ボス戦
どうも、作者です。九十九話です。
休憩時間を終え、僕たちは階段を降りていく。少し、張り詰めた雰囲気が漂っている。四階層まで余裕がありそうだったハイカさんとヒビキさんがいつもより気を引き締めている。
「クラン、やっぱりボス、やばそうか?」
「……恐らくのう。まぁ、実際に戦ってみればわかるじゃろ」
むしろ、イズミ君とクランの二人はいつも通りというか、あまり変わっていない。
「お前らはもうちょいこう、緊張感とかないのか?」
「「いつも通りやるだけだ/じゃ」」
まぁ、二人はそうだよね。その言葉を聞いていたヒビキさんとハイカさんが呆れているように笑っている。僕も、変に気負わず、自分のやれることをしよう。
ついに螺旋階段は、壁をなくしていた。足を滑らせたら、下のボスが出現する場所に真っ逆さまだ。流石に怖いなぁ。
そう思っているうちに、その足場にたどり着く。
「皆さん、恐らくここを降りたらボスが出現すると思います。フォーメーションはさっき言った通りです」
休憩中に少しだけ、ボス攻略に関する作戦会議があった。といっても、情報がほとんどないので、フォーメーションのチェックや、現状でやれることのチェックぐらいだったが。
僕も含め、皆うなずき、改めて気を引き締め直す。イズミさんを一番前にして、降りていく。一番後ろのアメイが階段を降りた時、ダンジョンが震える。
ダンジョンのボスが地面より現れる。地面より現れた、その五本の指は一つ一つが別の生物のようにうごめいていた。
それは、僕たちがこのダンジョンで戦ってきたそれが、何百、何千と集まってできたのではと錯覚するほど大きかった。少なくとも、一番小さな親指ですら、僕の身体よりも大きかった。
「やはり、あれらは”分け身”でしたか……!」
そう、戦ってきた”マドハンド”、”ラヴァハンド”、”アイスハンド”、それらと同じ、腕の姿をしていた。違う部分を上げるなら、その巨体と、中指を境界線に、溶岩と氷塊を半々にした、いわばハイブリッな状態。
「皆さん、戦闘開始です!」
その一言で、呆気に取られていたことに気づき、武器を構える。あの”腕”は、今から倒す相手だ……!
「つってもあれ! どう倒すんだ!」
「恐らく、核があるはずじゃ! それを見つけてつぶすしかあるまい!」
そんなことを話している間に、敵が攻撃モーションに入る。氷の礫と溶岩の塊を指から飛ばしてくる!
「! 全員俺の後ろに!」
イズミ君に言われるまま、盾の後ろまで退避する。しかし、ハイカさんだけ飛び出す。ハイカさんは溶岩弾と、氷弾が飛んでくる中、それを剣捌きと、避けの技術でほとんど被弾していない。
それでも、少し肌が溶岩弾で焼けたり、氷弾で少し傷がついているが、それにすかさずクランが回復魔法を入れる。
ハイカさんでも攻撃が当たるって、相当な弾幕の密度だ。でも、本当に危ないところは避けてる。当たってるっていうより、当たるものを選んでる感じだろうか?
敵はそのハイカさんを完全にマークしたようで、こっちに飛ばしてきていた分までハイカさんに飛ばしている。弾幕の密度が濃くなるごとに、ハイカさんの傷が増えていく。
「あの腕、ハイカ殿の動きが見えておるのか……?」
確かに、今までのハイカさんの動きを見ていると、あれくらいの弾幕なら避けられていてもおかしくない。
「エフィ! ハイカが敵を引き付けている間に詠唱を!」
「りょ、了解です!」
僕は詠唱を開始する。出すのは土の魔法、ハイカさんのアドバイス通りに土の魔法にしたら、炎の魔法よりアイスハンドに対して効果があった。なら、あの氷の身体を持つ大きい腕にも有効なはず……!
『大地に沈む石脈よ、我が声に――』
僕が詠唱し始めた瞬間、狙いをすましたように、土の腕が生えてくる。まずい…!
「エフィ、詠唱を続けてください! 最初の一発はあの腕ではなく、外周を囲むようにお願いします!」
事前に察知していたであろうヒビキさんがマドハンドをつぶす。やっぱり、”振動”の力で察知してくれたらしい。でも、少し顔が辛そうだ。
「ヒビキ、マドハンドの数は……!」
「わかりません。無数としか言いようがない……! お陰様で頭が痛いくらいです」
多分、物理的に頭を痛めてる。数が多すぎて、振動の察知でそれらすべてを捕捉し続けようとすれば、相応に脳の処理に負荷がかかるはずだ。
今は、ヒビキさんの心配ではなく、詠唱を続ける。それがきっと最善のはず……! それに、外周って言った理由は分かる。ここも四層と同じく、壁がない。四層とは比べものにならないくらい広いけど、それでも落ちたら終わりなのは変わりない。
だから、今は詠唱に集中する。
『しかして彼らを滅ぼすものなりて。ここに獣どもをその石槍によって貫け』
詠唱が完成するまでの間、イズミさんが僕を守ってくれる。今、ここで崩れちゃいけないのは僕だ。大きいマドハンドは、ハイカさんがヘイトを稼いで、クランが回復魔法をかけている。
マドハンド達はヒビキさんとアメイさんが抑えている。なら、ここで詠唱を続けて、皆を少しでも楽にするしかない。
『剛石乱槍』
僕は外周を囲むように、そして、周りのマドハンド達に当てるように石の槍を生やす。恐らく、数は百本以上、とにかく、魔法の制御が効く間にできるだけ生やす。
魔法を撃ち終えて、少し息をつく。大きな魔法を使うと、どうしても呼吸が乱れ……
「泉! 上です!」
「!」
それを言ったのはハイカさん。よく見たら、少しだけ弾幕が緩くなっている。それがきっかけだったかは分からない。それでも、その余裕によって僕たちに警告してくれたのは間違いない。
「防ぐ……いや、エフィ揺れるぞ!」
そう言って、イズミ君は僕の身体を脇に挟んで抱える。そして、横にステップを踏む。その瞬間だった。僕たちがいた位置に、溶岩の塊が飛んできたのは。
これは……ラヴァハンド! 僕はイズミ君に抱えられたまま上を見上げる。すると、天井部分には、少ない数のラヴァハンドたちがいた。もしかして、僕が魔法を撃った隙を狙って?
そうだ! この溶岩、一番まずいのはクランだ。当たれば致命傷なのに、回復魔法を使いながらよけなきゃいけないのは相当きついはずだ!
「イズミ君! クランを!」
「わかってる!」
しかし、そんな僕たちの判断をあざ笑うように、次の一手を敵は放ってくる。今度は……アイスハンド!
数は少ない。それに地面凍結の速度もさっきよりは遅い。それでも、イズミ君の機動力を奪うには十分だった。地面をうまく蹴られない。
それに、近くにいたヒビキさんとアメイさんの近くにもアイスハンドは現れている。まるで、僕たちを分断するように。
さっきから、僕たちをあざ笑うようにあの巨大な腕は、次から次へと僕たちの嫌な一手を打ってくる。まるで、僕たちの行動を知っているかのように。
僕はそこで気づく、ヒビキさんやハイカさん、そして多分、クランが気づいていた事実を。多分、今まで現れていたあのマドハンドやラヴァハンド、アイスハンドはあいつの分け身だったんだ。つまり、二、三層で出てきたあの捕食者の強化版。一層からここまで、僕たちのすべての行動を監視していた。
いや、あの魔獣ですら、このマドハンドに情報を与えるための情報収集の一つに過ぎなかったのかもしれない。
敵は、僕たちのすべてを知っている。まずい、きっと普段通りの戦い方をすれば決して倒せない相手じゃない。なのに、相手のペースに乗せられて、やられちゃう。
皆、それぞれの一番なやり方で自分の役割を奪われている。チームワークを、乱されている。
「――わかってるさ、クラン。ここは、俺が守る」
いや、この場において、いつも通りに動いている冒険者が二人いた。一方は守り、一方は癒す。
「エフィ、託していいか? お前に」
イズミ君は僕を下ろして、盾を構える。彼はやることを、変える気はないらしい――なら、僕も。
「……はい!」
僕には、ある。この盤面を変える一手が、僕の中にある……!
「……ああ、”頼んだ”ぞ!」
僕は、少しも猶予がない中、少しだけ深呼吸をはさむ。きっとここから先、余裕はない。
「……イズミ君も、”頼み”ました!」
――ああ、僕は、僕はきっと”思い出した”。僕の”それ”を、そして同時にもう一つ思い出す。僕が家出をした、そこに至るまでの過程を。それもきっと、新たな”原点”だったから。
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