祝勝会
どうも、作者です。六十七話です。
今日から三章『悠久忘れぬ■■の景色』開幕です。
魔尾の王、それが僕の身分。でもそんなのは飾りで実際はほとんど何もしていない。いや、やるべきことはすべてやってしまった。
今となっては、僕が死んでも国は回るのだ。なら、僕の存在意義って何だろう。政務は、配下の皆がすべてこなしてくれる。防衛面も自分が作った機構と、訓練された兵士で基本は事足りるだろう。なら緊急時は? そんなものは、僕が王についてから百年余り、一度もなかった。
僕は一体、何のために『魔王』なんてものをやっているんだろう? どうして、僕なんだろうか。たまたま、前代の魔王であった父上の一人息子というだけで、魔王になった僕は、価値の薄い魔法の研究と、読書が好きなだけの、ただの魔人だった。
分からない、自分の存在意義が。分からない、自分が『魔王』として何がやりたいのか。分からない、僕自身の『価値』が。分からない……僕というものが。
だから、置手紙だけ残して、家出なんてしまった――そしたら、出会ってしまったのは、僕をいつも引っ張ってくるクランだった。
そして、クランと共に歩む、冒険者達だった。みんな特殊だけど、だからきっと、僕もパーティに入れた。何より、かっこよかった。彼らと少ししか過ごしていないけれど、彼らの”信念”はとても輝いて見えた。
僕は”彼ら”と旅をする中で、彼らと共に”黄金”の景色を見れるだろうか。彼らと同じように自身の行く先を定められる”羅針”を見つけられるだろうか。
僕はエフィ・ルベロス・エリアズヴェール。今は魔王ではなく、一人の旅人で、この”黄金羅針”の一人だ。それだけが今、自信を持って誇れることだった。
――アイカ救出後、街はかなりの大惨事となっていた。大量に気絶している冒険者。所々壊れた建物。とにかく、次の日の朝はびっくりするほどの混乱を招いていた。
もっとも、アイカが幽閉されていた娼館があった地区以外は、寝ていた住人の大半は、朝になるまで気づかなかったというのだから、ハイカさんは暗殺もできるらしい、怖い。
俺たちは、エフィやらクランなど、種族がばれるとまずい奴らがいるので、何食わぬ顔で修復作業を手伝う、巻き込まれた冒険者のフリをしていた。
結局、修復作業を終えた後は、(主に俺の)疲労がピークになっていたため、その日は解散になった。
「――さて、無事にアイカを救出できたわけですが……皆さんに悲報です」
次の日、”黄金羅針”の結成を祝して、パーティ兼最初の会議を開催した。集まっているのは俺たちと、そこにアイカを含めた七人だ。
そして、そんな皆が集まって開口一番、ハイカさんが言ったのはそんなことだった。しかし、全員それが何かは分かっていた。
「私がしばらく仕事に忙殺されそうです」
そう、アイカを救出はできたが、そうなればギルドは、アイカ救出関連の報告書を筆頭に今ギルドは大量の仕事が抱えることになった。そうなると、ギルドマスター代理の立場のハイカが今いなくなるとまずいということだろう。
「となると、しばらくダンジョン攻略は無理そうか」
「そうですね……ある程度は私が手伝いますが……それでも、一か月程度はかかりそうです」
「一か月じゃとぉ」
クランが待てないという感じで、落ち込んでいる。それを見かねたヒビキさんも、事務処理を手伝うことになったが、それでも一か月はかかるらしい。
それにしても、聖王国からの攻撃で、こんなに大変なことになっているのはきついな。
「というか、聖王国に責任を申し立てたりできないのか?」
一応、ここはセントラルフラッグの自治区になるわけだし、そこに聖王国の人間が暴れまわったとなるといろいろと問題になるだろう。
「うざってぇことに、あいつらはしらばっくれるだけだぞ。改革派がどうとか言ってな」
「改革派?」
「今の青月教には”原書”派と”改革”派という派閥があるんですが……」
ああ、カトリックとプロテスタントみたいなものか。
「裏でつながってるんじゃ」
えぇ……なるほど、だが理解した。恐らく聖王国はその”原書”派だが、他所を妨害するときは”改革”派の人間に命令することで、”原書”派の俺たちは無関係ですよとしらばっくれるという訳か。
……よくそんなことがまかり通るな。
「それだけ聖王国は強いんじゃよ」
うーん、なるほど。そもそもが獣族を作った青月の女神を信仰している宗教の総本山という訳だ。そこを責めるようなことはしないという訳か。
「まぁ、とにかく、しばらくは普通のクエストだな……つっても」
「ヒビキさんが手伝ってくれるおかげで、多少余裕はあるので、皆さんに”技術指導”はさせていただきます」
その言葉に、俺とクランは固まる。そう、俺たちはアメイから聞いている。ハイカさんはスパルタだと。
「ど、どうしたの?」
「エフィさん、お姉ちゃんは……怖いよ!」
エフィもその言葉で察したのか、冷や汗をかき始める。ヒビキさんは恐ろしくないのか、にこやかな笑みをしているが、逆に悪意マシマシの顔で、作り笑いをしているのがアメイだった。”お前らもこっち側だ”と。
「……まぁ、今日のところは楽しもうよ! 」
「そうですね、でしたら、乾杯は『団長』殿に」
気分を一新しようとアイカがそう言うと、それに同調したヒビキさんが俺に対してそう言う。やっぱりパーティリーダーとして『団長』というのは慣れないな。
「あんまりそう言わないでほしいが、そうだな、これから、まぁ色々とあると思うが……今は楽しもうか、乾杯」
その言葉でみんなが杯を上げ笑う。あぁ、今は取り戻したものの大きさと、これから起きる楽しいことだけを笑って迎え入れよう。
ただ全員で飲む。クランとアメイは酒でべろんべろんになり(厳密にはクランは理性は全然残っているが)、仕事ばかりでヒビキさんと『文化紀行記』について話す時間が取れなかったため、ここで質問している。ヒビキさんもそれを穏やかな表情で受け入れている。
その光景を残された俺とエフィ、アイカで会話するでもなく見守っていた。
「……泉さん、エフィさん、助けてくれてありがとう」
そう言ったのは、隣に座っているアイカだった。アイカに感謝されたのが、もう何度目かわからない。それでも、
「ああ、何度でも感謝していいが、あんまり感謝する理由を増やすなよ。お姉ちゃんが心配するから」
どうか今回のことは教訓にして、俺たちが守らなくてもいいようにしてほしい。いくらでも守ってはやるが、それだって今回のようにうまくいくかは分からない。
「はい……そうさせていただきます! 何だったら、今度は泉さん達に感謝されるようなことをします!」
「そうしてくれ」
ああ、これからもアイカには世話になっていこうじゃないか。
「はは、僕はあんまり、役に立ってませんが……」
「「何言ってるんだ/の」」
俺とアイカは同時にエフィの言葉を否定する。今回、一番アイカを守っていたのはエフィだろうに。
「エフィさんはもっと自信持った方がいいと思います!」
「そうだな、もうちょっと自信を持て、魔法もすごいんだから」
エフィはその言葉に縮こまる。クランの記憶で見ただけだが、エフィは昔からこういうところがある。才能はあるのに、自分はダメなところが多いと感じている部分だ……まぁ、多いと言えば多いんだろうが、それだって別に悪いことではないというのに。
「はい……善処します」
「あ、それ酒だぞ」
その言葉を出した時にはもう遅かった。エフィは少しの酒で、深い眠りについたのだった。
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