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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
悠久忘れぬ■■の景色
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ハイカさん道場

どうも、作者です。六十八話です。

――あれから一週間、朝から昼過ぎまでクエストをこなし、そしてその後はハイカさんによる戦闘指導を受ける。というのが当たり前になっていた。とはいえ、クエストをこなすのは慣れている。それだけだったら、今まで疲労感はあまり感じなかったのだが……。


「今日の訓練はここまで、しっかり休んでください」


「「はい……」」


俺たちはぶっ倒れていた。異常に過密な基礎訓練の後、全身を容赦なく打たれる実戦。そして悪い部分を一つ一つ言われ、その行動を改善するための訓練をハイカさんの助言と視線を感じながらやる。これを毎日。


おかしい、クエストに費やした時間は、五、六時間のはずだ。それに対して、ハイカさんの訓練は、二時間程度、三分の一ぐらいだ。


だが、かかる負荷は五倍くらいある気がする。いや、時間のことを考えれば十五倍くらいある。間違いない。しかも、よりによってこんなところで五感共有の悪いところが出た。クランの疲労感までこっちで感じる。


お陰様で二倍死にそうになっている。ハイカさんと戦ってみてわかった。この人――おかしい。強いどころじゃない、強さの次元が違いすぎて全く分からない。


盾を構えようとした瞬間に頭を打たれ、盾を振るって迎撃しようとしたら首を取られ、クランと連携してハイカさんを攻撃しようとしたらいつの間にかハイカさんに背後を取られている。


何が怖いって、動きに一切乱れがない。一度ハンデとしてハイカさんは目をつぶった状態で対戦したことがある。しかし、一切攻撃は当たらなかった。なんと全部避けられた。どうも、それまで戦った数戦で俺たちの動きは見抜かれていたのだ。


剣の振り、足さばき、指先の動き一つ一つが恐ろしく綺麗だ。さっき、強さの次元が違いすぎると言ったが、それは見えないからそう言ったんじゃない、動きの一つ一つが見えるからそう言った。本当にうまい人間は、そういうところがある。


ようは、常人にすら”簡単に”できそうな動きで、相手を制してしまう。だが、実際に真似してみれば、それはすべての人間が首をかしげて別物だと言う、そんな動き。言ってしまえば、完璧なまでに洗練された基礎、という奴だ。


この人の動きはそれだった。俺たちを制するのに特別な動きはしない。誰でもできる動きで、こっちを見事に潰してくる。それが、ハイカさんだった。


「どうすればいいんじゃあ!」


「勝てる気がしない」


俺たちは、倒れて地面に顔をつけたまま弱音を吐く。


「いえ、お二人は十分だと思いますよ。彼女相手にここまでできている時点で」


そう言ったのは、訓練を見守っていたヒビキさんだった。


まぁ、確かに一緒に訓練していたエフィとアメイはもう言葉を出すことすらできていないが。


「そうですね、やはり二人ともセンスがあります。特にクランさんは」


そう、クランの動きは着実に良くなっていた。今までの大振りな一撃でさえ、がむしゃらに振るのではなく、全体的にコンパクトで、隙の少ない動きに変わっている(ハイカさんから見るとまだ隙だらけらしいが)。


「まぁ、それほどでもない。というか、それでいうならお前も十分動き変わっとるわい。まぁとはいえ、わしらの場合はちと人より成長しやすいしの」


そう、俺たちの場合、物理的に客観視ができる。ようは自分の動きをクランの目を使って外から見れるのだ。五感共有のいいところである。


「とはいえ、レベルで言えば俺たちとあんまり変わらないんだよな。なのにこの差なのか」


俺たちは現在、Lv.50手前までレベルが上がっている。この前の聖王国からの刺客との戦いで、大幅に上がったのだ。


それに対して今ハイカさんは、冒険者職の状態で大体Lv.50よりちょっと上くらいだ。


しかも元の完全なアタッカーではなく、特殊職と呼ばれる職業だ。


「確か今はメインが『マジックセイバー』で、サブが『シーフ』だったか。それで呪いが回避されるんだったか」


「はい、私が呪いを受けているのは完全なアタッカー職だけなので、こういう特殊職は別です」


特殊職――最初からなれる職業ではなく、何らかの条件をクリアした場合のみなれる職業。『マジックセイバー』であれば魔法職一つと攻撃職一つをLv.50にすればなれる職業らしい。『シーフ』も似たような感じだ。


ちなみに、ヒビキさんのメイン職の『コマンダー』は上位職だ。こっちは一系統の職業、『コマンダー』で場合、『攻撃支援職』を極めていくと、ジョブチェンジできるんだとか。


「むしろ、七日で私のところまで到達されても困りますよ。こっちは四十年以上研鑽しているんですから」


四十年? 待ってくれ、ハイカさん今何歳だ?


「ハイカさんって」


「ああ、私今五十くらいですよ。はっきり言えばギルマスより上です」


まじか。ソテルさんも相当若々しかったが、それ以上だぞ。アメイのほうが年上に見えるくらいだ。


「もしかしてじゃが、お主、普通の人間ではないな?」


「ええ、私は半人半精です。半分精霊なので不老ですよ」


そうなのか。じゃあ、アイカも


「あ、ちなみに私もアイカも母似ですよ」


まて。二人ともあんまり似てないぞ。


「もしかして、異母姉妹なのか?」


「もしかしなくてもそうですよ。まぁ、色々ありまして」


そうなのか。前の勇者、モテたんだな。二人とも美人だし。


「お前、二人のこと美人って思ってたんか」


こいつ、人の心の内を勝手に。だが、二人は普通に美人だろう。アイカはどっちかと言うとかわいい系だろうけど。


「別に美人ではあるだろ」


「ありがとうございます。あとでアイカにも言っておきますね」


いや別に言わなくてもいいんだが。なんだか、アイカに聞かせたらそれはそれで面倒なことになる気がする。まぁ、アイカも仕事頑張ってるみたいだし、後で様子見に行った方がいいかもな。


「そういえば、仕事の進捗はどうじゃ?」


「全然だめですね」


「減りそうにないです」


二人そろって、ギルドの仕事が全然減りそうなことがないことを報告してくる。どれだけ仕事があるんだろうか。


「くそぉ、やはりまだ駄目そうか」


「ですが、そろそろギルマスが帰ってくるので……まぁ多少マシにはなるかと、彼が気絶しなければ」


……そうか、そういえばそうだった。魔王と竜人……そしてアイカの誘拐事件、そしてハイカさんの加入、全部あの人が用事で遠出した後の話なんだよな。


ソテルさん、耐えられるだろうか。俺があの人の立場だったら耐えられる自信がない。というか、ハイカさんはエフィの件で一回気絶している。そう、エフィの件だけで、だ。それプラスの情報量が多すぎる。


「……ソテルさん、頑張れ」


そう言って、とりあえず疲労感に身を任せて、少しだけ寝ることにした。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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