”何者”でありたいか
どうも、作者です。九十四話です。
飯を食べ終わった後、俺とエフィ以外は就寝した。多分、クランあたりが気を遣ってくれたんだろう。こっちとしては、助かる。
「エフィ、ちょっといいか?」
俺は一人でたき火を眺めているエフィに話しかける。その横顔は、やはりどこか暗い。
「……はい、何ですか?」
「今日はどうだった?」
俺は少しぶっきらぼうに聞く。俺たちからすれば、今日一番活躍していたのは確実にエフィだが、きっと本人は、
「……やっぱり、皆さんみたいにうまくはできませんでした」
そういう認識だろうな。本人にとって、完璧を求めているわけではない。しかし、それでも誰かに迷惑をかけてしまったという事実は、どんな成果よりも重いのだろう。
それは、何と傲慢だろうか。でも、俺はそれを責められない。人は、自分が無能であると気づく瞬間が一番怖いのだ。
「俺からすりゃ、十分な活躍だったと思うがね」
「それでも、僕がしっかりしていれば、もっとみんなが楽にできた、と思います」
どうして、そんなに辛そうなんだろうか。確かに、パーティである以上、互いの命を預けているのは間違いない。しかし、それでもこいつは一番初心者だ。本来、もっと気楽でいいはずだし、一番迷惑をかけていい立場だ。
「……なぁ、お前はなんでそこまで自分に求めるんだ?」
「なんで……なんででしょうか?」
エフィは、自分が自分を追い詰める理由をわかっていない。しかし、必ずあるはずだ。自分がまだ満足な領域ではないと、求める理由が。
俺も、その理由は見つけられちゃいない。だからこそ、知らなきゃいけない。
「……俺はな、たまにクランと泉がうらやましくなる」
「僕も、なります」
だろうな。あいつらは、まっすぐすぎるんだ。迷いなんて一つもないまっすぐな目で、俺たちを見つめてくる。そのくせして、俺たちを同列で扱ってきやがる。
「お前はなんで、あいつらをうらやましいと思った? 俺はな、”気にしない”あいつらがうらやましい。人は普通、誰かの目を気にするんだ。そんな誰かが作った評価で、自分の行動原理を決めちまう。でも、ああいう人種には、それがない、それがうらやましい」
「……僕は、”導いてくれる”二人がうらやましいです。あっちだってきっとたくさんのことを抱えきれるほどの力はないはずなのに、当たり前みたいに、助けてくれる二人が。僕が何者であろうと、友達なんてちっぽけな理由で、打算なんてなく助けてくれるのが」
それはきっと、あの二人だけじゃない。ヒビキさんやハイカだってそうで。
「俺が知っている、ジジイもそうだった」
「え、えっと?」
俺は少しだけ話をそらして、とあるジジイの話を始める。俺の記憶に残る限り、笑ってる顔しかしてないジジイの話を。
「いっつも理想論ばっか話してるジジイでな。大丈夫だなんだって、いっつも笑ってた。そのくせ、本当にその通りにしやがる」
「なんだか、すごい人ですね」
「そりゃ、”勇者”だからな」
「……あ」
エフィは気づいたらしい。勇者の娘と幼馴染なんだ、当然勇者とも知り合いさ。だが、滑稽な話だ。”魔王”に勇者の話で説教なんて。
「俺の周りにはそのジジイ含め、すごいやつばっかだった。勇者パーティもそうだったし、”騎士”もそうだった。ハイカや、それ以外にも才能のあるやつが同年代に行った」
今も、その名をとどろかせる奴らが俺の周りにはたくさんいる。”英雄”なんて、そう呼ばれる人たちが、近くにいて、俺は辛かった。
「それで、そんな奴らを見て俺が不貞腐れてると、いっつもそのジジイは無遠慮に俺の隣に座るんだ」
エフィは真剣な目をして、俺を見ている。俺は、何を言いたいんだろうか。別に思い出を語りたいわけじゃないし、あのジジイが何を言っていたかも、語りたいわけじゃない。
「とにかくな、俺の隣に座るジジイが、クランや泉と同じ目をしてたんだ。あいつらの目を見た時、そっくりだなと思ったんだ」
そう、似ているのだ。ハイカも昔からそうだった。ヒビキさんも、少し違うけど似ていた。でも、それ以上に、あの二人は似ていた。
気にしない目だ。自分のやる行動を、誰に何と言われようと、それが自分のやりたいことなら、やろうとするやつの目。
「なぁエフィ、俺たちとあいつらは何が違うと思う?」
違う、俺とあいつらは決定的に違う。俺はそれが何かを知っている。未だに、そうなるための方法は知らないけれど、だが少なくとも、俺が持っていないものを、きっと、エフィもまだ自覚できていないものを。
「……わからないです。違うのは分かるけど……アメイさんは知っているんですか?」
少しだけ、俺はためらう。ここまで来て、まだ怖い。言わなきゃいけないのに、言ってしまえば、自分が傷つく、その事実は、怖い。
「自分の生きる意味、自分の何を犠牲にしても、それでもそれだけは譲れない、”信念”だ」
”信念”。そんなちっぽけなもの。それでも、何に変えても譲れないもの。例えば、”誰かを守ること”。例えば、”誰かを癒すこと”。そんな、他人がきいたらちっぽけだと笑われるかもしれないもの。
しかし、誰かが「やらない」理由を並べ立ててる中で、そんなちっぽけな理由だけで、自分にも、他人にも言い訳をしない。
あいつらには、それがあった。だから、進める。自分がそうありたいという理由があるから、あいつらはまっすぐ進むんだ。
誰かの言葉に左右されず、自分の弱さに打ちのめされず、”知る”恐ろしさを知ってなお、進み続けるもの達の”信念”だ。
「……”信念”、それだけの、差なんですか?」
「ああ、それだけの差だ。その一枚が、俺たちとあいつらの差」
自分が”何者”でありたいかを知っているやつは、それだけ強かった。持ってない。その事実は、俺自身の首を絞めている。
「ならきっと、僕は一生二人に追い付けませんね。そんなもの、持っていないし、見つけ方もわからない。だから、逃げたんだ」
そういうエフィは、諦めた目をした。苦しい顔すらしない。逃げたという事実は、確かに、きっと見つけるためには、最も愚策で。
――お前は一度、進んでいるだろう? それは、誰の話だ?
「違う」
そうだ、違うんだ。俺も、こいつも、逃げたかもしれない。
「え?」
「エフィ、お前は逃げた先のここで、何をしている?」
俺はどうして、ヒビキさんがいれば俺は必要ないと思いながら、何をしている?
「……僕は、ダンジョンに挑んでいます」
俺は、それでもダンジョンに挑んだはずだ。
「どうして挑んでいる?」
どうして、無能でも挑んだ?
「……二人に誘われたから。違う、行きたいと思ったから」
思ったからだ。あいつらに、着いて行きたいと願ったからだ。
「ああ、エフィ。お前は確かに、逃げたよ」
俺は確かに、ハイカにあの二人を紹介されるまで、無能な自分に逃げていた。
「それでも、今、確かに進んでいるんだ。”無能”だと自覚しても、進んだんだ」
「……今の僕は、進んでいる」
そうだ、進んだんだ。その”事実”は確かだった。
「お前は、進んだ理由を知っているか?」
そんなものは、
「知りません」
「なら、まだ”前段階”だ。今は何も知らない。でも、進んだ事実がある限り、その”何か”を持っているのは間違いないんだよ」
”前段階”だ。俺たちは、まだ諦める前段階なんだ。
「エフィ、それでもお前は、まだ自分を貶め続けるか? 持っている何かを、知ってもいないくせに」
……エフィは、何も言わない。ただ、目の端に涙をためている。なんて情けない、”魔王様”だろうか。きっと、俺とこいつは違う。こいつは力がある。俺とは違う力を。自分が”何もできない”なんて思う理由は、きっと違う。
それでも、まだ”進み”続ける権利を持っていることは、同じはずだ。
「エフィ、少しだけ待ってやれよ。お前自身を、”何もできない”なんて思ってやるのは、まだ早いぜ」
エフィは涙を拭う。まだ、きっと自分自身を認められないだろう。まだ、どこに進めばいいかなんて、分からないだろう。
それでも、まだ、早いはずだ。諦めるには、俺たちと一緒にいる奴らがまぶしすぎる。その光が痛烈で、辛かった。それでもその逆行の中で”進んだ”のなら、まだ早いはずだ。
「……はい! まだ、僕はみんなと冒険をします!」
「ああ、そうしようぜ」
――なぁ、アメイ。お前はまだ、進めるだろ?
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