第9話 終戦,そして,ダンジョン時代の始まり
「こうして最後の戦いが終わりました。」
林は静かに話を続けた。
「最後のディープワンは、アフリカ戦線で討伐されました。」
「これにより、二十年に及ぶ降魔戦争は終結したのです。」
二郎は小さく息を吐く。
「やっと終わったんですね……。」
「ええ。しかし、平和は戻っても、多くの問題が残されました。」
林の表情が少し曇る。
「ディープワンは多くの人間を捕らえ、苗床として利用しました。」
「その結果、人間とディープワンの混血――ハーフが世界各地で生まれたのです。」
殺された者。
家族に匿われながら生き延びた者。
国に保護され、教育を受けた者。
軍へ志願し、人類のために戦う道を選んだ者。
様々な人生があった。
「日本でも、一定の条件を満たせば日本国民として認められています。」
「国へ忠誠を誓い、人類社会へ協力すること。」
「それが権利を得る条件となっています。」
二郎は静かに頷いた。
「簡単なことじゃありませんね。」
「はい。」
「ですが、彼らもまた戦争の被害者なのです。」
林は湯飲みを置く。
「そして、終戦から間もない二〇二一年。」
「世界中の人々が、人生で最も奇妙な体験をしました。」
突然。
世界中のすべての人間の頭の中へ、直接声が響いた。
『イヤー、おめでとう! 人類の皆さん!』
『ワールドイベントクリアです!』
世界中が騒然となる。
老人も。
子供も。
兵士も。
誰もが同じ声を聞いていた。
『先ほど、オーストラリアで最後のディープワンが、少年兵スコット君のライフルによって討伐されました!』
『これにより我々神々は、人類へプレゼントを贈ります!』
『ダンジョンです!』
一瞬の静寂。
そして、陽気な声は続く。
『たまにスタンピードでモンスターがあふれてくるから、よろしくね!』
『それじゃ!』
『ニャル様こと、ニャルラトテップでした!』
『adieu!』
その瞬間、声は消えた。
「……なんだ、それ。」
思わず二郎が呟く。
林は苦笑する。
「世界中の人が、まったく同じ反応だったそうです。」
終戦の喜びも束の間。
世界各地で空間が歪み始める。
日本でも各地に巨大なダンジョンが出現した。
東京・八王子ダンジョン。
池袋ダンジョン。
大阪ダンジョン。
広島ダンジョン。
福岡ダンジョン。
高知ダンジョン。
世界中でも同様に数多くのダンジョンが出現し、人類は再び未知との戦いを強いられることとなった。
「こうして世界は、戦後復興の時代からダンジョン時代へと移り変わったのです。」
林の言葉に、二郎は静かに窓の外を見る。
戦争は終わった。
だが、新たな時代はすでに始まっていた。




