ハイカさん道場その二
どうも、作者です。七十一話です。
「泉さん、重心はもっと下です」
ハイカさんの容赦ない連撃が襲う。俺は盾を構えて対処するが、ハイカさんはステップと剣捌きで、攻撃場所を変幻自在に変え、盾によるガードを平然とすり抜けてくる。
何度も盾を動かすが、盾を動かす速度より圧倒的に速い。いや、速度は大差ないはずだ。つまり、速いのではなく、純粋に無駄がない。それだけ俺の動きに無駄が多いということだろう。実際、盾を動かす時にどうしても重心が浮く。
結局、重心が浮いたところを足払いで転倒させられ、一本取られた。
「泉さんは、まだ盾捌きが拙いですね。体幹はしっかりしているので、重心が浮く癖さえ直せればもっと早くなるはずですが……」
癖というのは、なかなか直らない。とはいえ、もう二週間もハイカさんにしごかれているのでこれでもかなり改善はしてきているのだが。さて、もう一回だ。
俺は立ち上がり、盾を構える。
「もう一回お願いします」
「ええ、何度でも」
「――はい、お水です!」
「ありがとうアイカ、仕事は大丈夫か?」
元気よく水を渡してきた少女に礼をしながら、水を受け取る。そして、とりあえず立つのは厳しいのでその場に座る。もうかれこれ十数回倒されたからな。
「うん! 結構落ち着いてきたよ! これからは私もサポートします!」
アイカは、ここ二週間ほど食事時以外は顔を表さなかった。誘拐されていた少女は、中々に色々と仕事を任されていたのだ。
純粋に仕事をしていれば思い出すこともないだろうという配慮と、ギルドの仕事が大量にあることによって引っ張りだこだったらしい。
とはいえ、疲れた様子はなく充実していそうだ。そう思えるぐらいには少女の笑顔はいつも通りの天真爛漫さだった。
「それにしても、みんな大丈夫?」
「まぁ……もう慣れたんじゃないか?」
相変わらずアメイとエフィは気絶しているし、クランは立ち上がれそうにない。それでも、かなり耐えられるようになってきたのは間違いない。しかし、四人揃って無事に修行時間を終えられてはいない。
「というか……むしろお前は良く耐えられるな」
そう言ってきたのは、突っ伏しているクランだった。確かに、多分ハイカさんの相手をしているのが一番多いのは俺ではあるが、こうして座れるくらいには体力が残っているのも確かに俺だ。
「そうですね……やはりというか、泉さんの体力、それに運動性能はすさまじいです。センスならクランさんですが、純粋な運動能力は泉さんの方が上ですね」
「ハイカさんに言われてもなぁ」
ハイカさんは今日まで一度も、息を切らしていない。俺たち四人相手にほぼ休憩なしで戦闘訓練をしてるので、純粋に俺たちの四倍以上は動いているはずだ。
「私の場合は、今までの訓練もありますが、それ以上に効率的に動いているだけですよ。何よりダンジョン探索は体力勝負ですから、体力をつけるだけではなく、体力の消耗を減らす動きというのは重要ですから」
なるほど、実際、俺たちが指摘されているのは、そういった無駄な動きがメインだ。一応、ダンジョンでの行動を想定されて訓練されていたんだなと納得する。
「……つまり、毎日体力をすっからかんにされるのも……」
「ええ、ダンジョンでの極限下での想定ですよ。でなければ、修行とクエストを同時並行でやれなんて結構無茶な話ですから」
……無茶な自覚はあったのか。だが、実際それで体力がついているのも事実なんだよな。
「君たち、良くハイカの訓練についていけるのねぇ……大体弱音吐いて逃げ出すんだけど……」
久々に聞いたような声がしたので、振り返ってみると、そこにいたのはソテルさんだ。ずいぶんやつれている。今日まで仕事三昧だったんだろうな。
「仕事の息抜きがてら様子を見に来たんだけど……いやぁ死屍累々だっけ? それだねこれ」
まぁ、実際俺以外ぶっ倒れているわけだし、間違ってないな。
それにしても、ソテルさんとハイカさんか……どっちの戦いも少しだけ見たが、どちらもすさまじいものだった。ソテルさんは、俺たちが苦戦した魔獣を一撃で仕留め、ハイカさんはかなりの数の洗脳冒険者を物の数分で制圧して見せた。
「実際のところどっちの方が強いんじゃ? お主たち」
「うん? 僕とハイカのことかい? うーん、今は流石に僕だけど……全盛期ならハイカの方が強かったと思うよ」
その言葉にハイカさんは特に何も言わなかったが、否定しているようには見えないので、そうなんだろう。というか、ソテルさんより強かったって、全盛期のハイカさんってどれだけ強かったんだ。
「うーむ、そう言われても想像しづらいのう」
クランは明らかに意図がありそうな、挑発するような笑みでそう言う。つまり、ここで戦ってほしいという意味なわけだが。
「あ! 私も二人が戦ってるところ見てみたい! 私もほとんど見たことないんだよね! ないよね?」
「……確かに、ソテルとの訓練は、長らくやってませんね……久々にやりますか?」
「……いいね、やるか」
二人の口調が明らかに変わっている。多分元々はこういう感じだったんだろう。俺はどうにか立ち上がり、倒れている二人を背負う。修行場所として使っているこの空間は、闘技場のような造りで、上に座れるスペースがあるのでそこに移動する。
気絶していた二人を起こし、椅子に座らせる。すると、階段を上がってくる音が聞こえてきた。
「戻ってこないので、何かあるのかと思いましたが……おふたりが戦うんですか?」
俺たちが戻ってこないのを心配したヒビキさんがそう言って隣に座る。俺はうなずく。
「なんか、成り行きで」
「なるほど、ですがこれは気になる組み合わせですね……」
順当に考えれば、レベルが高いソテルさんが勝ちそうだが、一体どうなるんだろうか?
「さて、ハンデは必要か?」
訓練用の槍を持ったソテルさんは挑発的な笑みでハイカさんに言う。それにしても、いつものソテルさんと全然違うが、普段はギルドマスターとしての姿勢なんだろうか。
「馬鹿言わないで、全力で来なさい」
ハイカさんの言葉に、ソテルさんは肩をすくめ、槍を構える。その表情に、一切の油断はなかった。
「アメイ的にどっちが勝つと思うんじゃ?」
疲労で精気のない顔のアメイにクランは話しかける。アメイが一番二人の強さを理解していそうではある。
「流石に、ソテルさんだけど……ハイカがどこまでやるかわからん」
さて、どうなるんだろうか。
「それじゃ! はじめ!」
アイカの一言と共に、二人の戦いが始まる。
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