第7話 アトランティス浮上
「大阪決戦の勝利によって、日本は反攻へ転じました。」
林はそう切り出した。
「誰もが、このまま日本は解放されると思っていたのです。」
二郎も静かに頷く。
「でも、そうならなかった。」
「はい。」
林は重々しく答えた。
「世界は再び絶望に包まれます。」
部屋の空気が一変した。
「大阪反攻作戦が成功し、日本が四国・九州解放作戦の準備を進めていた頃――。」
「大西洋中央海域で巨大地震が発生しました。」
「そして海底から、新たな都市が姿を現します。」
「その名は――。」
「アトランティス。」
二郎は思わず身を乗り出した。
「もう一つの海底都市……。」
「ええ。」
「ルルイエに続く、二つ目の海底都市です。」
林は世界地図を広げた。
「アトランティス浮上と同時に、再び世界各地へディープワンの大侵攻が始まりました。」
林は指で各大陸を示す。
「北アメリカ大陸へ約二千万。」
「南アメリカ大陸へ約一千万。」
「アフリカ大陸へ約一千万。」
「ヨーロッパへ約一千万。」
「合計五千万……。」
二郎は息を呑む。
「世界は再び全面戦争となりました。」
「当然、アメリカも例外ではありません。」
林は苦々しい表情を浮かべる。
「日本へ派遣されていたアメリカ軍は、本国防衛のため順次撤退。」
「弾薬や物資の支援も打ち切られました。」
「それじゃ、日本は……。」
「孤立しました。」
その一言は重かった。
「大阪決戦で大量の弾薬を消費していた日本は、補給を失い、再び苦しい戦いを強いられます。」
林は地図の四国と九州を指差した。
「四国・九州へ逃げ込んでいたディープワンたちは、その間に防衛体制を整えていました。」
「逃げ遅れた人々を捕虜として使い、巨大な要塞を建設。」
「さらに、魔法技術を取り入れた新たな部隊まで編成していたのです。」
「魔法技術……。」
「従来のディープワンとは別物でした。」
林の表情が険しくなる。
「彼らは魔法兵器を装備していました。」
「電気銃。」
「生体装甲。」
「強力な魔法。」
「そして、人類の符呪技術を解析・模倣した武器まで使用するようになっていたのです。」
二郎は驚きを隠せない。
「符呪まで……。」
「完全な再現ではありませんでした。」
「ですが、人類から奪った装備や技術を研究し、戦力を大幅に向上させていました。」
「数万規模の精鋭部隊が編成され、自衛隊や防衛隊を何度も苦戦させたと記録されています。」
部屋に静かな緊張が漂う。
「大阪決戦では勝利したものの、日本はすでに大量の弾薬を使い果たしていました。」
「そこへアメリカ軍撤退。」
「補給不足。」
「敵戦力の強化。」
「すべてが重なった結果、日本は短期決戦を断念します。」
「長期戦……。」
「はい。」
林は静かに頷いた。
「四国解放戦には二年。」
「九州解放戦にはさらに三年。」
「合わせて五年もの歳月が費やされました。」
二郎は窓の外を見つめた。
暗い山々の向こうに、かつて戦場となった日本の姿を想像する。
「……長かったんですね。」
「ええ。」
林も静かに頷く。
「ですが、その長い戦いの中で、日本は多くのものを生み出しました。」
「符呪技術。」
「対魔物戦術。」
「探索者制度。」
「そして、魔力を安全に利用する技術。」
「現在の日本が『ダンジョン大国』と呼ばれる礎は、この時代に築かれたのです。」
二郎はその言葉を胸に刻んだ。
自分がこれから生きる世界は、多くの犠牲と戦いの上に成り立っている。
その現実を、少しずつ理解し始めていた。




