世界は置いていく
どうも、作者です。五十六話です。
「あいつらの名字は”カナエ”。俺はよく知らんが、ジジイ曰くそこそこ珍しいらしいが」
確かに叶という名字は、小山よりは珍しいな……というか、
「ジジイ?」
「あ~、すまん。勇者相手にジジイはあれか、俺からすると村でのほほんとしてるだけのジジイなもんで」
勇者をジジイ呼ばわり……いや、そうか。アメイはハイカさんと、アイカの幼馴染なわけだから、勇者と昔なじみになるのか……。
アメイに日本語を覚えさせた相手は、勇者なのか。確か、勇者は異世界人しかなれないはずだ。何より、だからこそ説得力がある。アイカもハイカも、日本語が使えるのが何よりの証拠だろう。
「ま、お察しの通り俺たちが日本語を覚えたのは、勇者様のおかげってわけだ」
やっぱりそういうことなのか。というか、初手こんな飛んでも情報なのか。そう思ったが、他の奴ら、厳密には、ヒビキさんとクランはあまり驚いていない。エフィは多分めちゃくちゃ驚いているな。完全に固まっている。
いや、魔王からすれば、勇者って天敵なのか?
「やはりか……時期的にそうだとは思っておったが……まさか、姉妹の父だとは思わなかった」
なるほど……予測はついていたのか。まぁ、異世界人自体珍しいみたいだし、そう多くはないんだろう。
「それで……まだ何かあるんですよね?」
ヒビキさんは、アメイに問う。そうだ、これはあくまでアイカとハイカさんの話の前座だ。前提条件に過ぎない……。前提にしては、かなりやばい情報な気がするが。
「ああ、あの二人は、勇者の娘……だからか、あのジジイの力の一部を受け継いでやがる」
つまり、二人には勇者の力が流れているのか……。
「ハ、ハイカさんが強いのはそれが理由なんですね……」
理解が追い付いてきたエフィは、そういう。確かに勇者の娘だというのならば、あの強さも納得だ。
「いや……それは別。あいつの強さはどっちかというと」
「『騎士』ですね……勇者と同時期に活躍した”英雄”」
『騎士』と『勇者』。なんだかすさまじい二つ名だな。
「その『騎士』と『勇者』って」
「最強の英雄じゃ……歴史上に数多いる英雄……その最新にして、歴代でも最強と言われている英雄たちじゃ」
最強……それも、歴代の英雄たちすら凌ぐほどの、か。
「ああ、ハイカの師匠はその『騎士』だ」
『勇者』の娘で……『騎士』の弟子……? ハイカさん……俺たちが思っているよりやばい存在じゃないか?
というか、
「その二人、『騎士』はともかく、アイカとハイカさんの年齢的にまだ生きているんじゃないか?」
ハイカさんは……正確な年齢は分からないが、アメイと同じくらいの年齢だとしたら、そこから逆算しても四、五十代だろう。
「……死んだ。二人とも……同じ戦場でな」
「”厄災”……ですね」
待て、最強の英雄が、二人とも同じ戦場で……?
「わしもその話は詳しく知らなんだ。まさか、同じ戦場とはの」
「まぁ、そういうことだ。その話もどっかで詳しくするとして、とにかく、本題はアイカだ」
かなり気になる情報だが、確かに今はアイカのことだ。
「そうか、アイカにも勇者の力が受け継がれておるのじゃったな」
「厳密には、勇者の血でスキルが覚醒したって感じだ」
スキルの覚醒。つまり、今回の話はそのスキルのことか。
「アイカのスキル、名前は『回帰蘇生』、死亡した時、自分にとっての安全圏で蘇生するスキルだ」
……一度、アイカが死ねば”勝ち”。なるほどそういうことか。だが、そううまい話があるわけがない。
それは、何より苦しそうに語るアメイの顔が物語っている。
「……デメリットは何じゃ」
クランもそれが分かっている。だからこそ、クランの言葉にいつもの軽さが一片もない。
「人によってはデメリットじゃないかもな……”回帰”。十年の逆行、つまり、死ぬ度に十年若返るってことだ……はっ、事実上の不老不死さ」
……その言葉に、誰一人として安堵を浮かべることはなかった。クランは怒りをにじませ、ヒビキさんは、下を向く。エフィは絶望をにじませている。俺は……どんな顔をしているだろうか。
それは、それはあまりに”悪辣”すぎるスキルだ。十年の逆行、それはつまり、何もかも巻き戻るということ、肉体も、経験も、そして、記憶さえも。
「まさか……まさかと思うが!」
クランはそう大声を上げ立ち上がる。ここでその話をした。そして、今までの違和感がすべてそれで”説明”がついてしまう。
「ああ、ああそうだよ! あいつは、あいつは一度、そのスキルを発動させられた!」
感情を押し殺さず、苛立ちを全て机に叩きつける。
つまり、もうアイカが歩んだであろう十年間は、消え去っている。
「ハイカがああしてここにいるのはそれさ……三年前、俺たちの村が襲われた。”勇者の娘”を狙ってな。ハイカはそれを助けるために、動いた。結果は今言った通りさ」
結局救いきれず、アイカは一度……死んだ。
それで、今までの違和感を思い出す。まるで、同い年の幼馴染にそうするようにアメイに接するアイカ。過保護なハイカさん、そして、ハイカさんが言っていた、”救えなかった”の本当の意味。
「じゃあ、アメイとアイカは」
「本当は同い年……だった」
それは、二人にとって、どんなにつらいことなんだろうか。十年の記憶を保持しているアメイと、十年の記憶を失ったアイカ。二人のやり取りを見ると、きっと、ずっと良好な関係だったはずだ。
だが、これで理解する。さっきの勝利条件の意味を……だが、それは
「絶対なしだ。それが一番合理的だとしても……それだけは許さない」
俺は、その言葉を、なんとか気持ちを抑えて言葉を出す。
(抑えられてないわい……じゃが、それでいい)
クランは肯定してくれる。例え死んで生き返るとしても、絶対にそれだけは許さない。
「……ああ、お前らならそう言ってくれると思ってた。じゃあ、今の話は全部なしだ。アイカを死なせずに救出する」
俺たちはうなずく。ハイカさんとアイカ、二人は思ったよりすさまじい人物だったが、しかし、今までと変わりない。
「じゃが、余計にアイカを放っておくわけには行かなくなったのう」
「そうですね……ただでさえ、前代の『勇者』と聖王国の折り合いは悪かったのですから」
前代……か。そういえば、今は新が勇者だったな。
勇者と仲が悪かった聖王国、そしてその娘が聖王国の組織に攫われた……か。だが、今の話を聞くと、
「まるでギルドと聖王国と一緒だな」
「そ、それはそうですね……でも、前代の勇者はセントラルフラッグのギルド総括だったので……」
ギルドのトップだったのか……。それは折り合いが悪いわけだ。
「ま、とりあえず、アイカの救出作戦、こっからはその話だな」
「ええ、今のところ、私たちは圧倒的不利、それでも覆して見せましょうか」
ああ、アイカを救う。その意思はより強固になった。
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