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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
悠久忘れぬ■■の景色
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英雄とは

どうも、作者です。七十五話です。

まさか、マゼランが俺たちの正体を知っていたとは……いや、あいつは最初から何考えてるか全くわからない奴だったが。


俺は急に来た重大情報に椅子に座りながら上を見る。


「泉さん、あっちで何かあった?」


そう言って俺の顔を覗き込んできたのは、隣に座っていたアイカだった。


「まぁ、あったが……後回しになった」


「うん?」


正直、マゼラン周りは話すのが普通に面倒なので、まぁ機会があればいいだろう。正直、あいつが敵だとは思えないし、それにあいつが本気で企んだ場合、痕跡は残さない気がする。ということであいつのことは放っておいておこう。


俺たちは、クランたちがバレンさんのところに行っている間、ギルドの資料館に訪れていた。ここにいるのは、俺とアイカ、そしてヒビキさんの三人だ。


俺たちは、どのダンジョンを攻略するかの情報を探すために資料館の未攻略ダンジョンの資料エリアで、色々と情報を集めていた。


「はぁ、とある商人のことだ……考えるだけ無駄な奴だ」


「あぁ、それならそうかも」


アイカでさえこの認識なのだから、マゼランの意味不明さは尋常ではない。


「お二人とも、何か見つけましたか?」


「いや、あっちでちょっとトラブルが起きた」


「問題はなさそうですか?」


俺はうなずく。まぁ、大丈夫だろう。


「それならいいですが……資料はどうですか?」


「結構集まったよ!」


そう言って、アイカは机の上に置いていた紙をヒビキさんに渡す。それは、資料館に置いてあった資料から、アイカが俺たちの適正レベル帯のものをまとめてメモ書きしていたものだ。


ギルド嬢なだけあって、まとめるのも、メモ書きの速度もアイカは速かった。ギルド嬢をやっていると、『速記』や『速読』といったスキルが成長するらしい。普通に便利だな。


「これ、アイカがほとんどまとめたから俺いらなかったな」


「そんなことないよ! 泉さんがいてくれたおかげで楽しかったよ!」


それは、俺に役立ってはなくないか? せめて高いところの資料が取りやすかったって言ってくれ……それもあんまり役に立ってないか。


「ふふ、相変わらず仲がよろしい……それにこの資料も見やすいです。ありがとうございます、アイカさん」


アイカは休みの日にわざわざこうして手伝ってくれたのだからありがたい。


「ありがとう、アイカ」


「えへへ……でも、まだ集めただけだからね、もっとまとめなきゃ!」


まだまだやるぞと、アイカは余計張り切っている。これは、ますます俺いらないな。


「それにしても、資料館ってこんなところもあったんだな」


ここに来るのは三度目だが、まだ見ていないところがあったことに驚きだ。前まで見ていたところは展示ブースで、ここのような資料コーナーは読める人が少ないので、目立たないらしい。


そればかりか、奥にはまた別の資料が置かれた場所があるらしく、本当にいろんな情報を保管してあるんだなと実感する。


「私たちは資料をまとめておくので、見てきたらどうでしょうか?」


俺が少しあっちの資料保管庫に興味を引かれたのがばれたのか、ヒビキさんはそんな提案をしてくる。正直、俺がいても力にあまりならないし、ヒビキさんがいるならアイカも退屈しないだろう。お言葉に甘えさせてもらうか。


「そうさせてもらうか」


「うん、こっちはまかせて!」


ということで、資料館の奥に行く。こちらは、先ほどのダンジョンの情報が載ったエリアよりずいぶんと本が多い。こっちは図書館のような感じだ。


いろんな本が置いてあり、どれを見ようか迷ってしまう。そう思って見回していると、なんと『文化紀行記』のコーナーまである。その著者がそこでダンジョンの資料集めをしているのだから不思議な気分だ。


俺はいろんな本を手に取ってはパラパラと少しだけ読んでは閉じるのを繰り返す。冒険者職に関する本や、武器の種類など、大半は冒険者に関わる情報だ。何故か料理本も置いてあったが。


俺はふと、一つの本が目に留まる。『英雄・勇者録』と書かれたその本は、特別な装飾がされているわけではない。だが、”勇者”の名前は、何よりも気になるものだった。


俺はその本を手に取り、一番最初のページをめくる。


”英雄とは、誰かを救い続ける者の称号だ。時に己のすべてすら賭して”


そんな、大げさなキャッチコピーが始まっていた。確かに、英雄とはそういうものなんだろう。人を救い、時に自分さえ犠牲にする。


――それは、どんなに過酷なことなんだろうか。何より、救うことはあまりに途方がなく、時にその英雄たちを縛る。それでも、彼らは貫くのだろう。そして、この世界にたくさんのものを残すのだろう。


俺はページをパラパラとめくる。いろんな英雄が載っている。歴史上最初の勇者から始まり、獣人同士の戦争を終わらせた獅子。料理で人を救った少女。聖王国で最も多くの者を救ったと言われる槌持つ聖者。


そして、最後の数ページ、そこに載るのは、歴史上で最も強いと言われた小国の”理想の騎士”と、世界を旅し続けた、”太陽の勇者”。


彼らはどれほど強かったんだろうか、そして、どうして英雄と呼ばれるまで行動し続けたんだろう。俺にはあまり、想像できるものではないな。


この中に、あいつも、”最新の勇者”もいつかはここに載るのだろうか。きっと載るのだろうな、優しいやつだし。


(何、感傷に浸ってるんじゃ?)


本を閉じようとしたとき、クランの思念が伝わる。


(別に、そういう訳じゃない。”英雄”なんて……すごいなと思っただけだ)


「そうか」と、クランは興味を失ったように伝達を切る。気遣ってくれたのだろうか、まぁ別に落ち込んでいるわけではないのだが。


「泉さーん、まとめ終わったよ~」


そう言って、アイカがこっちに向かってくる。そして、俺が棚に戻そうとした本を見る。


「あ……それ」


アイカは少し悲しそうな、でも嬉しそうな複雑な表情をしている。彼女にとって、勇者は一人の父で、もう会えない人だ。彼女は、俺が持つその本に触れて、口を開く。


「いつか、泉さんもここに載っちゃうのかな」


……それは、考えなかったな。俺は多分、ここには載らない気がしたから。俺は、この街の、この資料館の片隅に載っているくらいが、ちょうどいい。


俺は彼女の頭に手を載せる。いつか、死するとしても、どうか彼女が笑って別れられるようにしよう。


「アイカ、笑ってくれ。お前にはそっちの方が似合う。それに、俺は多分、英雄にはならんさ」


「どうして?」


どうして、か。どうしてだろうか。少しだけ考える。俺は人を守り続ける。それは、間違いない。それでも、どうしてそう言ってしまうのか。


「俺はきっと、全ては救えないから。俺が守れるのは、この手の届く所までだ。俺が守りたいと思える相手だけさ。俺は、俺の好きな人たちが笑って過ごしてくれるなら、それでいい」


それはなんて自己中心的な考えだろうかと、言っていて少し思ってしまう。


アイカは、俺の言葉を聞いて、笑うでも、泣くでもなく放心している。大丈夫だろうか。そう思って様子を窺っていると、彼女は少しだけ涙目になりながら声を上げて笑う。


「……あはは! それじゃあやっぱり、泉さんは英雄になっちゃうよ。でも、そうだね、私の大好きな泉さんはそんな人だもんね!」


俺は照れくさくて、少し頭を掻く。そうか、その生き方では、アイカの中では俺は英雄になってしまうらしい。まぁ、それでもいいんだが。


「行こ、泉さん! 次に挑むダンジョン、決めなきゃ!」


……そう言って、アイカは扉に向かう。そうだな、英雄になろうがならまいが、その前にダンジョン攻略だ。


俺はアイカについていき、さっきの部屋に戻る。扉を開けると、その横でヒビキさんが待機していた。俺たちがなかなか戻らないから、こっちに来ようとしたんだろうか。


「かっこいいですね、貴方は」


俺たちの会話を聞いていたらしい。やっぱり、さっきの言葉を少し後悔してしまう。もう少し、かっこつけて言えばよかったな、そしたら、ふざけて言ったと、ごまかせたのに。


「……そうですか」


俺はうまく言葉が出ず、そんな言葉で言いきってしまう。今だけは、表情筋が硬いことに感謝しながら、アイカの元へ、ヒビキさんと一緒に向かう。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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