ギルドの怪物
どうも、作者です。四十八話です。
間違えて、前日にも投稿したやつです。すみません。
ギルドでの揉め事、というのは初めて遭遇する。町中では度々起こるが、基本は不干渉がルールだ。もちろん、喧嘩の範囲であることが条件だが。
だが、それも冒険者同士であるのが条件だ。市井の人間やギルドの一般職員相手にケンカを売るのは、よくない。
俺とクランは受付嬢にいちゃもんをつける冒険者を止めるために近くまで来た。
「――冒険者様、どうかなされましたか?」
あれは、俺たちがたどり着いた頃、一人の小柄な女性が、いちゃもんを付けていた冒険者に声を掛けていた。
(あれは、ハイカ殿か)
そう、ハイカさんだ。落ち着いた声音で対応している。慣れているんだろう。だが、それより気になるのは、周りの視線だ。
こういうとき、大体冒険者たちはやじを飛ばして面白がったり、興味の視線を向ける。しかし、周りの人間は、ハイカさんが出た時点で冷めた視線を向け、興味を失っている。
これは、下手に動かない方がいいかもしれない。周りの反応の理由が気になる。
「この女が俺の依頼報酬ちょろまかしてんだわ! ねぇどうしてくれんの!」
いかにもチンピラっぽい言い分だ。それに対して受付嬢はそんなことはしていないと視線をハイカさんに送る。
それに対してハイカさんはため息をつく。
「はぁ、事情は分かりました。それが真実かどうかはコチラで調べますので、ここでの暴力行為はおやめください」
「あ? んなこと言って適当に言い逃れするだけなんだろ?」
そう言って苛立ちを募らせる冒険者。今にも殴り掛かりそうな勢いだ。まずいか?
「そう思われても仕方ありませんが、こちらはギルド、セントラルフラッグです。すべての冒険者様、公平と誠実を約束するのが我々です。どうか、それを信用してくださると幸いです」
その言葉を信じ切れなかったのか、それとも何か癪に障ることでもあったのか、男はハイカさんに殴りかかる。
「じゃあ、信用代わりに今証明してみろよぉ!」
ハイカさんに殴りかかる冒険者。俺はまずいと思って駆け出す。間に合わないことはない。少しギルドの床に傷をつける可能性はあるが。
(! 泉待て!)
俺はその言葉で足の踏み込みを止める。俺はクランに止められて、一瞬クランの方に目をやる。しかし、クランは向くのはこっちではないという。俺は改めて冒険者たちの方を見る。
――冒険者が倒れている。変わったのはたったそれだけ。だが、その変化はあまりにもおかしな話だった。俺が振り向いたのは一瞬だけ。だが、その瞬き程度の時間で冒険者は倒れていたのだ。
(まさか、ハイカさんが?)
(そのまさか、意外なさそうじゃのう)
クランはそう冷静に分析する。実際距離的にハイカさん以外があの冒険者を下すなんてことをするのは難しいだろう。いや、あの一瞬で倒すのもかなり難しいと思われるが。
冒険者も気絶しているわけではないらしく、自分に何が起こったかわからないという表情だ。
「冒険者様、こちらも公平と誠実を約束するとともに、だからこそ、ルールを破る冒険者には相応の罰を与えます。特にギルド職員への暴力は重罰となりますので、悪しからず」
ハイカさんは、倒れている冒険者にテンプレートのような文言を言い放つ。この言い方に慣れているのかよどみなく言い切る。
「ク、クソが……!」
冒険者は起き上がり、苛立ちを抑えきれないのか、握りこぶしを作って今にも殴り掛かりそうだ。
「冒険者様……”二度目”はありません。それだけは覚えてお帰り下さい」
その言葉を放つハイカさんには、いつもの穏やかな雰囲気はなく、静かな殺気だけを放っている。無視を決め込んでいた冒険者でさえ、怖気で目をそらすどころか、背を向けている。
冒険者も、行き場を失った握りこぶしを解き、睨むことしかできないようだ。
結局、その冒険者は逃げ帰るようにギルドを出ていった。ハイカさんは、いちゃもんをつけられていた受付嬢と話している。慰めているだろうか。
俺たちがハイカさんに声をかけるか悩んでいると、後ろからアメイたちが声をかけてきた。
「一旦食事処行くぞ」
「――”ギルドの怪物”ってもしかして……?」
「知ってたのか?」
「知っていたというより、この前冒険者が言っていたことじゃ」
俺たちの顔を見て、”ギルドの怪物には言うな”と言われたのだ。俺たちの知り合いのギルド関係者かつ、七番という単語で何となく察しはついていたが。
「え、えと、何となく理由は分かりますが、一応聞くとギルドの怪物って言うのは……」
一番事情が分かっていないエフィが質問する。だが、それでもさっきのひと悶着で何となく察してはいるらしいが。
「お察しの通り、ハイカのことだ。このギルドで揉め事があった場合、ハイカが実力行使で止めることが多いんでな」
なるほど、今までもそうやって対処してきたんだろう。だからあんなに恐れられるわけだ。何が恐ろしいかと言えば、大半の冒険者、それこそ実力者でさえ恐れている点だろう。
「もしかしてじゃが、七番受付に人がいないのは……」
「そ、ハイカを恐れて、だ。ほら、青月の始月に新規冒険者が集中するって話したろ? そのころにはまだいるんだが、逆を言えば、そのころに”おいた”をする奴が多くてな、まぁそうなるとハイカの制裁回数が増えるわけで……」
結果的にハイカさんは恐れられ、あの受付に近づく人間がいなくなると。
「ま、逆を言えばあそこに行くのは文字が読める初心者だけっていう寸法なんだが……」
「なるほど……あの強さ、ただの受付嬢ではありませんか、やはり」
ヒビキさんはどうも察していたらしい。
「どこで分かったんだ?」
「だてに長生きしてないですから、強い人間は百万と見てきましたので」
優しい笑みでそう言うヒビキさん。事実であろうから怖い。何せ数百年にわたって、文化の記録をし続けた人だ。その間にきっと想像しきれない数の人間と交流して、そして観察し続けたんだろう。
だが、そんなヒビキさんをもって”強い”と言わしめるハイカさんはどれほどのものなんだろうか。そして、そんなハイカさんはどうして受付嬢をやってるのか。
今まで、ハイカさんのアドバイスが的確なのは、受付嬢としての経験なのだと思っていたが。
「ハイカさんは元冒険者か?」
その言葉に、アメイは無言のままうなずく。やはりそうらしい。
「もしかしてじゃが、お主を鍛えた師匠というのは……」
「”知識”はともかく、俺の今があるのは確実にハイカのせい」
つまり、あの『食らって慣れろ』の精神は、ハイカさんが言ったものだったのか。確かに、ハイカさんは、今まで挑戦するのを”待つ”よう言ったことはあっても”やるな”と言われたことは一度もないな。
「も、もしかして、妹さんの方も」
そう杞憂するエフィ。しかし、恐らくだが、
「まぁ……いや、あいつは正真正銘普通の受付嬢だよ」
どうも、アイカの方にも何かある気配はある。何か持っているんだろうか。この世界、スキルのせいで一般人みたいな姿でも油断できない。
しかし、アイカに戦闘能力はないのは事実だろう。でないと、あそこまでハイカさんが気にかける必要はないだろう。
「じゃが、なら何故ハイカ殿は冒険者を引退したんじゃ?」
やはり、一番の疑問はそれだ。恐らく、冒険者の中でもかなりの上澄みだったはずだ。それが何故受付嬢をしているのか。
「一個は受付嬢は冒険者になれないこと……つってもそれなら冒険者をやらない理由としては薄いわな。他にも理由はあるが……そいつは本人が言わないんじゃ俺からは言えないわ。あいつの事情だしな。つーか、ギルドの怪物って話だけでも、本当は言う気なかったわけだし」
それはそうか。ハイカさんが冒険者をやらない理由、気になりはするが、ハイカさんの方が言いたくないならどうしようもないな。
「そして問題は……なぜ今、このギルドで揉め事が起きたのか、ですね」
「そこなんだよな、まぁこの時期に経験者がこのギルドに来ること自体はまぁ、あるわけだが……にしたって、だな」
結局、結論は出ない。ギルドの怪物、ギルドでの揉め事。この先、何もなければいいんだが。そうならない可能性ばかりが、見えて仕方なかった。
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