セントラルフラッグ会議
どうも、作者です。六十六話です。
これにて二章終わりです。次回から三章です!
「――さて、今日はどんな議題なんだ? 全員集まるのは久々だしな」
円卓の反対側。見た目だけは若いジジイは、そう言ってお茶をすすっている。帝都のギルドマスターで、ハイカの父親で”前時代の勇者”パーティの一人、”賢者”の名を持つ、グリムだ。
席に座っていたのは、俺を含めて六人。セントラルフラッグの中でも、大規模なギルドのギルドマスターをしている人間と、セントラルフラッグ統括。一言で言ってしまえば、セントラルフラッグの幹部たちだ。
「まぁまぁ、少しはゆっくりしませんかぁ? せっかくみんなで集まったんですしぃ」
「にゃっはっは! その通りだにゃ! そういうことなら座ってるだけは退屈だし、どうだい、久々にダンジョン探索でもやらにゃいかにゃ! 報酬の取り分は」
犬耳をつけた獣人と、二足歩行の猫は、嚙み合ってないまま同調しあっている。これだから、やるときしかやらないタイプの奴らは……
「はぁ、皆さん、”旧友”で会話するのは良いですが、議題は重要なんですから、脱線しないようにしてください」
「別にしないわよぉ」
苦労人そうな男の人は、このセントラルフラッグの財政統括。リンカーさんだ、ギルマスのイロハを叩き込んでくれた人なので頭が上がらない。
まぁ実際、この色濃いメンバーをまとめ、そしてセントラルフラッグを立て直した功労者の一人だ。今いるメンバーの中では唯一”戦闘能力”がない人間でもある。
さて、残りは一人、その女性は冷然とした態度で座っている。その女性は、混沌とし始めるこの状況で一人無言を……俺も無言だった。
「統括……そろそろ始めては?」
俺は、その人にそれとなく催促を促す。この子、未だに何考えているかわからないんだよなぁ。
「そうですね……そろそろ始めましょうか、会議」
「仕方ないにゃあ」
「おお、そうしろそうしろ」
さて、ようやっと始まるか。とはいえ、議題はなんとなくわかっているのだが。
「リンカー、今日の議題を」
「はい、では議題について、本日の議題は、”新時代の勇者”について、そして……もう一人のイレギュラーな転移者について」
議題が発表されると同時に、猫は不敵に笑い、犬は優しい笑みを消す。”賢者”も片目をつぶって口をへの字に結ぶ。みんな反応は違っていたが、真面目な雰囲気になったのは違いない。
「概要ですが、聖王国、厳密にはその属国であるレディポートが、今から一か月ほど前に転移人を起動、そして召喚されました」
「それでぇ、その”新勇者様”はどうなの?」
犬の獣人、名前はナンナ。そして、”前時代の勇者”パーティの一人、”万能”のアン。獣人ではあるが、スキルで寿命が延びているせいで、本当の年齢はわからない。
こんな間延びした口調だが、戦闘中はすごい怖いし、勇者、オオカさんですら逆らえない、我らがおかん……
「ん? 今私に対して失礼なこと思わなかったぁ? ”坊や”?」
「オモッテナイデス」
「まぁいいけどねぇ」
勘も鼻も鋭いから油断したらやられる。
「はぁ、どうなのか、でしたね。現在、聖王国を拠点に、仲間を得てダンジョンを三つ攻略、その他にもいくつかの功績をたてているようです」
「ふふ、あの人よりずいぶん積極的じゃない。ねぇ、坊や」
「俺に言わないでくださいよ、知らないんだから」
俺はあの人の初期の功績を知らない。俺が一番加入遅かったんだから……しかし、ずっと牛歩だったのは知ってる。あの人、勇者らしいことをしようとしている間に、寄り道する人だったしなぁ。
「口調崩れてるにゃあ、”特攻坊”」
「その呼び方止めてください……スティスさん」
「にゃはは! あの特攻坊が、さん付けって! 未だになれんにゃあ!」
本当にこの人は……自由すぎて困る。
スティス、二足歩行の猫で、種族名はケット・シー。獣精の一種。この人も年齢不詳だが、百は越えてるらしい。
もちろんこの人も、前時代の勇者パーティの一人である。”貴猫”のスティス。ひたすらうざい人だが、世間では紳士として有名だ。深く関わらなければそうなんだろうが。
オオカさん曰く、”猫を被っている”と言っていたが、猫なんだから当たり前なのではないだろうか。
「スティスさん……脱線はしないように」
ギルド統括のアマテは、そう言ってスティスをにらんだ。
「おっと、そうだったにゃあ。すまにゃいすまない」
「それで、その新時代の勇者、名前は確か……アラタだったか? そいつ、”危なさそう”か?」
ホシザキ・アラタ。名前はイズミ君から聞いたが、実際、”勇者”である以上、警戒はしないといけない。
「今のところ、”女神の眷属”として行動を起こしている様子はありません。とはいえ、”教皇”の方が何かしている可能性がありそうです」
「そういうことなら、今は干渉することもできんね」
こっちとしては、まだ何もしていない転移者に干渉したくはない。彼らも、別にこの世界に来たいと言ってきたわけではない。
それに、まだあっちの世界では大人になっていない少年らしい。だとしたら、余計にだな。
「となると、様子見継続、だにゃあ」
そう締めくくるスティスに全員うなずく。はぁ、とはいえ、あの女神がどう動くかわからない以上、こっちとしてはやれることはない。いつもいつも……後手に回るのは、少々苛つくが……
「さて、苛立っているところ申し訳ありませんが、”槍先”のソテルさん、もう一人の転移者について話してくださいませんか?」
ん、いつの間にか顔に出ていたか……。はぁ、まだ感情制御が上手くできてないな。
「すみません、それでもう一人の転移者、”イズミ”君についてですが……大丈夫です。少なくとも、青月の女神の眷属じゃありません」
「……、……そう言える根拠は?」
いつもより沈黙長いな。何か思い浮かんだことでもあったのか? いや、とりあえず報告から。
「はぁ……正直未だに信じられないですが……吸血鬼の魔王の娘と一緒にいるのが根拠です」
全員が固まる。”魔王の娘”、そんな言葉を出されては俺だって固まる。しかし、ただ一人、体を震わす人がいる。そう、アマテだ。
ドンッ! そんな音が響いて、全員の思考はまた動き始める。今のは、アマテがやったのか。
「……すみません、あまりのことに驚いてしまいました」
「……はははは! だよなぁ! こんなの誰だって驚くわな!」
「……あなたが言うぅ? 貴方も”彼女”を連れてきたくせにねぇ?」
”彼女”、ジジイが連れてきた帝都のギルドで保護している異世界人のことだ。あっちもかなりのイレギュラーだからなぁ。
「だが、にゃるほどねぇ。それは確かにありえにゃい。青月の女神は、吸血鬼と敵対している。しかもよりによって、”魔王の娘”ときたら、そりゃありえにゃいにゃあ」
「それでぇ、じゃあその子たちは、大丈夫なのぉ?」
「ええ、大丈夫ですよ……ダンジョン暴走すら制してしまいましたから」
「あら……この世界に来てから一か月足らずで? それは勇敢なことねぇ、その子たちのこと好きになっちゃいそう」
ああ、イズミ君たちはかっこいい。二人の精神性は、あの人たちを思い出しそうなくらいだ。
「実際、彼らを思い出しそうなほど、輝いていますよ」
「はっ、お前がそこまで言うんなら、間違いなさそうだな」
「でも、そうなると、余計怖ろしくもあるにゃあ。こういう”イレギュラー”は、決まって何か起こる合図だにゃ」
それはそうだ。何より……
「確かに、ダンジョン暴走の方は気になりますね。俺のほうでも少し調べておきます」
ダンジョン暴走に関しても、イズミ君たちが来てすぐというのは、タイミングが良すぎるのはある。二人のせいじゃなくても、関連性がある可能性はある。
「確かに、レディポートのダンジョン街だものね……警戒をしておいた方がいいわねぇ」
「とにかく、これから何が起きてもおかしくはありません。警戒と敵の攻撃があれば……」
「「「「全力でつぶすだけ/だな/だにゃ/ねぇ」」」」
「皆さん、本当に血の気が多い……ですが、いざとなればお願いしますね。もう、いつ”始まって”もおかしくないですから」
「ええ、統括として、何より……”二人”の最後を見たものとして、あなた達を全力でサポートしましょう」
彼女の言葉に、全員が神妙な顔でうなずく。そうだ、俺たちはオオカさんの友として、あの人の仇を取る。それは、あの人の願いをかなえるという形で。
アマテ……この中で最年少にして、『勇者』と『騎士』が亡くなった絶死の戦場を生き残った、ただ一人の少女は、誰よりもその覚悟を瞳に宿していた。
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