突破
どうも、作者です。八十四話です。
『石よ、獣を撃て!』
『石弾』
前から現れるスケルトンをエフィが土魔法で迎撃していく。敵は耐魔が低いのか、最初の魔法で威力が低い単体対象の『石弾』で、二、三体ほど一気に吹き飛ばされた。
それでも、かなりの数が残っている。エフィは残ったスケルトンに対して、何度も『石弾』を放つ。魔法を撃っている間も数体のマドハンドがエフィを狙ってくる。俺は、エフィの魔法攻撃を邪魔しないように、来るマドハンドを盾で防いでは吹き飛ばす。
「スケルトン、迎撃しました!」
「移動します!」
『精兵よ、加速せよ!』
『加速指令!』
ヒビキさんは速度上昇のバフをかける。これで移動速度は上がったが、それでもエフィの速度は俺たちに比べて遅い。
「エフィ乗れ!」
エフィは俺の背中についている取っ手を掴み、くぼんでいるところに足を乗せる。俺はそれを確認して、ヒビキさんを置いてけぼりにならない速度で走り出す。
「エフィさん、その状態で前からくる敵を攻撃できますか!」
「や、やります!」
「なら、前だけに集中してください! 後ろは無視します!」
ヒビキさんはできる限り止まらない方針を打ち出す。行き止まりに当たったとしても、ある程度なら強行突破は可能だ。
敵は一気に襲い掛かるのではなく、五体から十体ほどのスケルトンが次から次へと現れる。その度にエフィは、速度重視の魔法で撃ち潰す。
ヒビキさんが最初に短文詠唱を優先しろと言ったのはこれか。敵がまばらにしか来ないから、詠唱時間が長く魔力消費が激しい全体攻撃より、短文詠唱の方が効率がいいし、移動しながらなら、全体攻撃は、俺たちの道をつぶす可能性があるわけだ。
「……しまっ!」
スケルトンが一体抜けてくる。しかし、これぐらいならば……!
『我を害するもの達を吹き飛ばせ!』
『衝撃』
俺は盾に付与を施し、その状態で敵にシールドチャージを敢行する。スケルトンはすさまじい勢いで遠くまで吹っ飛んでいく。
「す、すみませ……!」
「横です!」
油断した隙に、マドハンドがまた襲い掛かってくる。しかし、それはヒビキさんが倒す。
「大丈夫か! エフィ!」
「……はい!」
エフィは苦しそうだ。多分怪我をしたとかではない。ミスを連発して足を引っ張ってしまった感覚があるのだろう。しかし、それは俺も同じだ。今、エフィはマドハンドから俺も守れなかった。とはいえ、それを言っている暇はない。
むしろ、ここでおかしいのはヒビキさんだ。指揮とマッピング、そして接近したマドハンドの迎撃と三つの仕事を一切無駄なくこなしている。このマルチタスクをしておきながらミスをしていないヒビキさんがすごいのだ。
「少し休憩! 数秒ですが、息を整えてください!」
周りに敵がいないことを確認したヒビキさんの言葉に従って、俺は少しだけ息を整える。
「エフィも疲れてないか」
「移動はすべてお任せてしまっているので、全然大丈夫です!」
少しだけ空元気も入っているだろうが、魔力が減っているとき特有の疲労感が顔に出ている様子はない。というか、エフィが魔力切れを起こしているところは見たことがないが。
「……そろそろ移動します!」
「了解!」「はい!」
――もう何度、道を折り返したかわからない。もう最初と同じ方向に進んでいるのか、中心地に近づいているのか、遠ざかっているのかさえ分からない。
ここまでで、昨日の数倍は魔獣と戦っている。多分本当にこの階層の魔獣たちがここに来るように誘導されてるな。
これは、あっち側にも相当数の魔獣が送り込まれているな。大丈夫だろうか? というか、この階層、こんなに魔獣がいたのか。どれだけ迷路が複雑か分かるな。
「ヒビキさん! あとどれくらいだ!」
「もう中心地目前まで来ています! あとはそこにつながる道さえ見つければ……!」
どうやらもうすぐらしい。中心地まで行けば、階段近くは基本セーフティポイント。魔獣たちは基本そこには入ってこない。
「イズミさん――」
あっちも無事だといいんだが。
「――クランさんは、前衛で暴れてください!アメイはマッピングに集中! 両方のフォローは私がします!」
ヒビキ殿はわし達にそんな指示を送る。わしらはそれに対して疑うことすらなく実践し始める。今はハイカ殿の指示通りに動くしかない。
言われた通り、目の前から現れたスケルトンたちを迎撃していく。武装したスケルトンたちは、強くはないし、数も多くない。むしろ厄介なのはマドハンドたちだ。唐突に現れるし、数がそこそこ多い。
しかし、そこは植物魔法でフォローできる。数が多いが、今のわしならば苦戦することはない。案外、泉がいなくても何とかなるものじゃの。まぁ、二層以降はこうはいかないだろうが。
「アメイ、マッピングはできていますか! 速くないですか!」
「……むしろ遅いくらいだぜ!」
「残念これが最高速度じゃ!」
わしの速度的にこれが限界である。これでも『夜行』のスキルで速くなっているが、それでもこれが限界だ。くそっ! こういう移動面ではやはり泉が欲しくなるのう!
だがやはり、わしの足の遅さがここでは致命的だ。移動速度が遅いということは、その分敵が次から次へと現れることになる。迎撃はできるが、そうなれば中心地に近づくのはどんどん遅くなる。そうなれば疲労もたまる。あまりうかうかはしてられない。
アメイは、一切止まることなくマッピングを続けている。時に魔獣に邪魔されながら、走りながらずっとだ。そのせいか、顔に一切の余裕がない。それもそうだろう、もしアメイがミスをすれば、それだけわしらの到着が遅れ、負担が増える。
「アメイ、あまり気負うなよ!」
「わーってるよ!」
そう言う割には辛そうだが、これ以上かける言葉はない。
「いったん小休止を取ります!」
「っぷは!」
アメイは極限の集中の中でマッピングをつづけた反動か立ち止まった瞬間に、大玉の汗を拭き出す……正直、わしの遅さのせいもあるので申し訳なさがある。
それにしても、ここまで移動していて思ったが、やはりハイカさんはすさまじい。アメイに襲い掛かる敵を完璧に迎撃しながら、わしが打ち漏らした敵も魔法でフォローしている。
”魔法剣士”……ハイカ殿の今のメインジョブだが、名前の通り、魔法と剣撃、どちらもハイスペックにこなす職業だ。前までは魔法をほとんど使わない近接アタッカーだったらしいが、今の魔法剣士としてハイカさんも強い。
というか、魔法なしの剣の技術だけで頂点にいた事実が恐ろしい。
「そろそろ再開します!」
「おう!」「うむ!」
――どれだけ時間がたったかわからないが、数十度は敵と接敵して全部なぎ倒した。正直、体力より集中力が切れそうだったがまだどうにかなる。やはり敵の数が少ないのならまだどうにかなる。
しかし、やはり速度の問題だ。明らかにアメイに余裕が出ている。道の指示が段々的確になっている。恐らくだが、中心地までの道のりはほとんど分かっているのだろう。
どうにか、もっと早く――!
(クラン、”交代”だ)
突然、泉から視覚の共有が来る。そこに写っていたのは……階段だった。つまり、そういうことだ。
――一層攻略完了。大分時間がかかったが。
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