家出魔王と勇者の娘
どうも、作者です。八十五話です。
俺とエフィ、ヒビキさんの三人は、何とか階段のある中心地にたどり着く。だが、俺の仕事はまだ終わっていない。
(クラン、”交代”だ)
ヒビキさんから言われたのだ。中心地に到着した時、前衛組が階段に到達していない場合、クランと位置を入れ替わってほしい、と。
(そういうことか、頼む!)
クランと視覚を接続し、俺たちの状況を共有する。こっちはもうたどり着いたと理解したクランと、位置を入れ替える。
『『交換』』
「盾は必要か?」
「「……もちろん」」
二人は一瞬きょとんとしたあと、笑って返事をしてくれる。さて、強行突破といこうか。
「泉さん! アメイを頼みます!」
俺は軽く返事をして、アメイの防御に専念する。そうしておけば、後はハイカさんが暴れるだけでいい。
ハイカさんは一切容赦なく突き進んでいく。しかし、速度で言えば俺もアメイも負けていないため、特においていかれることなく後ろを追いかける。
「道はもう」
「あとは階段までの道だけだ!」
つまりほとんどマッピングは終わってるらしい。なら本当に後は階段までたどり着くだけだ。
「――! ありました!」
ハイカさんがそう言った先には確かに道がある。恐らくあそこが中心地。そう思っていると、ぴょこっと誰かが出てくる。クランである。
俺たちが階段への連絡路に入る。やっと……全員集合だ。
「はぁ……はぁ……」
「み、皆さん大丈夫ですか!」
エフィが俺たちに駆け寄って心配そうな顔をしている。さっきまで俺はそっち側だったんだがな。
「そっちこそ、大丈夫だったのか?」
そんなことを考えていると、アメイが逆に聞き返す。エフィは自分もピンチだったことを忘れていたのか、少しきょとんとした顔して、笑った。
「はい……二人のおかげで」
二人というのは、俺とヒビキさんのことだろうが、こっちとしてはエフィがいなかったら、やばかったと思うがな。
「おう、こっちも盾持ちのおかげで無事だったよ」
「それだとわしが役立たずみたいではないか!」
クランの怒った表情に、誰からともなく笑い声が漏れる。ああ、トラブルもあったが……一層攻略完了だ。
「どうする? このまま二層に行くか?」
「流石に今日は休みましょう……二層以降も厄介そうですし、何より想像以上に体力は消耗していますから」
それに俺たちも同意する。流石に今日は疲れた。それに、せっかくのセーフティポイントだ。ここできっちり休んでおいた方がいいだろう。
「お主たち、傷があったら小さくても言うんじゃぞ!」
クランがそう言って、各々自分の身体を確認している。俺はどうせ『再生』で治るため、一足先にキャンプの準備を進める。
というか、傷があった場合、クランが痛覚共有を強めて俺の傷の有無を確認してくるため、まぁ特に何も言われなかったということは特に何もなかったのだろう。
(お前は『再生』に頼りきりじゃ! 動きまくってただでさえ体力消費が激しいのじゃから、少しでも魔法で治した方がいいじゃろう!)
それは、そうなんだが、俺より他の奴を優先した方がいいだろう。飯を食えば治るのだから。まぁ、ダンジョン内では食料は限られているから、正論と言えば正論だが。
さて、今日はしっかり休もう。今日は精神的に疲れたが、明日からは確実に肉体的な疲労がともなうし、むしろ明日からが本番といってもいいだろう。
――みんなが寝静まった時間。僕は一人で火を眺めていた。クランも流石に休眠に入ったほうがいいと判断したのか、今日は珍しく眠っている。本人は眠る必要はないと言っていたが、寝た方が回復が早いのは確かだし、使うエネルギーも少ない。ダンジョン内という環境を考えればそっちの方がいいだろう。
そんなことを考えながら、休んだ方がいいと理解しつつも、眠れないでいた。今日は……随分と皆に迷惑をかけてしまった。
イズミさんとヒビキさんには、何度もフォローしてもらった。何よりイズミさんには、背負って移動までしてもらっていたのに、自分は魔獣を何度も打ち漏らした。
バレンさんが作ってくれた、自分の体のサイズに合わせて作られた杖のおかげで、精度も上がっているというのに。
それなのに、それでもあんなミスをするのは本当にダメだ……。
「――何を頭抱えてるんですか?」
僕は驚いて叫びそうになるのを口でふさぐ。声をかけてきたのはハイカさんだった。”勇者”の娘で、アイカちゃんのお姉さんで、多分このパーティで一番強い人。
あと、僕にも戦い方を色々と教えてくれた、中々実践できてないけど。それでも、二日に一回ぐらい気絶させられた気がするけど、懇切丁寧に教えてくれた。
「ど、どうしたんですか? ハイカさん」
「いえ、あまり疲れていないのと、いつも通りの時間に起きるのが慣れてしまって」
疲れてない……? 慣れる……? ツッコミどころが多すぎてフリーズする。つまり、あれだけの戦闘をこなしてあまり疲れておらず、その上で体内時計がすごく正確……ってこと??
「まぁ、私のことは気になさらず。貴方こそ寝ないといけないと思いますが、どうしたんですか? 」
すごく気になるけど……駄目だ。聞く勇気がないし、かといって自分のことを話すのもなんだか恥ずかしい。僕はついつい黙ってしまう。
「……そうですね、クランさんに聞いた話と今まで一緒に過ごした経験から考えるに……自分のミスを責めている、と言ったところでしょうか?」
「ぇ……?」
僕は何とか声を抑えるけど、ハイカさんは何か生暖かい雰囲気(多分笑ってる?)を醸し出している。や、やっぱり人にばれるのって恥ずかしい。
恥ずかしいけど、これは逃げられる雰囲気ではない。言ってしまうしかないだろう。
「……はい、分断されてから何度もイズミさんとヒビキさんに助けてもらって、情けないばかりで」
「なるほど……私が一つ言えるとしたら、それは良いことです」
ハイカさんは、そんなことを言ってきた。良いこと……なんだろうか。自分の力がもっとあれば、最初から迷惑をかけることさえなかったのに。
「誰かに助けられるというのを、悪いことと捉えるのは、私はあまりお勧めしません。もしそのようなふるまいの中に”悪”があるとするなら、それを当たり前と思いこむことです」
当たり前だと思い込むこと……そうだ、それに慣れて、”何も感じなくなった”時……僕は心底恐くなった。なら、それは良いことだったのだろうか。
でも、ハイカさんの言っていることは、とてもすっと入ってくる。この人は本当に不思議な人だなと思う。すごく優しくて、見た目は少女のようなのに、その芯には、騎士の精神と、己を探求し続ける強さにあふれていた。
「それに……貴方は強い。恐らく……いえ、これは今は違うことですね。仕切り直しますが、貴方の魔法は、私達にはないものです。もし、貴方が何もできないと思ったのなら、どうか貴方の魔法で返してください。それが私たちにとっても、最善になる」
そうだ、僕はこの”黄金羅針”で唯一の純粋な魔法使いだ。だから、魔法で返さなきゃいけない。ミスだって、それで返すしかないんだ。
「……はい、でもハイカさんの魔法だってすごいと思います。正直、僕いらないんじゃないかと思うくらい」
「確かに、私も魔法による”援護”はできるでしょう。ですが、”殲滅”は貴方にしかできない。その意識は、持ち続けてください」
確かに全体攻撃魔法は、魔法職としてちゃんと使っていかなきゃな。僕は握りこぶしを作ってハイカさんのアドバイスを頭に刻み込む。メモ用紙……持ってくればよかったな。というか、流石に眠いや。
「それにしても、こうしてあなたと話すのは不思議な気分ですね」
僕はあくびをしていると、不意にそんなことを言われる。確かに、ハイカさんと一対一で話すのはあまりなかったけれど……。
「そ、そうですか?」
「ふふ、貴方が気づいていないならいいです。そろそろ眠いでしょう? 外はそろそろ朝方でしょうが、ダンジョンでは通用しませんからね。寝れるときに寝た方がいいでしょう、おやすみなさい」
僕はうとうとするのを少しだけ抑えて、軽く相槌を打ってから、床に就く。明日は、少しでも役立てるように、頑張ろう。
読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。




