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卒業証書

 私は、児童養護施設で施設長をやっている。嬉しいことも辛いことも当然あるのだが、今日は気分の弾む嬉しいことがあった。


 渡良瀬月子ちゃん。


 彼女が目を輝かせ、白いワンピースの()()()()までして、昼過ぎに慌てて出掛けていった。


 女の直感で、ピンとくる。

 お友達。それも、恐らく男の子……。


 思い出すのは、彼女が施設へ初めてやって来た時のこと。

 頬に痛々しい縫合の痕を残し、玄関先でわんわん泣きじゃくっていた。


 その後も「パパ、ママ」と早逝した両親を探し求める姿は、痛切なまでに胸を締め付ける。


 暫くして、落ち着きを取り戻したようだったが、月子ちゃんは誰にも心を開こうとはしない。表面上は塞ぎ込むこともなく会話も交わす。むしろ、聞き分けのよい優等生だった。


 長年、過酷な生い立ちをもつ子供たちと接して来たのだ。嫌でも分かってしまう。


 それは、反発とも遠慮とも違う。

 ……怖れ、だろうか?


 傷痕に対する視線だけではない。

 人そのものを怖れている。もっと言えば、人と繋がることに怯えていた。


 中学の卒業式。

 月子ちゃんは、私の出席を断った。


 彼女には悪いと思ったが、私は体育館の入り口付近で、卒業証書を受け取る姿を見守っていた。


 ……その後、彼女が何をしたのかも。


 今に至って、すべてを悟った。

 施設では、決して弱音を見せない月子ちゃん。仮にも、子供たちの保護者を自負する私の至らなさ、不甲斐なさをゴミ箱の中の卒業証書が、まざまざと突きつける。


 卒業証書を拾い上げながら、彼女の三年間を思うと、込み上げてくるものを(こら)えきれなかった。


 いつか、いつの日かきっと。

 笑顔で手渡せる日が来ることを祈って。


 今も、卒業証書は私室の引き出しの中で、その時を待っている。

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