”黄金羅針”
どうも、作者です。六十五話です。
――痛かった、苦しかった。あの人に蹴られて、罵られて、どうしてこんなにも私を憎んでいるんだろうとそう思って仕方なかった。
それでも、私は何も辛くはなかった。だって知っていたから、お姉ちゃんなら助けてくれると知っていたから。
泉さんやクランさんが助けてくれると思っていたから。それでも、怖いものは怖かった……死んでしまったら、また、私は、皆と離れてしまう。思い出が消えてしまう。みんなが知っていることを、私だけ知らないのは、辛かったから。
いつも、お姉ちゃんは気遣ってくれたけど、それが辛かった。私の知らない、私との思い出を語らないように。それが何より、悲しかった。
お姉ちゃんが私をもう殺させないようにと、近くにいてくれたのはすごく、うれしかった。お姉ちゃんといられるのは、楽しかったし、幸せだったけど。それでも、お姉ちゃんが、お父さんみたいに世界を旅したいこともわかっていた。それが、お姉ちゃんがきっと受け継いだものでお父さんと同じもの。
だから、冒険者をやっていた頃みたいに泉さん達を助けてほしかった。でも、それであなたを守らないとと言われたときは、怒ってしまった。”私を言い訳にしないで”って言ってしまった。お姉ちゃんが何より、私は大切にしてくれていると知っていたのに。
だから、今回のことは謝らなくちゃだけど、それでもうれしかったから。
「――お姉ちゃん」
妹が目の前にいる。泉さんとエフィさんと一緒に出てくる。私はその体を抱きしめようとするが、体が汚れていると気づいてためらうと、アイカの方が抱きしめてくる。
「怖かった、怖かったよ、お姉ちゃあん!」
ああ、良かった、本当に良かった。貴方が無事で、良かった。
「貴方が無事でよかった、本当に」
周りには皆さんがいるのに、私たちは年甲斐もなく、泣きあった。
「――ハイカが泣いてるところ、初めて見たわ」
「あ、アメイ! 茶化さないでよ!」
アメイがいつの間にかこの場所に来ていた。彼も、一仕事やってくれたんだろう。というか、私の代わりに、私たちの事情を話したのはアメイだろうし。彼にも後で感謝しなきゃいけない。
「すまんすまん」
「もー! 私の泣き顔には何もなし!?」
別にないでしょう。あなたは別にアメイの前で感情を隠さないのですから。でも、どっちかというとアメイの方がアイカに泣かされていたような気がする。
「なんだそりゃ。別にお前の泣き顔なんて見飽きたわ」
「だからってノーコメントはひどい!」
「いっつも、変なところで突っかかるよなお前……そういうところ、ずっと変わってねぇよ」
その言葉にアイカは驚いた顔をする。
「私……本当に変わってない?」
「変わってないよ、俺が覚えてる限り、一度もな」
アイカは笑顔を咲かせて、照れ隠しなのかアメイを叩く。
「いてぇ! なにすんだよ!」
「何でもないよ!」
ああ、何だかんだアメイがいてくれてよかったと思う。アイカと私が、このダンジョン街に根を下ろすと言ったときも、付いてきてくれた。きっと本人に言ったら、”ジジイとの約束なんだよ”なんて流されてしまうだろうけど、それでも感謝の言葉は尽きない。
「それで、姉上に言わなくていいんかい?」
「あ……うん。お姉ちゃん、ごめんなさい、私のせいで」
アイカはそう謝るけれど、アイカが他のギルド職員をかばって攫われただけで、責任を問うのならば、ギルドマスターのソテルか、その代理をしていた私だろう。
それとも、喧嘩のことだろうか。でもそれは、よくあるすれ違いだから。
「謝らないで、アイカ。私にも責任がありますから」
私たちは、見つめあって笑いあう。互いに謝りあうだけでこんなにも心が軽くなるなんて思わなかった。
「ありがと……それで、お姉ちゃん、これからどうするの?」
アイカはそんなことを聞く。そうですね……さて、どうしましょうか。私はそう思って、泉さんとクランさんの方を向く。
(――全員無事でよかったな)
俺はクランに話しかける。なんだかんだほぼ全員無傷で生還できた。
(なーにが、無傷じゃ! ここにボロボロの人間がおるじゃろうが!)
さて、俺の視界にはそんな奴いないが。
(そりゃお前のことじゃからのう)
なるほど、俺のことか。それじゃ、死んでないから無傷だな。つばつけなくたって治るんだから。
(は~、まぁいいが)
そんなことを脳内で会話しているうちに、あっちの会話が終わったようでハイカさんがこちらに向く。顔はいつもの無表情だが、少し緊張しているような気もする。
一体俺たちに何の用だろうか?
「お二方、いえ、皆さん、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」
そう言って、アイカとハイカの二人は俺たちに深く礼をする。礼をされることは……いや、今回は俺たちのおかげか。まぁどっちかというと、未来さんのおかげなんだが。
もし、未来さんがいなければ、アイカが誘拐されていると気づくのに、どれくらいかかったかわからない。まぁ、それでも動いたのは俺たちか。
「ふん、アイカが攫われたんじゃ、友として助けねばならないじゃろう!」
「そうだね……ぼ、僕はまだ全然アイカさんと付き合いないけど、助けたいと思ったので……」
俺とヒビキさんもそれにうなずく。俺たちも助けたいと思ったから助けただけだ。
「皆さん……ありがとう……! それで、お姉ちゃん!」
「はいはい……一つお願いしていいですか?」
「なんだ?」
「私を、パーティに入れてくれませんか?」
……なんだ、そんなことか。むしろこっちから勧誘したかったくらいなんだが。
「なんじゃ、そんなことか、いいぞ」
「はは、あっさりですねぇ」
さらっと言ってのけたハイカに、ヒビキさんは笑う。そうか、俺たちは今、SSランク冒険者からパーティに入れてほしいと言われてるんだったな。
俺たちからすれば、受付嬢のお姉さんから、そう言われたという感覚の方が強い。前に、一回勧誘したしな。あの時は、何か言われてあしらわれたけど。
「アタッカー職は使えませんが……最初から、いえ途中からリスタートになりますが、よろしくお願いしますね」
そういえば、呪いのせいでアタッカー職はレベルダウンし続けるため使えないのか……だが、そもそも受付嬢状態で怖ろしく強かった人だ。あんまり関係ないだろう。
「さて、これで目標にしていた職業はそろったのう!」
厳密には、ハイカさんはアタッカーではないが、ほぼアタッカーみたいなものなので、確かに、目標にしていた攻撃職、魔法職、攻撃支援職がパーティに入った。
「だったら、そろそろパーティに名前を付けようよ!」
パーティ名?
「パーティってのは名前つけるもんなんだよ」
なるほど、そういうものなのか。アメイが言うならそうなんだろう。他の奴がつけるだろうと、周りを見渡すと、全員俺を見ていた。
「あれ? これ俺がつける流れか?」
「まぁ、お前がリーダーじゃし」
あれ、俺いつの間にリーダーになったの? なんか他の皆もそうなんじゃないのという顔をしている。
「いや、最初のメンバーがリーダーになるもんだろうし……俺は、まぁない。となると、お前かアイカだけど……」
うん、何故なのかアイカがリーダーという感じはしない。なんでなだろうな。こいつが一番動くし、お姫様で上に立つ立場なのにな。何故かこいつがリーダーと言うだけで不安になってくる。
「はぁ、考えとく」
「それじゃ、こやつが考え終わるまでに色々と片付けなければな」
確かに、倒した冒険者たちの治療に、生存した敵兵の拘束など、やることは山積みか。みんなは各々、動いていく。
「なんで、パーティに入ってくれたんですか?」
「気が向いたので」
なるほど、そう言われてしまっては、追及のしようがないな。はぁ、また適当にあしらわれてしまった。
「貴様ら! はよう手伝わんか!」
「行きましょうか」
仕方ない、作業しながら考えるか。
――結局、思いつかなかったが、クランに、アイカを探すために使っていた”それ”を返す時に思いついた。というか、そのまんまだが。他の皆も、それでいい、いやそれがいいと納得したのでそれに決めた。
俺たちはこれから……”黄金羅針”だ。
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