何なんだあの商人ちゃん
どうも、作者です。七十四話です。
「――ほ、ほんとに大丈夫かな?」
知らない人間に会うとなると、エフィはすぐこれである。人見知りで、自信がない、もう少し自信をつけるべきである。
わしたちは今、バレン殿の工房に向かっていた。そう、エフィとヒビキ様、そしてアメイの装備を作ってもらうために。
「その人って、お前と泉の装備を作った人なんだよな?」
メンバーは、わしとエフィ、そしてアメイだった。
「そうじゃよ」
そう言って、わしは槌を見せびらかすように槌を掲げる。それを後ろからついてきた二人はまじまじと見つめる。
「うん、すごく出来がいいね。シンプルだけど、重心の偏りもないし、何より、槌に魔法の杖の機能を持たせるって面白いね」
「思ったよりちゃんとした講評」
この感じで目利きもできるのがエフィである。一応魔王として色々と業務をこなしていたし、そもそも魔尾族は鍛冶やらの産業は盛んであるため、結構目利きはできる奴である。
しかし、エフィの言う通りかなり出来がいい。あの時、バレン殿はわしらの装備を三日で作り上げていた。あの時は三日もかかるのか、なんて思っていたが、よくよく考えたら普通にすさまじいことをやっていたのは間違いない。
普通に考えて、二人分の装備を三日で作るのは普通出来ないのではないだろうか。どうやってやったのだろうか。
「ま、お主らの装備もきっといいモノを作ってくれるじゃろう」
ということで、さっさとバレン殿の工房に行こう。
「――知らん顔ばっかだな」
バレン殿の第一声はそれだった。当たり前である。今までバレン殿とやり取りしていたのは、わしと泉、あとはマゼランくらいである。
「あ~、クランのパーティメンバーのアメイです」
「ひ……え、えとエフィです」
怖い人相で睨むバレン殿に、少し臆しながらもあいさつをする二人。別にバレン殿は怒っていない。純粋に夜通し家事をしているときのバレン殿は基本この顔なだけである。
「おう、よろしくな。それにしても、本当にパーティメンバー集めたんだな」
まぁ、こちらとしても本当に気がついたら集まっていただけであるが、”けっかおーらい”というやつである。
「まぁの! これもわしの人徳がなせる業じゃ!」
割とふざけて言ったのだが、全員から白けた目で見られた。え? わしってそんなに人徳ない?
(別にないことはないと思うぞ、うん)
お前のフォローはフォローになっとらん! はぁ、まあ良い。さっさと本題に進もう。
「とりあえず、ここにいる二人と、もう一人の装備をつくってほしいんじゃ」
そう言って、ヒビキさんの冒険者としての情報や、事前に採寸したヒビキさんの体格に関してメモされた紙を渡す。
バレン殿はその紙をまじまじと見た後、わしの後ろにおる二人を見る。
「できるかの?」
「あぁ、構わねぇぜ。お前らはお得意様だし、中々個性的なパーティらしいしな、面白そうだ」
バレン殿はあっさり快諾してくれる。やはり持つべきは優秀な鍛冶師じゃのう。
「とりあえず、お前らの情報と採寸からだな、後は……お前らの装備は大丈夫か?」
わしと泉の装備のことだろう。実際それもしてもらうつもりだった。聞くのは忘れていたが、泉もうなずいているので問題ないだろう。
「うむ、後回しでいいが、ダンジョンに行く前に調整はしてもらいたいのう」
「わかった。つーか、なんでこのタイミングなんだろうと思ったが、またダンジョンに挑むのか」
「そうじゃ、今度は”六人”でな」
ようやっと、と言っても全快からまだ一か月経っていないがダンジョンに挑めるのだ。しかも今度はフルパーティで挑める。
「六人? そいつの装備は大丈夫なのか?」
そういえば、ハイカさんはいらないみたいなこと言っていたが、武器はともかく、防具は合うものがあるのだろうか? あの鎧はどうも使わないようだし。
「そういえばそうじゃのう? レイドの時の装備で行くのか?」
わしは、アメイにそう聞く。アメイもよく知らないようで、肩をすくめて俺は知らないとジェスチャーした。となると、また聞かねばならないのう。
「……レイド? レイドって、『騎士』レイドか?」
おっと、さらっと言ってしまったが、そういえばハイカ殿はSSランク冒険者で名の知れた人だった。バレン殿も冒険者の装備を作っている人だ。知らないはずがない。
ハイカ殿本人は特に隠していないようだが、勝手に言ってしまうのはダメだっただろうか。だが、言ってしまったのであれば仕方ない。
「うむ、そのレイドじゃ、実はこの街で受付嬢知っておってのう。色々あってパーティメンバーになった」
改めて言ってみると変な話である。何がどうなって、SSランク冒険者が受付嬢やっていて、それがパーティの一員になっているんだろうか。
まぁ、それでいうとヒビキ様とエフィもなんでパーティにいるのかわからないのだが。
「お前ら本当に訳分からんな。ただでさえ、てめぇとイズミも意味わからねぇくせに」
それを言われると何も言い返せない。わしは魔王の娘。泉は異世界人……十分おかしな経歴である。
(待てクラン、何かおかしい)
……ん? 脳内から泉がそう言う。わしとバレン殿の話を聞いて何か強烈な違和感を持ったらしい。じゃが、何がおかしいんじゃ……いや待て、お前の言う通りじゃ!
「バレン殿! 何をもってわしらをおかしいと言う!」
そう言うと、バレン殿は怪訝な顔をしながら、頬をかき、何でもないことのように口を開く。
「そりゃお前らが異世界人と吸血鬼だからそう言った」
やはり、とわしと泉は思う。
「何そんな慌ててんだよ、別に今更」
アメイはそう言い放つ。確かに知っておるのであれば、それはそう言ってしかるべきだ。だが、もし知らないのであれば?
エフィもそのことに気がついたようで、焦った顔に変わる。
「教えとらん。わしらはバレン殿に、素性を明かしておらんのじゃ」
「……は?」
そう、わしらは今までバレン殿にその情報を教えていない。それどころか、バレるようなことはしていないはずだ。
当のバレン殿も、焦っている様子はない。何故それで驚いているのか、といった表情だ。だが、わしらの考えがあって言うのであればなおのこと意味が分からない。
「……いつから知っておった。そして何より誰から聞いた?」
「そりゃ、一人しかいないだろう。マゼランだよ、お前らと会う前から聞いてたからな」
わしは、頭を抱える。分かっていた答えが返ってきただけであったが、それゆえに意味が分からない。そして、今度はアメイの方がその意味を理解できたらしい。
「……何であいつが知ってんの? 言ってないよな?」
「当たり前じゃ! お主ら以外には話しおらんかったわ!」
そもそも後にも先にも自分たちから素性をバラしたのはあの時だけだ。そして、その場にマゼランはいなかったのだ。
そして、その言葉で声こそ出さなかったものの、一番驚いていたのは、バレン殿だろう。というか頭を抱えていた。
本当にあやつ、何者なの……? だが、やはりあいつを警戒した方が……
「あ~、一個だけ言っとくことがある。あいつは敵じゃない……あいつを擁護したくねぇが、それだけは確かだ。味方だと言う気もねぇがな、それに関しちゃ俺も知らん」
バレン殿はそう言う。一体どういうことなの!? じゃが、あやつはともかく、バレン殿を疑うのは違う気がする。正直、バレン殿が何かやれたなら、とっくに何かやっているはずだし、そもそもこんな迂闊に喋らないだろう。だが、問題はマゼランなのだ。
(お前はどう思う、泉)
泉は悩む。しかし、そこにあまり、マゼランに対する疑念はないように思える。
(……正直、あいつが何か企んでいるというか、何か知ってるのは間違いない……けど、バレンさんの言う通り、敵ではないとは思う。さっきお前は、バレンさんは敵じゃないと断言したけど、それはマゼランも同じなような気がする)
本当にそうだろうか……しかし、こいつの勘は存外に当たる。だがやはり、あの商人は不可解な所が多すぎる。ええい、考えるだけであの妙にうざったい仕草が蘇ってくるわ! 何がアイドル商人じゃ!
わしは悩んで悩んで、そして……
「ええい! 何故あいつのことで悩まなければならぬ! せっかくのダンジョン探索が目の前だというのに! あいつのことはいったん後回しじゃ! 今は装備を作ってくれ!」
「お、おう、わかった」
マゼランのことなど、頭を悩ませるだけ無駄である。あれはマゼランなのだから。わしは一旦、あいつの記憶を消すことにした。
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