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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
二章 ■■にあつまれ
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世界は置いていく

どうも、作者です。五十六話です。

「あいつらの名字は”カナエ”。俺はよく知らんが、ジジイ曰くそこそこ珍しいらしいが」


確かに叶という名字は、小山よりは珍しいな……というか、


「ジジイ?」


「あ~、すまん。勇者相手にジジイはあれか、俺からすると村でのほほんとしてるだけのジジイなもんで」


勇者をジジイ呼ばわり……いや、そうか。アメイはハイカさんと、アイカの幼馴染なわけだから、勇者と昔なじみになるのか……。


アメイに日本語を覚えさせた相手は、勇者なのか。確か、勇者は異世界人しかなれないはずだ。何より、だからこそ説得力がある。アイカもハイカも、日本語が使えるのが何よりの証拠だろう。


「ま、お察しの通り俺たちが日本語を覚えたのは、勇者様のおかげってわけだ」


やっぱりそういうことなのか。というか、初手こんな飛んでも情報なのか。そう思ったが、他の奴ら、厳密には、ヒビキさんとクランはあまり驚いていない。エフィは多分めちゃくちゃ驚いているな。完全に固まっている。


いや、魔王からすれば、勇者って天敵なのか?


「やはりか……時期的にそうだとは思っておったが……まさか、姉妹の父だとは思わなかった」


なるほど……予測はついていたのか。まぁ、異世界人自体珍しいみたいだし、そう多くはないんだろう。


「それで……まだ何かあるんですよね?」


ヒビキさんは、アメイに問う。そうだ、これはあくまでアイカとハイカさんの話の前座だ。前提条件に過ぎない……。前提にしては、かなりやばい情報な気がするが。


「ああ、あの二人は、勇者の娘……だからか、あのジジイの力の一部を受け継いでやがる」


つまり、二人には勇者の力が流れているのか……。


「ハ、ハイカさんが強いのはそれが理由なんですね……」


理解が追い付いてきたエフィは、そういう。確かに勇者の娘だというのならば、あの強さも納得だ。


「いや……それは別。あいつの強さはどっちかというと」


「『騎士』ですね……勇者と同時期に活躍した”英雄”」


『騎士』と『勇者』。なんだかすさまじい二つ名だな。


「その『騎士』と『勇者』って」


「最強の英雄じゃ……歴史上に数多いる英雄……その最新にして、歴代でも最強と言われている英雄たちじゃ」


最強……それも、歴代の英雄たちすら凌ぐほどの、か。


「ああ、ハイカの師匠はその『騎士』だ」


『勇者』の娘で……『騎士』の弟子……? ハイカさん……俺たちが思っているよりやばい存在じゃないか?


というか、


「その二人、『騎士』はともかく、アイカとハイカさんの年齢的にまだ生きているんじゃないか?」


ハイカさんは……正確な年齢は分からないが、アメイと同じくらいの年齢だとしたら、そこから逆算しても四、五十代だろう。


「……死んだ。二人とも……同じ戦場でな」


「”厄災”……ですね」


待て、最強の英雄が、二人とも同じ戦場で……?


「わしもその話は詳しく知らなんだ。まさか、同じ戦場とはの」


「まぁ、そういうことだ。その話もどっかで詳しくするとして、とにかく、本題はアイカだ」


かなり気になる情報だが、確かに今はアイカのことだ。


「そうか、アイカにも勇者の力が受け継がれておるのじゃったな」


「厳密には、勇者の血でスキルが覚醒したって感じだ」


スキルの覚醒。つまり、今回の話はそのスキルのことか。


「アイカのスキル、名前は『回帰蘇生(セーブポイント)』、死亡した時、自分にとっての安全圏で蘇生するスキルだ」


……一度、アイカが死ねば”勝ち”。なるほどそういうことか。だが、そううまい話があるわけがない。


それは、何より苦しそうに語るアメイの顔が物語っている。


「……デメリットは何じゃ」


クランもそれが分かっている。だからこそ、クランの言葉にいつもの軽さが一片もない。


「人によってはデメリットじゃないかもな……”回帰”。十年の逆行、つまり、死ぬ度に十年若返るってことだ……はっ、事実上の不老不死さ」


……その言葉に、誰一人として安堵を浮かべることはなかった。クランは怒りをにじませ、ヒビキさんは、下を向く。エフィは絶望をにじませている。俺は……どんな顔をしているだろうか。


それは、それはあまりに”悪辣”すぎるスキルだ。十年の逆行、それはつまり、何もかも巻き戻るということ、肉体も、経験も、そして、記憶さえも。


「まさか……まさかと思うが!」


クランはそう大声を上げ立ち上がる。ここでその話をした。そして、今までの違和感がすべてそれで”説明”がついてしまう。


「ああ、ああそうだよ! あいつは、あいつは一度、そのスキルを発動させられた!」


感情を押し殺さず、苛立ちを全て机に叩きつける。


つまり、もうアイカが歩んだであろう十年間は、消え去っている。


「ハイカがああしてここにいるのはそれさ……三年前、俺たちの村が襲われた。”勇者の娘”を狙ってな。ハイカはそれを助けるために、動いた。結果は今言った通りさ」


結局救いきれず、アイカは一度……死んだ。


それで、今までの違和感を思い出す。まるで、同い年の幼馴染にそうするようにアメイに接するアイカ。過保護なハイカさん、そして、ハイカさんが言っていた、”救えなかった”の本当の意味。


「じゃあ、アメイとアイカは」


「本当は同い年……だった」


それは、二人にとって、どんなにつらいことなんだろうか。十年の記憶を保持しているアメイと、十年の記憶を失ったアイカ。二人のやり取りを見ると、きっと、ずっと良好な関係だったはずだ。


だが、これで理解する。さっきの勝利条件の意味を……だが、それは


「絶対なしだ。それが一番合理的だとしても……それだけは許さない」


俺は、その言葉を、なんとか気持ちを抑えて言葉を出す。


(抑えられてないわい……じゃが、それでいい)


クランは肯定してくれる。例え死んで生き返るとしても、絶対にそれだけは許さない。


「……ああ、お前らならそう言ってくれると思ってた。じゃあ、今の話は全部なしだ。アイカを死なせずに救出する」


俺たちはうなずく。ハイカさんとアイカ、二人は思ったよりすさまじい人物だったが、しかし、今までと変わりない。


「じゃが、余計にアイカを放っておくわけには行かなくなったのう」


「そうですね……ただでさえ、前代の『勇者』と聖王国の折り合いは悪かったのですから」


前代……か。そういえば、今は新が勇者だったな。


勇者と仲が悪かった聖王国、そしてその娘が聖王国の組織に攫われた……か。だが、今の話を聞くと、


「まるでギルドと聖王国と一緒だな」


「そ、それはそうですね……でも、前代の勇者はセントラルフラッグのギルド総括だったので……」


ギルドのトップだったのか……。それは折り合いが悪いわけだ。


「ま、とりあえず、アイカの救出作戦、こっからはその話だな」


「ええ、今のところ、私たちは圧倒的不利、それでも覆して見せましょうか」


ああ、アイカを救う。その意思はより強固になった。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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