決着
どうも、作者です。六十四話です。
「――うーん、人に運ばれるというのは新鮮ですね」
背中越しに聞こえるハイカさんの声、まぁ人の背中に乗って運ばれるなんて子供の時くらいだろう。ハイカさんは重量軽減のために先ほどまで来ていた鎧を脱ぎ捨てていた。
俺はアイカのいるところに向かうため、全力で屋根の上を駆けていた。
「さっきまでいたところに向かうのは変な気分だな」
そう言うと、ハイカさんは小さく微笑む。ずいぶん、リラックスしているな。
「アイカが心配じゃないのか」
「心配ですよ……でも、あなた達がいますから」
そう言ってくれると、ありがたいな。ならもっと急ぐか。
「本当にレベル、私の半分以下なんですよね……あっちの様子はどうですか?」
そう言われて、俺はクランの視覚を覗き見る……まずそうだな、相手が何か詠唱している。その詠唱が終わると敵は手を天に掲げ、何か光があふれ出す。
一瞬、変な気分になったが、特になんともなかった。何だったんだ?
「何か光があふれてなんともなかった」
「……はい?」
どう説明していいものか分からなかったが、本当にそうだから他に言いようがなかった。しかし、その後のヒビキさんの説明で理解する。
「どうやら、相手の洗脳魔法を放ったらしいが、結局二人には一切効かなかったらしい」
「なるほど……」
そのまま様子をうかがっていると、相手が自分に魔法をかける。その瞬間、動きが変わる。
……まずい、これを喰らえば流石にクランがやばい。俺は速度を上げるが到底間に合わない、どうする。俺はクランたちがいる位置にあるマーキングを見る。距離は、数百メートル。
それと同時に、クランの視界を見る。さっきクランと入れ替わる前に作っていた魔法陣に、クランが飛び乗るのが分かる。
(クラン、上に跳べ!)
クランは俺に言われるがまま、上に跳ぼうと足に力を入れる。
『開放』
クランが飛ぶのと同時に、『設置』しておいた『脱兎跳躍』を発動する。そして、それと同時に、他に設置しておいた『魔鎖』で拘束。クランは上方向に大きく飛び、槌を構え始める。
だが、それで倒せなかった場合、クランが危ない。俺はサイドマーキングの位置を見て、狙いを定める。
「ハイカさん! 投げます!」
「! 了解しました!」
ハイカさんは驚くことすらなく、俺の提案を一瞬で理解し構えを取る。俺は遠慮することなくハイカさんの服の襟首部分を掴み、全力でぶん投げる!
その行動にクランが一瞬驚いて狙いを少し外していた。ちょっと申し訳ないが、これが最善だと思ったので仕方ない。
ハイカさんは、まっすぐマーキング部分に向かって飛んでいく、あっちは任せるしかないだろう。
「頼みました!」
ハイカさんにそう言って、俺は、アイカ達の方に向かう。あっちも無事かわからないしな。
――強敵と戦って、吹っ飛ばされたことは多々あるが、人を救うために投げ飛ばされるというのは初めての体験だ。
ダンジョンでの話を聞いたときも思ったが、泉さんはあれで結構大胆なことを考える。普通思いついてもノータイムで実行しないだろう。
あぁ、私もクランさんや泉さんのように、大胆に考えられれば、アイカともっと話し合えただろう。ずっと避けていた。アイカと正面から話すのが怖くて、あの子の知らないあの子の話をしそうで、でも、そんなものが先行して、私はあの子と話せていなかった。
話し合おう。これが終わったら、今の私の気持ちを、そしてあの子の気持ちを聞こう。今度は真正面から、あの子の言葉を。そして、”彼ら”とも、本音で話し合おう。
――さて、見えてきた。
私は受け身を取って着地する。敵の様子を伺う。恐らくクランさんがやったのだろうが、右肩から先が砕かれており、完全に満身創痍である。
クランさんの方もかなり消耗しているが、どうやら無事らしい。吸血鬼だから簡単には死なないでしょうが。
「お待たせいたしました、『騎士』レイド、もといハイカ、到着しました。さっきぶりですね――クランさん、私いりますかね?」
私はクランさんに聞き返す。正直、私いらなくないですか? 相手もう満身創痍ですし、
「何を言うておるか! 相手はアイカをさらった張本人であろうが!」
――それもそうですね。はぁ、怒りで冷静さを失う前に終わらせるとしましょう。
敵は満身創痍の身体ながら、一切表情に表れていない。泉さんが言っていた自身に洗脳魔法をかけたという奴か、流石にあの傷では私の師匠でも苦悶の表情をしますね……いや、あの人意外と顔に出るタイプでした。
敵は私を視認した瞬間向かってくる。職業を変更してから、五分十九秒、現在のレベルは、93。最初は168でしたから、随分と下がりましたね……。
ですが、問題ないでしょう、”あれ”ぐらいなら、一撃で終わらせられる。私は剣を構える、敵の動きは確かに、無駄がない。しかし、感情がない故に単調と言っていいだろう。
これなら如何様にでも、やれる。敵の刃が私に向かう。その姿は無感情に見えて、どこか殺意が漏れ出てる。はぁ、自分すら偽れないなら、他者に自分の考えを押し付けるものではない。これを教訓とすることなく――死ね。
敵の剣に合わせて己の剣の刀身を合わせる。敵の剣は刀身に合わせてそれていく、そうして剣の先に表れるのは、敵の首。私はそこに剣を合わせる。それで、終わり。本当は、痛めつけたいくらいだが、それよりこの男が生きていることが許せない。
「倒す倒す倒す倒す――」
「あ、イズミさん! 助けて、エフィさんが戻んないの!」
これは、すさまじい光景だった。壁が崩れた部屋、周りには負傷した人間が五、六人、いや、何人かは死んでいる。すべて、エフィがやったんだろう。多分、敵を倒すことだけに脳みそのリソース全部使ったな。
流石に現代人の俺からすれば、中々見れたものじゃないが、言ったのは俺だしな。きっとこれからも、こんなことが起こるかもしれない。慣れたくないが、慣れるしかないだろう。
さて、エフィが戻らなくてアイカが困っている。確かこういう時は……
「文化紀行記にも書かれた帝国最初の英雄にして、その時代でも最強と言われた騎士は?」
「グロリア・アンフィ! へ?」
エフィはこんな感じで一つのことに熱中しすぎる癖が昔からある。その度にクランはこうやって気を引いて直していた。記憶通りでよかった。
「エフィ、アイカを守ってくれてありがとう」
「え……あ、そうか、守りきれたんだね……良かった」
「アイカ、大丈夫だったか?」
俺はアイカに手を差し伸べる。アイカは嬉しそうに俺の手を掴んで、勢いをつけて立つ。とりあえず、大丈夫そうだ。
「それじゃ、ハイカさんのところに行くか」
「……うん!」
アイカは一瞬悩んで、すぐに笑顔に戻る。これから、この笑顔は守っていかなきゃな。
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