未だ序盤
どうも、作者です。八十七話です。
「あっちは問題なし!」
「了解です。ハイカさん、イズミさんと『交換』を!」
『『交換』』
俺はクランと位置を入れ替える。さて、もう一度この道を攻略することになるが……次は多分もっと楽だ。
何故なら、前の通路はハイカさんがもう殲滅している。問題は下の魔獣たち。さっきは、ハイカさん一人だったからいいが、今度は四人。両端からの攻撃を、防ぐのは難しいわけだが……
「エフィ、左の敵、全てお願いします」
「は、はい!」
そう、エフィの火力がある。あの細い道かつ敵からの攻撃が絶えない場所で広範囲魔法を放つのは本来なら厳しいが、俺とハイカさんである程度の安全性は確保した。
「エフィの詠唱が完成するのと同時に中に入り、左の敵を殲滅、その後は次の部屋まで駆け抜けます」
その言葉に俺たちはうなずく。とりあえず、俺の役割は守りつつ駆け抜けるだけ。それにしても、クランだけ楽できてるのは何か許せないな。
(お前と変わったんじゃからしょうがないじゃろ! ヒビキさんの指示じゃし!)
それは分かってるんだが、まぁいい。
(しっかりフォロー頼むぞ)
(わかっておるわ!)
エフィが詠唱を始める。この詠唱中も油断はしない。あっちの部屋にも何時魔獣が来るかわからないしな。
『天焦がす炎よ、我が声に応えよ。荒ぶる炎は、円環をなして、天にこだませよ。そうして、獣どもを燃やし尽くせ』
エフィの詠唱が完成すると同時、俺たちは通路へ飛び出す。エフィは通路へ入るとともにその完成した魔法を左下の敵に放つ。
『火炎嵐!』
左側の地下三階層部分は一瞬にして炎の渦に包まれる。敵からの弓矢も、いくつか飛んできたか、炎に阻まれてこちらには届かない。何より、それ以降、追加の弓矢すら飛んでこない。恐らく全滅、やはり威力が桁違いである。
それでも、まだ右側からは敵からの攻撃が飛んでくる。そっちは俺の役割だ。俺は盾で三人に当たりそうな弓矢を全て弾いていく。とはいえ、通路を駆け抜けるだけならさして時間はかからない。そろそろ、あっち側に到達する。
あとは、入るだけ……警戒はしておくものだな!
(クラン!)
(まかせい!)
「え?」
道のわきから、複数の手がエフィを引きずり落とそうと足を掴んでいる。しかし、織り込み済みだ。
最初に気づいたのはクランだった。あの”マドハンド”が一切出ていないと。確かに、マドハンドが一層にしか出ない可能性もあったが、その可能性は薄いだろうという予感はあったため、それを警戒していたのだ。
あの魔獣なら、タイミングを見計らって、ここぞという場面で、つぶしにかかるだろう、と。
クランはその手、マドハンド達を一発で吹っ飛ばす。それでもあきらめず、今度はアメイに絡みつこうとしたが、二度目かつ、アメイ相手では流石に通用しない。アメイは軽々と避け、ついでに処理もしていた。
とはいえ、その行動自体が厄介なものでうまく部屋に入れない。つまり、下の敵からの攻撃は止まっていないので、その間もエフィたちに矢が当たらないよう防御はしていたが。
とにかく、想定内の問題は起きたが、想定内だったので問題はなかった。結果的に全員無傷であの部屋は突破できたな。だが、
「最初から結構重くないか?」
「まぁ、お前らが選んだ通路だしな……」
「わしらに罪を擦り付けるではないわ!」
確かに選んだのは俺たちだが、それに同意したのはみんななのだから俺たちのせいではない。
「まぁまぁ、無事に突破できたので良しとしましょう。それに、他の通路も同じだった可能性が高いですから」
「……ま、どのみち二、三階層全体通してみれば、似たような通路にはぶつかってただろうしな」
アメイは少し、考えてそう言った。まぁ、あの部屋だけ特別、というのはあり得ないだろう。逆を言えば、この階層全体であんな場所だらけなのは間違いない。
それにしても、またエフィが肩を落としている。最後のあれを気にしているんだろうが、別に落ち込むほどのことでもない。
「おら、エフィはいつまで肩を落としているんじゃ!」
そう言って、クランがエフィの方を叩く。あまり痛がっていないようなのでちゃんと手加減したらしい。
「ああ、むしろあそこを簡単に突破できたのは、エフィのおかげだろ」
その言葉を聞いて、エフィは落としていた肩を何とか持ち直し、一度大きく息を吸ってから、頬を叩く。
「そ、そうですね! どうにか切り替えます!」
その言葉の時点であまり切り替えられていない気はするが、まぁ本人がそう言ったんだ、切り替えられるだろう。それに、落ち込んでいても、エフィはちゃんと仕事をこなすしな。
「あまり警戒を怠らないでください。ここはセーフティではないので」
「そりゃそうだな」
突破した喜びでそんなことを話していると、ハイカさんからおしかりの言葉を受ける。確かに今のは緩んでいたか。
とはいえ、この部屋に数分いるが、どうも近くに魔獣はいないらしい。
「多分だけど、この部屋から伸びてる通路が全部階段だからだな」
「階段だから?」
「ああ、ダンジョンの魔獣は原則、自分が生まれた階層から動けない。つまり、魔獣にとって、階段は行き止まりなんだよ」
なるほど、確かに魔獣が階段を上がったり下がったりしているところは見たことがない。もしかしてだが、階段回りがセーフティエリアになっているのはそういう事情があるんだろうか。
というか、この先に繋がっている道がすべて階段だということは、今度は下に下るという訳か。任せきりの俺がいいのもなんだが、マッピングがかなり大変そうである。
「さて、今度はどうしますか?」
あ、そうか、ここもいくつか分かれ道があるということは、次行く道を決めなければいけないということだ。今度は三叉路、前と左右に分かれた道なわけだが
「「今度は右/前じゃな」」
今度は分かれた。そしてこうなれば、
「……じゃあ、左だな」
まぁ、そうなるよな。さっきは俺たちが選んだ道で過酷になったのだから、なら逆に選ばなかった方に行ってみるというのは手だろう。
ということで降りるが、そこは……真っ黒に焦げた骨が散らばっていた。ここは、さっきエフィが魔法を放った場所か。
「やっぱり正解だったか」
確かに、ある意味正解だった。元より敵を殲滅したところに来たのだから。それに、ここもここで道は繋がっているから、前には進めそうだ。
俺は上を見上げる。やはり、二階まではそれなりの高さがある。感覚的に言えば、七、八メートルぐらいだろうか。しかし、こういう地形であれば、俺なら登れそうである。『脱兎跳躍』を二連続で使う必要があるから、気軽には登れないだろうが。
「それにしても……」
「どうしたんですか?」
ヒビキさんが何かをつぶやいた。自分の言葉に気づいたのか、こっちを振り返る。
「どうしたんですか?」
「何でも……いえ、そうですね。違和感は共有しておくべきでしょう。個人的に、序盤とはいえ、敵が弱すぎる。それに、純粋に数が少なすぎる気がします」
確かに、現れたのはバラハロという鳥が一匹と武装スケルトンのみ。最初の通路とはいえ、弱い感じは否めない。
まだ、何かあるのだろうか。何より、その違和感をヒビキさんが感じたという事実は、きっと何よりも重い。
「前方、敵が来る!」
アメイの報告、やはり、ダンジョンとのせめぎ合いは、始まったばかりだ。
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