場所がわかるようにしてあるから」

「……え」

「金具を引っ張れば警報音がなるから。間違って千切らないように気をつけてね」

「え、あの」

「つけてあげる、貸して」


さくさくと話を続けるルシオに、サリーナは目を白黒とさせている。

サリーナは、このシンプルすぎるネックレスの価値を正しく理解している。

頭を下げるサリーナの首元が見えて、少しだけ触れる。

ここのところ悶々としていた分、王家が邪魔をしないよう、いくつも魔法を埋め込んだ。

鬱憤を晴らす勢いで注文をかけた結果高額請求が発生したが、後悔はない。


「値段とか、価値とか……そういうことは言わないで、受け取ってよ」


慌てているサリーナに苦笑しながら言うと、肩がぴくりと揺れた。

この小さな石や細工に魔法を付与することの難しさと価格を理解していることが、サリーナの知識の一つなのだろう。


今後何かあったとしても、必ず連絡してくれると思っている。

抱えている秘密を聞かない選択はしたけれど、だからといって放置する気はない。

何かあってからでは遅いのだ。

相談してもらえれば先にうって出ることができるので、どうとでも動かせる。


「光にかざして石が光ったら、俺からの連絡があるってことだから。時間があるときに連絡して」

「はい、必ず」


サリーナの首もとに光る紫色の石は、淡く輝いて揺れている。

これで、いつでも連絡ができるようになる。

どのタイミングで渡すか考えていただけに、ルシオはやっと力が抜けた。


乱れた髪を整えたサリーナは、「ところでルシオ様」と遠慮がちに声をあげた。


「失礼ですが、今は何時頃でしょうか」


この部屋には時計がないので、気になってしまう。

ここに来てどれぐらい時間がたったのだろうか。

思いっきり眠ってしまったので、時間間隔が鈍い。

ルシオのことだから大丈夫だとは思っているが、帰宅時間が心配だ。

手元を見たルシオは「あー、それか」と呟く。


「店に入ってから、現実十五分ぐらいしか経ってないよ」

「十五分!?」


そんなありえない、と思ったサリーナは、ルシオが指さす先にある魔道具を見て絶句した。

複雑な形をした魔道具から、煙が出ている。

まさか、と心臓が大きく音をたてた。


「時間を歪めたんですか?」

「そう。時間を気にせず話がしたかったから、拝借してきたんだ」


けろりとした顔のルシオを、信じられないと見つめた。

時間を歪める魔道具は、特殊な煙を出して部屋を包む。

その結果、その部屋の時間だけ遅らせることができる。

煙の量で時間を調整できるので、交渉や相談事に時間がかかりそうな相手に使うことが多く、商人には必須のアイテムだ。

だがどこかの人生で商人だったサリーナは、その魔道具の価格を知っている。

おそろしく高価で、手に入れるのも難しい貴重な品だったはずだ。

少なくとも、婚約者と話がしたからと使うようなものではなかったと記憶している。

二の句が継げない様子のサリーナを見て、ルシオが首を傾げた。


「話もできたしサリーナも休めたみたいだから、使い方としては合ってるよ」

「合ってます!? こんな高価な魔道具を、そんな簡単に……」

「価値を決めるのは、俺です」


それはそうかもしれないが、ルシオの気づかいが優しすぎて切なくなる。

毛布まで準備していたことから、元々サリーナを休ませようとしてくれていたのがわかる。


「ルシオ様、ありがとうございます」

「お礼を言われるようなこと、あったかな」


本当に気にしていないのだろう、ルシオは背伸びをして笑う。


サリーナは、ぎゅうと毛布を握りしめた。

胸が痛くて苦しい。

こんなにサリーナに気持ちを向けてくれる人が、他にいただろうか。

ルシオの横顔を見ながら、ほっと呟く。


「ルシオ様、大好きです」


小さく漏れた言葉は、無意識だった。

嘘のない、サリーナの素直な言葉、そのものだった。


「……え」


だが、静かな部屋である。

ルシオには届いていたようで、大きく見開いた紫色の瞳と視線がぶつかった。

自分の言葉が伝わったと気づき、焦る。

恥ずかしくなり顔に熱が集まるのを自覚して、サリーナは震えた。


ルシオは困ったように首を傾げ、その瞳をゆっくりと細くする。


「危機感持ってねって言ったんだけどなぁ」

「な、何が…」


ソファに背中が当たる。

近づいたルシオから怪しい空気を感じ取り、毛布を引き寄せた。

ルシオが艶やかに笑った。


「煽ってどうする気?」

「そんなことしてないです!」

「そうなの?」


面白そうに言うルシオは、やはりどこか危険な気がする。

固まるサリーナの耳元に、ルシオが顔を寄せた。


「じゃ、覚えておいてね」

「ひっ……」


そう言って、ルシオはサリーナの首筋を撫でた。

ぞわりと震え、触れたところから熱が広がっていくようで、サリーナは必死に目を閉じる。


やめてほしいと思うのに、同じくらい触れて欲しいと思うのはなぜだろう。

たまらく幸せで、ルシオのことが好きだなと思ってしまい、眩暈がしそうだった。


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