強者の試合
どうも、作者です。七十二話です。
「それじゃ! はじめ!」
その一言と共に、先に突っ込んだのはソテルさん。辛うじて見えた一歩目、いわゆるソニックブームのような現象が起きていた。その風圧はすさまじく、その先はほとんど捉えられない。
俺が次に捉えたのは、剣を構えたハイカさんの姿がぶれたかと思うと、その後ろの壁にソテルさんが盛大にぶつかっていた。しかし、ソテルさんの姿にけがは見られない、それどころか、余裕綽々といった感じだった。
「まだ甘いです……と言いたいところですが、普通に危なかったですね」
「君に弱音を吐かせる日が来るとはね」
恐らく、槍で突撃したソテルさんをハイカさんが剣でそらした。多分それだけのやり取り。なんだが、あの一撃をそらすなんて、一体どうやったらできるんだ。
恐らく、いや確実に俺の盾は貫かれていた。そう実感できるほどにはすさまじい一撃だった。それを剣一本で、というのは恐ろしい事実だ。
(クラン、見えたか?)
(辛うじて……じゃ。強者というのは恐ろしいのう、勝てそうにないわい)
多分俺よりクランの方が見えていたが、それでも辛うじて、か。
――そこからのやり取りは、まったく分かったものではなかった。ソテルさんが突っ込んでハイカさんが対応する。その応酬。
あのすさまじい一撃を、今度は切れ目なく連続で放っている。多分、あれはソテルさんの通常攻撃だ。別に、渾身の力を込めているわけではないんだろう。
それでも、並の人や魔獣ではまず対応できないその連撃を、ハイカさんは先読みと剣捌きだけで対応している。
(なんでハイカさんは反撃しないんだ?)
(恐らく、速度が足らん、防ぐので手いっぱいというのもあるじゃろう。それと同時に、ハイカ殿から攻撃しようとしても遅くてギルマス殿の間合いに入る前に離脱されるんじゃの)
なるほど、それで反撃しないのか。だが、それなら……
(ソテル殿は乱れてきたのう)
そう、動きだ。ほとんど見えないが、それでも最初の攻撃から段々と、まっすぐな一撃が乱れている。速度で勝っているなら、ハイカさんの間合いの外で息を整えられるはずだ。
なぜ……それをしないのか。いや、答えは明白だ。ハイカさん相手に、隙を与えることがどれだけ致命的か。何度目かは分からない攻撃、その次の瞬間――
明確に、ソテルさんが止まった。
『我が剣に、水の力を』
『水刃』
ハイカさんの詠唱、右手に持った剣に左手をそわせ、剣に水が纏われていく。そして、その剣を振れば、剣閃に沿って水の刃が飛んでいく。
ハイカさんが狙っていたのはこの魔法で、そしてソテルさんが警戒していたのはこれだったのだ。
呼吸を置こうとしたソテルさんは、飛んできた水の刃に槍で対応する。水の刃はあっさりと散ったが、それはハイカさんにとっては些事だったのだろう。
その刃への対処を強いられた時点で、ハイカさんはもうソテルさんを剣の間合いに捉えている。一閃。なんて事のない一撃を、しかしてうまく呼吸の整わないソテルさんはうまくかわせない。それでも、レベルのアドバンテージか、紙一重で、薄皮一枚にとどめる。
そして、回し蹴りでハイカさんの腹に一撃入れ、後方に吹っ飛ばす。地から浮いたハイカさんを、一呼吸入れた後、ソテルさんはすさまじい速度で吹っ飛んでいくハイカさんを追いかけ、とどめを刺しに行く。
「はぁ――やっとこさ、チェックメイトだ」
そこから先は――俺には見えなかった。
十二撃、この女に攻撃を入れた回数だ。しかし、その全てを余裕ではないにしろ、いなされた。これだからこいつは怖ろしい。何より、ここまでしてその無表情を崩さない。いや、とどめの一撃を前にして、俺を捉える目に、何度凍てつかされたのか。
とにかく、この一撃でとどめだ。こいつは空中に宙ぶらりん、力を入れる場所などどこにもないし、体勢も整っていない。
「――敵を完全に潰すまで、油断は大敵ですよ、ソテル?」
嘘だろ。俺は力を入れ直す。まずい、やっぱりこいつは、本当にやばい。
全く整っていない体勢、頼るもののない空中、それでいてなお、こいつは俺の首筋に沿わせるように剣を合わせてくる。やっぱり思い出す。普段は温厚な癖に、戦闘となればどこまでも冷徹な『騎士』を、そして普段から誰よりも楽しそうに笑うくせに、一切の隙が無い、憧れの『勇者』を。
『騎勇の継承者』、二人の最強の技術は、こいつに集約されている。それが何より悔しいと思うが――それでもこの勝負は勝つ。
俺はその一撃を槍で弾き、剣を落とす。そして一度地面に着地し、今度は上に蹴り上げる。ハイカは地面に対して背中を向け、体を反転する余裕すらないだろう。だが、それでも油断はしない。
『撃て』
『魔弾』
見えていない俺に対して、右手のひらだけをこちらに正確に向け、『魔弾』を放ってくる。これだから油断できないのだ、この女。
それを避け、槍を差し向ける。今度こそチェックメイトだ。
「はぁ――降参です」
そう言って手を開くハイカ。俺の勝ちだ。
気がついたときには、ソテルさんがハイカさんをキャッチしていた。
「勝者! ソテル!」
アイカの元気な声で理解する。勝ったのは、ソテルさんだったらしい。いや、まぁ状況からしてもそうなんだろうが。
終わってみれば、ハイカさんはかなりボロボロで、ソテルさんはかなり余裕がある。だが、表情だけは死にそうな顔をしているあたり、余裕の勝利ではなかったのは間違いない。
「はぁ、随分と強くなりましたね、ソテル」
「そっちはもうちょっと弱くなっててほしかったかな、ハイカ」
ハイカさん、これでも全盛期の半分どころか、四分の一もないらしいからな。それでこの強さだったのだから、ソテルさんが言っていた全盛期なら負けてるっていうのは間違いないらしい。
「流石は『槍先』、勇者パーティの元アタッカーですね」
『槍先』、ヒビキさんはソテルさんのことをそう称した。それが、冒険者時代のあだ名だったんだろう。そう称されるのもわかる。それだけで速く強かった。多分パーティでも一番槍だったんだろう。
「勇者パーティか……やっぱり強かったんだろうな」
「強いとか、そんなレベルじゃねぇよ。全員が現SSランクの奴らの実力は大差ない。正真正銘の最強のパーティだった」
そう語るのは、アメイ。ソテルさんですら氷山の一角に過ぎないのか。
「その人たちって今何してるんだ?」
「ほとんどはソテルさんと同じくギルドの運営に回ってる。一部、例外はいるがな」
つまり、ほとんどは他の街のギルドマスターを務めていたりするのか。どんな人たちなんだろうか。
「でも、なんでそんな人たちが運営に回ってるんですか? 純粋に冒険者をやっていた方が戦力になる気もしますが」
そう聞いたのはエフィだった。確かに、言われてみればそうだな。
「……まぁ、色々あってな。それに、あの人たちが最後の壁っていう訳さ。要は最終兵器」
つまり、その人たちが最前線に立つのは最後の手段、セントラルフラッグという組織が危ういとき、か。
「ありゃ、クランは?」
「ハイカさんの治療に行った」
俺たちが話している間にクランはハイカさんの治療のため、下に降りていた。
「あいつも動けないくらいしごかれたくせに、こういう時はすぐ動く」
「クランさんの良いところですね。私たちも降りましょうか」
とにかく、すさまじいものを見た。あれがこの世界の頂点、という奴だろうか。
(いや、まだ”上”はある。まぁ……ソテル殿たちが知能種としては最強クラスなのは間違いないがの。それに、見ることがあったらほとんど終わりじゃがな)
……この人たちより強いやつがいるのか……いや、いた気がするな。そいつは今、そこで”冒険者”やって、椅子から動けなくなってるわけだが。
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