背水の陣
どうも、作者です。九十一話です。
「クラン! イズミ! ”あの魔獣”の対処を二人にお願いします!」
部屋の扉は、ハイカさんが陣取っており、その後ろにエフィがいる。ハイカさんが基本的に魔獣を相手取り、エフィが魔法で残りを倒す。
マドハンド達の対処は、アメイとヒビキさんがやる。そしてサメの対処は
(わしらじゃな。泉、共有は全開で行くぞ。それと……”しょけんごろし”といくぞ)
(わかってる。俺もそっちで行く)
俺は小さな声で二つの詠唱を進める。現れた『魔鎖』を掴み、サメが飛び出すのを待つ。
あのサメが飛び出すとしたら、確実にエフィが詠唱した時だろう。俺たちは、マドハンドやラヴァハンドを気にせず、そいつが出るまでクランも俺も動かない。
俺たちはある程度サメから距離を取る。エフィはハイカさんの撃ち漏らした敵を単体魔法でつぶしていく。
相手もそれが分かっているのか、短文の詠唱では敵は現れない。来るとしたら、エフィの広範囲魔法の時、それまできっとあのサメは現れない。
「エフィさん、お願いします!」
ハイカさんの号令、エフィは魔力を集中させる。通路の魔獣を殲滅させるための魔法。あのサメなら、まず間違いなくそこを襲う。
それを証明するかのように、マドハンド達は大量に出現する。
「アメイ!」
「わーってる!」
アメイとヒビキさんがマドハンド達をつぶしていく。いくらでも湧き出るそのマドハンド達は、まるでエフィから遠ざかるかのような現れ方。
しかし、それに引っかかる二人ではない。二人は、エフィから遠いマドハンドは迎撃しに行かない。だが、それでもほんの一瞬、隙ができたのも間違いじゃない。
あのサメは、俺たちが間に合わない距離にいるとそう思うだろう。ここまで、俺が本気の加速を見せたことはなかったのだから。しかし、仕込みはもう、済んでいる。
泳がされていたのなら、今度は釣る番だ。サメは、予想通りに飛び出してくる。
俺は一歩、全力の一歩をもってエフィの元まで近づく。サメの尾ひれにあらかじめ出しておいた『魔鎖』を巻き付け、階段側まで投げ飛ばす。
スキルの『機動要塞』と魔法の『脱兎跳躍』。二つを掛け合わせた、現状の最速ステップ。
ただ、『脱兎跳躍』は、次の一歩の跳躍力を高める魔法であるため、動くことができない上、跳ぶためではなく、横に移動するために使うと異常に制御が難しい。ほとんどぶっつけだがなんとか成功した。
(泉! まだじゃ!)
わかってる。まだあのサメはエフィを襲い掛かるために動くだろう。つまり、吹っ飛ばされた反動からあのサメが復帰するための数秒が勝負。
俺とクランは急いで階段側へ近寄り、詠唱を始める。ここじゃないと、あっちの迷惑になるからな!
『獣どもよ、この音を聞け、衝撃の咆哮を』
『魔獣挑発』
階段全体に、その音は反響し続ける。あの部屋でやれば他の魔獣を引き付ける都合上、ここでやるしかなかった。
『魔獣挑発』、発動と共にすさまじい音を出し、その音を聞いた魔獣を発動者に釘付けにする魔法。その強制力はすさまじく、どんなに知能があろうとも、魔獣である限りは、確実に引き付ける。ただ、発動した時点で無差別で引き付けるため、さっきの部屋で使えば、通路から襲い掛かる魔獣たちの勢いが強まる可能性があった。
階段であれば、その心配はない。そもそもが来れない領域だし、音が閉じ込められてあまりあっちには向かわない……多分。
とにかく、これで鎖を伝ってあのサメにだけは確実に聞こえたはずだ。さて……
(このまま階段で戦うぞ、泉)
ここで戦うしかない。マドハンド達も階段では襲ってこない。階段で俺たちを襲うことができるのはあのサメだけ。つまり、こっちは二人だが、事実上のタイマンである。
クランも階段に侵入している。『魔獣挑発』は効果が続く限り、あのサメが襲えるのは、俺だけだ。鎖を引っ張ってみると、手ごたえを感じずもう鎖から抜け出してきたらしい。いつ来るかは分からない。
上か、下か、右か、左か。まさしく四方八方から襲い掛かってくる可能性がある。この階段はあの魔獣にとっても有利な場所。こちらが逃げれば、次のチャンスはいつ来るかわからない。だからこその、背水の陣。
前か、後ろか、それとも斜めか……どこから来る……
(背中!)
クランの声が聞こえ、俺は振り向き、その腕を後ろにやり、掴もうとする。サメは、俺の命は取れないと悟り、その腕を引きちぎろうとした。だが、腕の一本――すらもくれてやる義理はない。
サメの全力噛みつき。通常なら、きっとその噛みつきで腕は骨ごと食いちぎられていただろう。俺が装備していた、前のダンジョンで手に入れたこの”籠手”が、不変などという特性を持っていなければ。
サメの牙は籠手によって砕かれた。そして、依然として俺の腕は敵の口元に入ったまま。掴む物がなかったらどうしようかと思ったが、その杞憂は必要なかったな。
「クラン!」
「わかっておるわ!」
クランは俺が掴んだサメの元まで、駆け上がりながら、詠唱を始める。
『これは獣を破壊する一撃、さぁ今宿れ』
クランが詠唱は完成し、最後の”初見殺し”がクランの槌に宿る。
「ダンジョンの捕食者よ、もう少し、観察に徹するべきだったの」
『機動要塞』、『脱兎跳躍』、『魔獣挑発』、そして不変の”籠手”。ここまで、俺たちが使わなかった手札はそれなりにある。クランの言う通り、お前はもう少し、俺たちの手札を見るべきだった。
俺は、抵抗するサメの舌を、掴み続ける。今まで通りならば、確実に潜られていたが、口の中に異物が入った状態では、やはり地面には潜れないらしい……! 最初から逃がすつもりはなかったが!
「これで、終いじゃ」
――魔獣破砕。最後の初見殺しは、サメの頭上から振り下ろされ、すさまじい衝撃と共に地面に叩きつけられる。
サメの顔の部分は、見るも無残なほどにひしゃげ、沈黙した。
「ふぅ、討伐完了じゃ……他にはおらんよな?」
襲い掛かるとき、二匹以上いるのなら、一緒に襲い掛かってきただろうし、こいつだけだろう。それより……
「左腕、治してくれるか?」
籠手によって噛み千切られてはないが、衝撃はダイレクトに伝わったため、多分、骨がぐしゃぐしゃである。ついでに、クランが槌を振りぬくときにも、口の中に腕はいれっぱだったため、俺の腕も下に引っ張られ、肩関節と肘関節が両方外れた。
(はぁ、相変わらず人の仕事を増やすのう……)
(すまん、だけど、多分これが最善だ)
俺も痛いのは嫌だが、他の奴が傷つくよりはましだ。それに、どうせ『再生』とクランの魔法でどうにかなる。
(いや、わしも痛いんじゃが)
知ってる。でも、どうせ俺と一緒で耐えられるからな。さて、治したらあっちの援護だな。
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。




