誰かは誰かの
どうも、作者です。九十八話です。
「――イズミさん、大丈夫ですか?」
僕は、イズミさんに話しかける。何となく、今はなしておくべきだと思ったから。
「そっちこそ、魔力は大丈夫か?」
逆に心配されてしまった。ポーションもあるし、魔力に関しては問題ない。というか、さっきの戦闘で半分も減ってないしね。
少し恥ずかしいけど、立ちっぱでは変だし、イズミさんも座らないのかと不思議そうな顔をしている……気がするし。だから、イズミさんの隣に座る。
「え、えと……」
どうしよう。座ったはいいものの、なんて話しかければいいかわからないや。”進む”って決めたところで、別に根本が変わるわけじゃない。”何もできない”なんて思ったかに関係なく、元から僕は自信が持てる性格ではなかった。
で、でもここで話しかけられただけでも、勇気は出せたし……じゃないじゃない! そこで止まっちゃ駄目じゃないか! もっとこう、聞きたいことを……
「エフィ、ちょっといいか」
「ひゃい! 何でしょう!」
「そんなテンション高くなくてもいいぞ」
てんぱっちゃった。イズミさんはよく普通に話しかけられなぁ……僕、こんなに緊張してるのに。あ、でも、クランの記憶から僕のこと知ってるのもあるんだっけ。おかげさまで僕としては気軽に接してくれて助かるけど。
「は、はい……えと、それで何でしょう?」
「あ~、ずっと聞こうと思ってたんだが、俺、気軽すぎないか? あ、いや今更かもしれないけど」
珍しく、イズミさんが目を泳がせてる(表情は変わってないけど)。普段あんなに落ち着いてるのに。でも、気軽か……っていうと、
「えっとだな……こう、エフィに対して、最初から軽口というか、気軽だっただろ? 嫌じゃなかったかなって」
「ぜ、全然大丈夫です! 僕としては……変に敬われたりしなくて、とても助かりました」
未だにそんな自覚ないけど、一応、魔王なんて仰々しい肩書を持っているし、怖がられたりしたら、傷つくし……。
「そう言ってくれて助かる。実は結構不安だったんだ」
「え? そうだったんですか? 全然気にしていないものとばかり」
「それは……顔に出ないだけだ」
あ……初めて落ち込んでいるのが分かった。本当に顔に出ないだけなんだな。なんだか、親近感を覚えてしまった。イズミさんも、対人関係で悩むんだな……。
「それなら、一つだけ頼んでいいか?」
「? 何でしょう?」
頼み事……この流れだと、戦闘のことではない。だとしたら一体何だろう?
「ずっと思ってたが、エフィの方が圧倒的に年上じゃないか」
「そ、そうですね」
それはその通りだ。人間と魔人という違いはあるけど、僕は三百は越えてるし、聞いた限りじゃイズミさんは二十歳。圧倒的に僕の方が年上だけど。
「だから、じゃないが。俺だけ気軽なのもあれだし、もっとこう軽い感じで話しかけてくれないか。ずっとエフィの方だけ敬語というのは、何か申し訳ない」
あ……そうか。確かに僕の方だけずっと敬語だな。それに色んな意味で、僕の方が立場は上になってしまう。年もそうだし、身分も……一応僕魔王だし。強いて言うなら、イズミさんは団長だけど、それなら副団長のクランに気軽なのもおかしな話だ。
それに、他の皆もイズミさんには気軽に話している。ハイカさんやヒビキさんは敬語だけど、すごく気軽な感じだ。
で、でも何だか恥ずかしいというか、
「な、何だかイズミさんは、僕にとっては何というか、尊敬できる人で、憧れで……」
つい後半の方は声が小さくなってしまう。そうだ、イズミさんは憧れの人だった。
「……なんで、そう思うんだ?」
何を言えばいいか分からなかった。そう思っていたはずなのに、僕の心を無視して、言葉は口から出ようとする。それを一瞬閉じ込めようとして、違うと気づく。そうだ、これがきっと言いたかったこと。
「僕は、僕は誰かに見限られるのが怖い。僕は何もできないのが怖いんです。誰も、僕を見てくれないのが怖い」
その気持ちは、いつからか大きくなっていた気がする。それがどうしてか、今は思い出せない。それでも、そう思っているのは確かで。
「でも、イズミさんは僕と出会ったときから、誰かに当たり前に手を差し伸べてた。ヒビキさんにも、アイカちゃんにも」
ヒビキさんに聞いた。初対面で、竜人のことも知らないのに、それでも周りの目を気にすることすらなく、道案内を引き受けてくれたって。
アイカちゃんを助けた時も、危険性があるかどうかじゃなくて、どうしたら助けられるかを真っ先に考えてた。誰かの評価を気にすることなく、自分がどうしたいかを考えて。
「何より、イズミさんは自分の軸がぶれないんです。ずっと、何があっても”守る”という自分の在り方を崩さないのが、かっこいい」
誰かを守ることをやめない。その姿は、僕には何よりもかっこよく見えた……それは、クランも同じなような気はするけれど、クランに言うのは、意地が出て言えないな。
「面と向かって言われると恥ずかしいな……」
「あ、すみません!」
た、確かに本人にこんな風に言っちゃうのは僕も恥ずかしい! あ~、つい勢いで言っちゃった!
「いや、別に構わないが……そうか、俺はそんな風に写ってるのか。でも、俺だって人並みに迷うし、誰かに助けてもらってばっかりだからな」
確かに、戦術面では、ヒビキさんがいるし、攻撃はハイカさんがいる。道中だってアメイさんがサポートしてるし、何より、クランとの連携が根本にある。
「確かに、他の皆さんが助けているのは事実ですが、それは、イズミさんを助けたいってみんなが思ってるからだと思います」
僕の言葉に、イズミさんは少しだけ黙る。何かを考えているようで、でも何を考えているかは表情からは一切読み取れない。
「そうか、そうかもな。でも、助けられてるのは変わりないし、やっぱり俺は、それに頼り切ってるよ。だからやっぱり、俺は特別じゃないんだ」
その言葉には、自虐の意味は含まれていないように見えた。だって、いつも変わらない表情が、少しだけ微笑んでいる。きっと本心からの言葉なんだと、分かるくらい優しい言葉で。
「だから、エフィ、お前も気軽でいい。尊敬してるってのはまぁ……そのままでもいいけど、俺としては、もっと仲良くなりたいからな」
そう言って、イズミさんは僕の頭に手を置く……イズミさんはいつも置いた後申し訳なさそうに手を離すけど、やっぱり安心する手だ。
僕は、その手を離されないように、小さく深呼吸して、その手を両手でつかむ。僕からの、小さな意思表示。
「……はい、そうしてみます。敬語は……抜けないかもだけど、もっと気軽に話します。イズミさん……え、えと、イズミ君?」
ちょっと恥ずかしいけど、年下だし、こ、こういう呼び方の方がいいかな?
「ふっ、ああ、それでいい。慣れなかったら前のままでもいいが、俺としては、それぐらいでいい」
「はい」
返事をすると、イズミさん……イズミ君は立ち上がる。きっと、ボスを倒す前に皆に話しかけに行くんだろう。そうしてくれると、自然と勇気が湧いてくるから。
僕は、きっと休むのが最善だから、そのまま座って見送る。そうして、彼の背中を見ていると、イ、イズミ君はこちらを振り向く。
「……エフィ、言っておくが俺はお前のことも……いや、あんまり言いすぎるのもよくないな。もうわかってるだろうし。その代わり、エフィ、俺のやることを気にするな。俺がお前を守るのは、俺がそうしたいと思ってるからだからな」
唐突に言われたものだから、一瞬理解できなかったけれど……そうだ、このダンジョンにいる間、イズミ君はずっと僕を守ってくれた。それを、僕は申し訳ないと思っていたけど、そうか、イズミ君が、そうしたいから、ずっとそうしていただけなんだ。
「……はい、イズミさん、じゃなかった。イズミ君、また、頼みます!」
「ああ、任せろ」
ダンジョンのボス、きっとみんなといっしょに倒せれば、僕はきっと、変われる……いや、分かる気がする。僕の持つ”何か”が。
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