卑怯者~日向
初めて出会った時、彼女は「げえげえ」吐いていた。その姿は一年前の自分とそっくりで、嫌なものを見てしまったと思った。
「あんた、似てるわ。あの人に」
母が口にした一言。
あの人というのは、父のことだろう。
褒められているのかと思った。だから嬉しくて、照れて笑ったけど。
「そうやって、笑えば悪者に成らないと思ってる。本当に卑怯……」
今にして思えば、母さんも相当参っていた。
多分、離婚協議はこの頃からしていたんだと思う。
中学三年の初夏のこと。
受験を控えて、自分も余裕がなかった。学校も休みがちになる。思春期を迎えて友人の作り方も、つなぎ止め方も分からなくなった。
「小さい頃は、友達もいっぱい居たのにね」
母がポツリと呟く。
責めてはいない。
今の自分を否定されたような気がして、トイレにこもる。喉の少し下の方。ちょうど胃の入口あたりがムカムカし、吐き戻してしまう。
「なんで、こうなったんだろうね?」
責めてはいない。
「午前中だけでも、学校いったら?」
責めては……、いない。
「ちょっと高かったけど、日向が学校に通えるように五万円で占って貰ったの」
責められはしなかった。
「日向のことは任せるから」
初め父はそう言って笑っていた。でも次第に声を荒げるようになって。
――自分は、卑怯者だから。
何も出来ずに、見ないふりをした。




