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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
悠久忘れぬ■■の景色
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誰もが受難を抱えている

どうも、作者です。六十九話です。

久々の俺が管理するダンジョン街、『シゲン』に帰ってきて、どんないい変化があるかな、なんて楽観的に考えてギルドに戻ると、そこには地獄が広がっていた。


なんと、普段なら、気さくに挨拶してくれるギルド職員が「あ、おかえりなさい。仕事溜まってます!」で終わらされた。というか……仕事? おかしいな、普段仕事が多くても何も言わない皆が、仕事のことを言う……?


――その理由は、代理を任せていたあの女……ハイカに話を聞いたときに理解した。まぁ問題があるとすれば、仕事をできるようになったのは、次の日のことだ。



「お帰りなさいギルドマスター。お茶をどうぞ」


「あの……ハイカ、怖いんだけど」


いつもならマンツーマンの時、大体こいつはお茶を出さずに一人で黙々と仕事をしだす。俺のことを、なんとも思っていない、という具合に。いや、まぁ、友達兼舎弟くらいには思ってくれているんだけどさ。


それにしたって、この対応は怖い。だって、いつも無表情なハイカがすごい(作り)笑顔でお茶を出してきた。しかも、横に知らない女性がいる。頭に角をつけている。鹿人……? いや、あれは男性にしかついていないはず。しかもとても美人だ……だが、この威圧感、知っている気がする。


「竜人……?」


「流石は勇者パーティですね。竜人に会ったことぐらいありますか」


竜人? 何故ここに竜人が?


「あ、まだ名乗っていませんでしたね、私の名前はヒビキ。今は仕事の手伝いと、泉さんのパーティ、”黄金羅針”のパーティメンバーをさせてもらっています」


あ~、泉君たち、パーティネーム決まったんだ。それは良かったなぁ……ちょっと待って、ヒビキ!? 『文化紀行記』の!? そして、パーティメンバー!? 泉君たちの!? ん!?


「ちなみに、私もパーティメンバーに入ることになりました。というか自分で決めました」


??? いや、それは良いけど、ハイカが今まで冒険者業に従事しない方がこっちとしては違和感があったからいいんだけど。いや、頑なに冒険者業を再開しようとしなかったのに、なんで?


「ギルマス……いえ、あえてソテルと言いますが、これは序の口ですよ……頑張ってください」


??? 序の口……この情報が? 俺はもうパンク寸前なんだが? なんだが?


そこから来るは、圧倒的な情報量だった。魔王の出現、アイカの誘拐、それを救出するまでの経緯。そして、極めつけは、泉君が赤月の女神の”眷属”であったこと。


……待って待って、一つ一つでも情報としては三日分の食事を口に詰められた気分だ。それを五、六個同時に出された……俺、気絶してもいいかな?


「まだ駄目です、私はしましたが、貴方はギルマスなので」


こいつ、俺の思考を読みやがった。というか、お前はしたのかよ! 俺は駄目なの! 駄目だよなぁ! 俺ギルマスだもん!


くっそ! あの人たちにイズミ君とクランちゃんのこと報告したばっかなのに! それ以上の情報が来たよ。怖いよ、俺はどうすればいいの? いや、とにかく、今のダンジョン街の状況を聞かなければ。


職員たちが言っていた意味を理解した。恐らく、アイカ救出時に相当な損害が出たな。となると、冒険者の信用にも何かあったかもしれないし、そもそもアイカを誘拐したやつらの身元の洗い出しやら協力者がまだいるかもしれない。


仕事が、仕事が圧倒的に増えている。そして、仕事じゃ済まされない事案がそれ以上に増えている。しかも、俺的にも無視できない!


「……それで、それ以外の細かい報告と、俺がやらなきゃいけない件については?」


「よく耐えましたね、流石に今回は同情しますが、報告していきますね」


そこからは仕事に関する報告を大量に受けた。大量に。あぁ、耐えられるかな、俺。この圧倒的な仕事量に……。



――俺たちはこっそりと扉の外からソテルさんの様子を伺っていた。


(どんどん顔が蒼白くなっていくぞ! 面白いのう)


人の不幸を面白がるな。まぁ、それはいいとして、大丈夫かあの人。何というか、あの時のハイカさんを思い出す。まぁ、俺が行ったときにはもう気絶していたが、あんなに安らかに死、眠っていた時はあったからな。


それにしても、反応が良く似ている。何というか似ている気がする。ハイカとアイカが仲良し姉妹だとしたら、こっちは似た者姉弟みたいな感じだ。まぁ、昔から仲がいいんだろう。


あの二人、話しているときに思ったが、やはり相当昔からの仲らしい。というか、さっきヒビキさんが言っていたな。勇者パーティだと。何となくそんな気はしていた。


そうなると、やはり昔からの知り合いなんだろう。勇者パーティの一人と、勇者の娘、まぁ旧友じゃないわけがない。


(泉! そろそろ気絶しそうじゃ! 急患か? 急患か!)


(お前ソテルさんの顔色を遊びの道具くらいの感覚で見るな)


こいつ、最近ハイカさんにしごかれてるのと、ダンジョンに行きたい欲でストレス溜まってるな。それで人に当たらないのは美徳だが、面白いことがあるとすぐこれだ。


だが、ソテルさんの顔色が死に……消え入りそうになっている。あんまり表現を変えても意味ないな。それにしても、ハイカさんといい、ソテルさんといい、なんであんなに強い人たちが仕事で死にそうになっているのか。


仕事の怖ろしさは、異世界でも変わらないのか、ワーカーホリックは全世界、全異世界共通なのか!?


(お前、何を考えておるんじゃ! お前もハイカさんのしごきでおかしくなってるんじゃないか?)


……そうかもしれない。俺もおかしくなってんだな。はぁ、今度料理でもして落ち着くか。


そんなことを考えていると、あっちの話は終わったようだ。ソテルさんが完全にふて寝の体勢に入り始めた。クラン、急患だ。


(よし、泉運べ!)


いや、結局俺が運ぶのか。良いけど別に。


ということで、俺はソテルさんを運んでベッドまで連れていく。ビックリするほど安らかに眠っている。今だけは仕事を考えなくていいと、人はこういう顔をするんだなと、人生で二度目に感じた。


「あ、そうだ、イズミさん」


ヒビキさんが声をかけてくる。一体なんだろうか。


「ギルドマスターさんから伝言です。”パーティ結成おめでとう。あんまり困らせないでくれ”とのことです」


……俺、別に何もしてないんだけどなぁ、本当に。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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