天秤の崩し方
どうも、作者です。五十五話です。
俺とアメイはギルドに行く。未来さんの”未来視”の状況を確認するために。ギルドの受付には……アイカがいない。もう、嫌な予感はする。
俺たちは冒険者の声が騒がしいギルドを通り過ぎ、いつもの七番受付につく。
「泉さん、今日もクエストですか?」
「いや、今日は休みにしようと思って」
建前だが、どこに敵の目があるかわからない以上、いつも通りを装う必要がある。しかし、ハイカさんの雰囲気はいつもより固い。
「では、今日は何を?」
「この前の冒険者たちの件、どうなった? 喧嘩売ってきた冒険者の処罰とか気になってな」
建前だ。そんなものに興味はない。お願いだ、言ってくれ、”手伝ってくれ”でも、”助けてくれ”でもいい。
「その件は、解決いたしました。ですので、ご心配なく、今まで通りクエストをお受けください」
「……そうか。アイカは何処にいる?」
「……今は裏で昨日できなかった書類仕事に忙殺されています――今は会わせることはできません」
それは、拒絶の言葉だった。そして、アイカがもう、捕まっていることは確定的だった――クソが。
「……また来るよ」
「ええ、しっかり、”お休み”ください」
俺は踵を返す。
(クラン)
(わかっておる……抑えろよ)
分かってる。これでも俺は、表情には出ないタイプだ。
「……ハイカ」
アメイがハイカに声をかける。
「……仕事、暇だったらまた手伝うよ」
やっぱり、前から手伝っていたんだな。二人の、嫌アイカを含めた三人の幼馴染は、いったいどれほど長い時間の過ごしていたんだろうか。
「いつも悪態をついていた貴方が言うなんて、今度手伝ってください」
「その時、今みたいな気分だったらな……たまには休めよ」
その言葉と共に振り向く。アメイの表情は、平静を装っているが俺なんかよりよほど、怒っているように見えた。
俺たちは、いつもより、随分と静かなギルドを後にする。
「――やはり、アイカさんは……」
「誘拐されている……んですね」
俺たちはアメイの家に集まっていた。正直、ここが一番安全に話せる場所だし、クランの隠蔽魔法で、声なども漏れないようにしてある。
雰囲気は暗いままだ。アメイもクランも――多分俺も相当苛立っている。
「それで泉、その話は誰から聞いた?」
「未来さん……赤月の女神だ」
その言葉に一番驚いたのはエフィだった。それもそのはずだろう。自分を作った女神様そのものであるのだから。
「え……!? ク、クランは知ってたの?」
「知っていたというか……わしとこいつは繋がっておるからの。こやつと女神さまの会話はすべて知っておる」
そういうことだ。つまるところ、俺が眷属である以上、クランも自動的に眷属になる。
「お二方が眷属ですか……」
「しかも、青月じゃなくて赤月の……か。こりゃまた厄介な」
二人も俺たちが赤月の女神の眷属と知って、考え込んでいる。
「こんな状況じゃなきゃ、根掘り葉掘り聞いてやるところなんだが……今はそれどころじゃねぇ」
「そうですね、今はアイカさんのことです」
眷属の件は後回し、それはここにいる全員が共通して思っていたことだ。といっても、眷属だからと言って大したことはないのだが。
「さて、状況を整理すると、アイカさんが誘拐されたのは確定。敵は聖王国の手先。そして、冒険者を操りギルドに嫌がらせをしていた相手と同じとみて間違いないでしょう」
ヒビキさんが簡単に整理してくれる。それで間違いない。
「それで、ハイカ殿の状況を見る限り、わしらに協力をできない状況なのは確定じゃな」
「そうだね……多分、相手から何かしらの条件を突き付けられて、その中に冒険者の助力禁止って書いてある……のかな」
クランとエフィがそう述べる。ヒビキさんもそれにうなずく。エフィの鋭い考察に俺は少し面食らっているが、やはり魔王として、そっち方面には多少知識があるのだろうか。
「とはいえ、私たちのやるべきことは一つ」
「アイカを助けること」
俺は、ヒビキさんの言葉を先取りするようにそう言う。その言葉に、全員うなずく。だが、
「ここまで付き合って貰って悪いが……ヒビキさんとエフィはいいのか?」
二人は本質的には関係ないはずだ。確かに面識はあるだろうが、ほとんど他人と変わらないはずだ。
「ク、クランの友達……だし、僕も知ったうえで関わらないなんて、嫌だ」
エフィはまっすぐな言葉でそう言ってくれる。
「私も同意見です。それに、彼女は私のファンですから」
ヒビキさんも優しい笑みでそう言ってくれる。二人の言葉にこちらの留飲も少し下がる。本当にありがたい。
「と、それも本心ですが……そもそも、場合によってはこの街の危機かもしれません。アメイさん、あなたの意見を聞かせてください」
アメイはこの街のことに詳しいし、ギルドとのかかわりも深い。多分、聖王国とギルドの事情も詳しい。
「……多分、聖王国は相当無茶な要求を突きけているはずだ。それが通る可能性があるからな」
「どういうことだ?」
「ギルドは職員を大事にする。一番重要な財産だと思ってるからな……それに、だからこそ職員は安心して仕事ができるわけだからな」
そういえば、文字が読める人間は貴重だったはずだ。その文字が読める人間をギルドはたくさん抱えている。それだけ、強い信頼関係がギルドと職員にあるのか。
「つ、つまり、職員を取るか、冒険者を取るかの二択……ですね」
「それに、今回要求を拒んだとて、聖王国の人間はもうギルドに入り込んでいる……じゃったら、また職員が狙われるだけじゃ」
それを避けるために、職員を守ろうとしたら、今度はギルド運営がままならない。
「最悪の天秤……ですね。どちらを取ろうとも、この街のギルドは瓦解する」
これは、この街そのものの危機か。ただでさえ、冒険者の中に、いやギルドの中にさえ、洗脳された人間がいるかもしれない。
「『シゲン』は、ただでさえ聖王国とギルドの対立の最前線、こういった危機は今までもあったでしょうが……」
「今回はそれどころじゃねぇな……ここまで用意周到にやってきたのは初めてだ」
敵も本気……か。
「これは……赤の女神には感謝するべきですね……最悪、何もできずにこの街は終わっていた」
「つっても、こっちは五人だがな……」
だが、五人いる。何より、
「こっちの勝利条件は、アイカさんの救出すること、それだけです」
「な、何でそうなるんですか? 確かに、アイカさんを救出する必要があるのは分かりますが……」
確かに、さっきも言った通り最悪の天秤だ。もしアイカを救出したとしても、次があるだろう。
「いいえ、相手はそれをいつでもできた、ならそれが何故”今”なのか」
「ギルドマスターの不在、あの人一人で相手の計画は台無しになる」
あの人どんだけ強いんだ。
「本当はハイカもその一人なんだが……あの通り、受付嬢だからな……」
そんな最強のギルマスと同等クラスなのか……あの人、本当に何者なんだ?
「救助さえできれば、ギルドはあの人が来るまで守りに徹するだけで、勝ちです」
なるほど、本当にアイカを救出するだけでいいのか。
「さて、なら後は、助け方か」
「その前に……お前らに話しておく」
それはきっと、二人の話。
「ああ、正直なことを言うと、”勝つ”だけなら、簡単な方法がある」
「それは……」
「アイカを”一度”殺すこと」
一度……その言い方はあまりに不可解だった。
「とりあえず、その話も含めて、説明する――あいつらは”勇者の娘”だ」
それは、アイカとハイカのお話。
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