違う。
どうも、作者です。九十三話です。
「本当にあったな」
泉が少し意外そうにそうこぼす。それもそのはずだ。ここまで、道中見つけた宝箱をのぞけば一切道がそれずに下層への階段をたどり着いてしまった。
これで驚かない方がおかしいというものだ。言ってしまえば最短ルートでここまでたどり着いたことになる。
「ある意味で、ダンジョンの醍醐味をなくしてしまう行為ではあるのですが」
そう、少し申し訳そうに言うが、正直思ったより二、三層が厄介だった。
特に上下に進む構造は思ったより体力が持っていかれるため、パーティで一番体力のないエフィが少しバテている。
魔法の連続使用というのも精神的な体力を使うし、仕方がないことではあるが。
「ま、良いわ。大量の宝箱も見つけたしのう」
ヒビキさんの言うことを特に気にせず、ホクホクそうな顔をしているクラン。
まぁかなりの報酬を手に入れられたのは間違いない。正直、ここで引き返しても、数ヶ月は報酬で過ごせそうだ。
「とりあえず、今日はここで休みましょう。設営は私とアメイでやっておきます」
なんで俺なんだよ。と言いたいところだが、実際、一番体力が余っているのは俺だしな。ま、クイックサポーターがやるものでもあるか、一応。
ということで、俺はキャンプの設備を手際よく建てていく。
「アメイ、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ」
何で自分からこんなことを言い出したかと思えば、そういうことか。別に、俺は自分の役割を奪われたくらいで、癇癪を起こすつもりもない。それに、俺が言い出したことだしな。
「はぁ、ならいいですが」
それ以降、ハイカは何も言ってこなかった。俺の声が思ったより大丈夫そうだったからか、それとも逆だったからか。それは分からない。だが、少なくとも俺の心情はそれで理解したんだろう。
俺にとって、ハイカはある意味で血のつながらない姉のようなものだった。アイカと幼馴染である以上、ハイカとの付き合いもやはり長くなるもので、俺の幼少期から、ハイカとはずっと関わっている。実際こいつに逆らえないし。
とにかく、今は俺のことはいいのだ。どちらかというと、もう一人心配な奴がいた。エフィだ。ここまで、かなり活躍はしているが、それと同時に、足を引っ張ってしまっている部分もある。どっちかという活躍の方が大分大きいのだが、ああいう性格の奴は、失敗の方を重く見てしまう。
そして、そういうメンタルは、ダンジョン内では致命的だ。ただでさえ閉鎖的で重苦しく、精神に負担がかかる環境だ。そういう意味でも、泉とクランは怖ろしく強い。そんなダンジョン内でも、ケロッとしているのだから。
特にイズミに関しては、異世界に来てすぐの奴とは思えないメンタルの強さだし。どこで鍛えられたんだ。
設営を終えて、ハイカが料理をはじめ、エフィも手伝っている。エフィを料理の手伝いに誘ったのはハイカだ。あれも、沈んでいるエフィの気晴らしのためだろう。ハイカは、そういう気づかいができる奴だ。逆にあの姉が何ができないのか聞きたいぐらいである。
ヒビキさんと泉も何か話しているし、ちょうどいい。
「クラン、ちょっといいか?」
「何じゃ?」
一人で少しぼーっとしていたクランに話しかける。エフィが何故、あそこまで自分に自信がないかについて。
普通に考えたら、魔王という立場についているだけですごいことだし、努力もして、あそこまで魔法を極めている。少しくらい、自分も褒めてもいいと思うのに、どうして、そうなってしまっているのか。
「――ふむ、エフィの自信のなさか。単刀直入に言えば、もうそういう性質としか言えんのう……」
まぁ、そうだよな。クランもずっと、エフィに対して、そういう扱いだ。元からメンタルが弱くて、それを引きずらないように、クランが引っ張っているのは、何となくわかる。
「しかし、わしらがよく一緒に遊んでいたころより、確実にひどくはなっておる。あやつと再会した時、またいつもの感じで家出したかと思っておったが、こうして過ごしてみると、思ったより深刻かもしれん」
クランの目から見ても、エフィの自信のなさに磨きがかかっているのは間違いないらしい。家出をした理由――自分のすることがなく、無力だと思ってしまったから。それは、ある意味で共感できる内容だった。
「自分が無力だって思ったら、やっぱり人はそう立ち直れねぇよ」
周りに優秀な人しかいなくて、自分がやることがないとき……いや、自分が何もやる必要がないと気づいたとき、人は、楽ができるとポジティブに考えるか、それとも、自分の存在意義をなくしてしまうかの、どちらかだろう。
俺は後者だった。そしてエフィも、後者なのだろう。だから、エフィの家出理由を聞いたとき、俺は共感した。俺も、それを知っていたから。
「……”今”のお主は、大丈夫か?」
こいつは、突き付けてくる。俺の現状も、そうであろう、と。こいつは、嫌味でも、心配でもなく、ただ疑問として投げつけてきた。
クランの言い方はそんなものだった。疑問符を投げつけておきながら、まだ俺が折れていないと知っているかのような、そんな声音だ。
「あぁ、俺はまだ、”前段階”だ」
自分で言って気づく。そうだ、俺はまだ、”前段階”だ。自分が、無能だと言える、その前段階。俺の役割はすべて、ヒビキさんが代替してしまえると、そう突き付けられたのに。それでも、”前段階”だ。
どうして、そう言えるのかは、俺は分からない。
「な、それなら大丈夫じゃの。さて、エフィのことじゃが、今回わしはあまり役に立ちそうにないわい。少しの間ぐらいじゃったら、わしが知りを叩いてやれば立ち直るが……それではあまり意味がなかろう」
実際、クランの言葉には、エフィは強く出れる。だからきっと、クランといる限り、エフィは真の意味で折れることはないんだろう。実際、このダンジョン内にいる間はどうにかなるだろう。
――しかし、それでは、”これから”のエフィのためにはならない。だって、いつまで隣にクランがいるわけではない。それに、あいつは魔王だ。本人も気づいているだろうが、いつまでも、逃げ続けられる立場じゃない。
「すまんの、エフィのことは任せる。お主と、”あいつ”自身にな……ま、お主のことじゃったら、詰まったら言いに来るがよい、少しは力になってやろう」
普段はあんなに、人を振り回す癖に、こういう時は気遣ってきやがる。多分、こういうところだな、何がとはあんまり言えないが。
やはり、本人に聞いてみるしかないか。もしかしたら、本人にとって嫌なことを思い出させてしまうかもしれないが、多分そうしないと、あいつはここから先、やっていけなくなるだろう。
俺は今、”無能”になりかけているが、あいつは”有能”なのを自覚していないところだ。それなら、俺が正してやる必要が、あるのだろう。
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