後退戦
どうも、作者です。九十話です!
なんと、九十話です! 時間は早い。
泉とクランがエフィを守ったから良かったが、どうにかなった。だが、俺は役立たずだ。索敵が俺の仕事なのに、マドハンドもラヴァハンドも、ましてやあの土から這い出る魔獣すら、俺は報告できちゃいない。
……今、このパーティで一番の役立たずは、俺だ。いや、そんなことは分かっていた。元より、一番戦力になっていないし、このパーティで一番代用がきくのは、俺だった。
だから、知っていた。それを、ヒビキさんが理解しているのも、知っている。あの竜人は、思慮深く、その上で合理的で理知的な人だ。だが、それと同時に、すごく優しい人だということも、理解している。だから、俺は足手まといだ。
「……クラン! アメイ! 前方のラヴァハンドとマドハンドを一緒に対処を! 泉は、エフィを抱えたままハイカの援護を!」
ヒビキさんは、いつも通り、的確な指示を飛ばす。これだけ切迫した状況で、思考を止めずに指示を飛ばすとともに、戦闘もこなす。複数の動きをして、それでも一切パフォーマンスを落としていない。やはりこの人は、優秀だ。
「アメイ、報告を……」
「――ヒビキ、頼みが、ある」
その言葉に、ヒビキさんは少し驚きがにじんでいる。それは、どういう驚きなんだろう。俺の顔が、そんなにつらそうだっただろうか。それとも、俺が言いたいことを察してしまったからだろうか。
きっと、それを言ってしまえば、俺がいる意味はほとんど皆無になるかもしれない。それでも、いい。あいつらと――いや、なんで俺はあいつらと一緒にいるんだろうか、なんて少し自己嫌悪に陥りそうになるが、それを捨て去る。
今は、俺のことより、パーティを優先するべきだ。
「俺のことは、一切考えないでくれ、配慮なんて、一切考えないでくれ」
それが、今できる、俺の最善だ。
――俺は、ヒビキさんの指示通りハイカさんの方まで近寄る。ハイカさん、たった一人で、俺たちを襲い掛かる魔獣たちを的確につぶしている。
流石のハイカさんでも全部をつぶせないようだが、それでも俺たちの位置まで魔獣が来なかったのは、まさしくハイカさんの技術だった。魔獣が次から次へと襲い掛かる戦場で、一瞬にして優先順位をつけ、魔獣たちを倒しているのだ。
それでも、負担は計り知れないだろう。
「ハイカさん! 指示をくれ!」
俺は、エフィを抱えたまま、ハイカさんの隣まで立つ。エフィは少し苦しそうだが、耐えてもらうしかない。
(エフィから目を離すでないぞ! あのサメはそ奴を狙っておるからの!)
それは分かってるが……
「泉さん! 私の死角をお願いします! 撃ち漏らしがあれば突き飛ばしてください!」
「了解! エフィ、揺れるが耐えてくれ!」
「っ……はい!」
俺はハイカさんの指示通りに、ハイカさんの死角に入りフォローする。ハイカさんには万が一もないと思うが、ハイカさんを常に守れる位置で後退し続ける。いざとなれば、『設置』魔法を……
(泉、あまり手は見せない方がいい)
そう、クランが言った。どうしてなのか。
(エフィのこととも関係があるが……)
互いの戦闘がおろそかにならない程度に、会話を続ける。多分、重要な話だ。
クラン曰く、あのサメは、俺たちの手の内を知っている。いや、厳密には探っていたらしい。つまり、ずっと後ろからついていた可能性が高いとのこと。
つまり、俺たちはサメに泳がされていたという訳だ。なんともいやな話だが。
確かに、それなら納得できる。さっきからエフィを執拗に狙っているのもそういうことだろう。エフィはこのチームの要であり、弱点だ。魔獣の群れを一気に殲滅できるが、それと同時にエフィは、詠唱中どうしても無防備になってしまう。
それをあのサメがずっと見ていたのなら、エフィが狙われる理由もわかる。だが、それは理解できるが、ずっと後ろから監視されていたというのは……
(マドハンドやラヴァハンドと一緒じゃ、あやつらも完全にアメイの索敵に引っかからんじゃろう)
そうか、あの腕たちも、アメイの索敵に引っかかっていない。あのサメも、土の潜るという共通の性質がある。なら、アメイの索敵に引っかからないのもうなずける。
だが、クランの言っていた意味が分かった。なら、今もあのサメは俺たちを殺す機会をうかがっている。つまり、俺たちの行動は逐一監視されていることになる。つまり、手の内をさらすのは、危険だというのは理解した。
俺たちは後退していく。もうすぐ階段までたどり着くはずだ。そこまで行けば、魔獣たちは追ってこれない。
だが、魔獣も、マドハンド達も一切減る気配がない。この感じ、あの部屋にいた魔獣だけじゃなく、その先にいたであろう魔獣まで襲いかかってきているな。
「キリがない……はずれもはずれですね……」
はじめて、ハイカさんから愚痴がこぼれる。今まで一切余裕を崩さなかったハイカさんが、だ。それほどまで、俺たちはかなり大変な状況に巻き込まれているのは違いない。そういう割に、ここまで動きに一切無駄がないわけだが。
だが、クランの視界が階段を捉える。俺たちが行くべき場所はもうすぐそこだ。
クランが真っ先に階段に入る。二階まで上がれば、魔獣の襲撃はいったん収まるはずだ。とにかく、一人ずつ、階段に上がれば……
「「!」」
『『交換!』』
俺はエフィを上へ軽く投げ、クランと位置を入れ替える。俺はそいつに盾を構える。しかし、狭い空間では踏ん張りがきかず、壁と盾に押しつぶされる。この程度なら問題ない……!
クランが階段に上がった瞬間、現れたのは目の前のサメだった。さっきから襲い掛からなかったのは、これが狙いだったわけだ……!
俺はサメを逆に押し返し、何とか階段から部屋に戻る。
索敵に引っかからないというだけで、あのマドハンド達は厄介だった。だが、こいつはそれ以上だ。単純に戦闘能力が高く、その上でこっちの動きを見て行動を変える知能がある。
お陰様で、階段を使うのはほぼ不可能になった。あの魔獣は、今まで他の魔獣が侵入できなかった階段に侵入できる。そうじゃなければ、この魔獣は俺たちを追いかけられなかったわけだしな。
通常、魔獣は階層を移動できないという話だが、例外はいるものだろう。何より、あの狭い階段でサメに襲われたら逃げ道がないし、俺も防御が間に合わない。
「……皆さん! この部屋で魔獣を待ち構えます!」
確かに、階段があるこの部屋は広い。階段が使えない以上、そうなるだろう。幸い、魔獣は相当数減らしているはずだ。一層の時のように、三層中の魔獣が集まっているわけでもない。
問題は……
「クラン! イズミ! ”あの魔獣”の対処を二人にお願いします!」
サメの対処。それを二人で、か……しかし、今はやるしかないだろう。
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