新装備
どうも、作者です。四十五話です。
ああ、なんて清々しい朝なんだろう。ダンジョン街の建物で監視塔を除けば一番大きいギルド。そこから入る朝日は気分のいいものだ。
問題があるとすれば、私が昨日仕事を放りだして一日の半分以上寝ていたこと。そして何より、何故か魔王と著名な竜人がいたことだ……何でこうなったのぉ!?
「あ、起きたな」
寝起きの私を迎えたのは、アメイと……昨日来たお二方だった。魔王はいいとして……いや全くもって良くないのだが、とりあえずいいとして
「どうして、『文化紀行記』のヒビキさんがここにいるんですか……とりあえずサインください」
私は多分いつもと変わらない表情で言う。こういう時、表情筋が硬いのは不便だ。かなり困惑してるのに、周りの人間には誤解されがちだ。
「いいですよ。ちなみに私は偶然イズミさんに道を尋ねらご飯に誘われました。なのでただの成り行きです」
何故成り行きで竜人と出会うんだろう。あの人、吸血姫と出会ったり竜人と出会ったり、あの人は特殊な人達を寄せ付ける何かがあるのだろうか。
それはそれとして、『文化紀行記』のサイン入り本、これはいいですね。
「というか、何で三人なんですか?」
確か、後アイカと泉さん、クランさんがいたはずだ。アイカは……多分私と顔を合わせたくなくて仕事に行ったのだろうが……血反吐でそう。
「ど、どうして急に顔色悪くなったんですか!?」
「安心しろ魔王殿、妹成分が足りなくて死にそうなだけだから。あとあの二人は工房に装備取りに行った」
ええ、問題ないですよ。アイカともう五日ほど話せていないだけですから。死にそう。
そういえば、二人はもともと装備ができるまでクエストに行かないという事情があったから料理を作っていたんだしたっけ。あ、とんかつありますね。
ちゃんと保存がされているのは、アメイの仕事でしょう。本当にこういうとこは気が利きますね。まぁ、多少腐っていても食べられるんですが。
「そ、その魔王様って言うのは、や、やめてください……正直、魔王って言われる程威厳ありませんし、エフィでいいです」
エフィはさっきのアメイの発言に対してそう言う。まぁ、実際こうしてみると普通の気弱な少年にしか見えない。一応、遠慮なく腰から垂れている尻尾で魔尾の種族なのは分かるのだが。
あ、一日経ってもおいしい。泉さん、あの感じで料理もできるのなら、表情筋が動かない以外は欠点がないんでしょうか。表情筋に関しては私も人のこと言えませんが。
「ま、そういう訳で、とりあえずあいつらが装備をもらってくるまでは待機だ。ただ、俺が気まずくて仕方ないから助けてくれ」
それ本人達の前で言うんですね……。まぁ、明らかにケロッとしているヒビキさんはともかく、エフィさんの方は決まずではある。しかし、
「私も昨日の仕事が丸々残っているので、これを食べたら仕事に戻ります」
はぁ、何故このタイミングでソテルはいないんでしょうか? いえ、時期的に今くらいしか会議ができないのは分かっていますが……。というより、このタイミングで、お二方が来た方がおかしいですね。
「というか、本当はヒビキさんに質問したいことが多いのに仕事をやらなければならない私を慮ってください」
「自分で言うなよ……同情はするけど」
はぁ、とにかく仕事を終わらせなければ……。はぁ、アイカと話したいです。
(――泉、わしを抱えて走っていいぞ!)
この前は、街中でわきに抱えるなと怒っていたくせに、調子のいい奴め。とはいえ、浮足立つのもわかる。約束通りであれば、もう装備はできているはずだ。
(落ち着け、せめて人がいないところまでは待て)
(ううむ、仕方ないのう)
鍛冶工房に着く。結局本当に周りに人間がいないのを確認して、こいつを抱えて走った。じゃないと、こいつが面倒くさいからな。
さて、工房からは特に工房から槌の音は聞こえない、少なくとも邪魔になることはないだろう。
クランが扉を勢い良く開けようとして、やめる。多分、この前、マゼランに似てるって言われたの気にしてるな。
「バレン殿! 装備はできておるか?」
「来たか。朝一番とは、間に合わせた甲斐はあったらしいな」
そう言いながら、バレンさんは、こちらに顔を向けず何かを拭いている。きっとそれは、俺たちの装備だった。
「おお、これか!?」
「とりあえず着てみろ」
そう言われたので、俺たちは装備を着る。初めて着るはずなのに着心地がいい。やはりマゼランの採寸には寸分の狂いもなかったらしい。
鎧の見た目はあまり前と変わらない。俺の装備は相変わらず、防御職とは思えない局部だけを守るライトアーマーである。前のより、明らかに頑丈そうだ。
「しかも前より軽い」
何といっても前より軽くなっている。これなら前より早く動けるな。だが、一番に気になったのは、背中側の腰にあるよくわからないリングと、肩当たりに謎の持ち手である。
「何これ」
「おう、そっちの嬢ちゃんの要望だ」
そういえば、あの時こいつだけ出てくるの遅かったが、これか。
「これはのう、ほい」
クランは俺の背中に回ったかと思うと、その腰の輪に足を乗せると、そのまま右手で俺の肩の持ち手をつかむ。これは……
「泉車じゃ!」
こいつ、人をナチュラルに乗り物扱いしてやがる。
(ちなみに、元の姿でもちょうどいいように要望を出したぞ)
いらない補足情報を出すな。まぁ、俺が抱える労力が減るが……。
「お前の装備は……」
クランの装備も前と変わらず、庭師のような服装と鎧を合わせた装備だ。下はスカート上で、女性らしさも残っている。まぁ、言ってしまえば姫騎士のような格好だが、前と違うのは、肩から肘くらいまでのケープだった。
「これなんじゃ?」
クランも何なのかわかっていないらしい。とはいえ、特に動きづらそうではない。やはりそこは職人技か。
「そいつは、代替品だ。本当は武器だけで魔力循環効率を高めたかったんだが、槌と合わせるとそこまでできなかったんでね」
そういいながら、バレンさんは何かを取り出す。それは、槌だった。今までのシンプルな槌だったが、その槌は少しだけ違う点がある。穂先に宝石のようなものがついていた。
「これは、魔石か」
魔石、確かダンジョンから採れる魔力がこもった石だ。なんとなくだが、魔法の補助具としてつけられたものだろう。
「本当はもっと大きいものをつけたかったんだがな、重心を考えるとこれが限界だ」
「なるほど、槌に杖をくっつけたのか」
そうだった。クランの本質はヒーラーだ。つまり、本来ヒーラーが持つべき武器は、魔法の補助ができる杖なのだ。しかし、杖と槌を同時に持つのは難しい。基本両手で振り回すしな。
それだったら、槌を杖にしていまえばいい、という発想か。
「ま、結局杖だけじゃ魔法補助としては不十分だから、そのローブなんだが」
つまり、この短めのケープもまた、魔法補助の装備らしい。ようは、魔法使いが纏うローブの短め版という感じか。というか、これも手作りなのか、鍛冶師って手縫いもできるのか。
「うーむ、いい装備じゃのう!」
「ま、使ってみたらまた感想はくれ、調整はしてやる。それと、ローブは昨日急いで縫ったもんだから、留め具がまだできてなくてな」
確かに、このままだと前が止まっていないので簡単に脱げてしまうな。
「うーむ、じゃがすぐ使いたいんじゃが……あ、ちと糸を貸してくれ」
クランは何か思い至ったのか、羅針盤を取り出し、何か作業をし始める。
「ふふん、どうじゃ!」
クランはこちらに振り向き、その姿を見せつける。ケープ、ローブ? とりあえずケープローブと名付けるが、それの前部分が羅針盤のキーチェーンで留まっている。
「はぁ、面白いな。いいじゃねえか。だがこれだとちと重心が……ま、それも調整だな」
バレンさんからも好感触だ。確かに、中々に似合っている。黄金でできているから、ちょっと目立つが。
「いいんじゃないか?」
「ああ、気に入った!」
さて、後は俺の盾だな。
「盾なんだが、ちょっとこっち来てくれ」
そう言われて、俺たちはバレンさんの後に着いて行く。すると、さらに大きめの工房が出てくる。そして、その中心には、俺の体より少しだけ小さい盾が鎮座していた。
「持ってみてくれ」
「ああ」
俺はその盾を持つ。かなりいい感触だ。前の盾と重さはそん色なく、すごく持ちやすい。しかもあからさまに頑丈そうだ。
「待て、今のこいつの適正重量ということは……!」
「ああ、九十キロぐらいある。俺でも持つのに苦労するし、腰逝かれる」
そうか、俺はスキルの力で重量が十分の一くらいに感じる。つまり、前の盾の重さとそん色がないということは、この盾は前の盾の十倍くらいの重さがあるのか。というか、この感じ本当に重量軽減が十分の一なのか。あいつ、本当に良くぴたりと言い当てたな。
「正直、その盾お前以外じゃ持てねぇから、お前が倒れた場合は回収がむずいだろうな。あと、一応、盾の内側に剣もつけてある。まぁ、てめぇのステータスじゃそう使うことはないだろうし、盾で殴る方が強そうだが」
剣か、まぁ使うことはなさそうだ。
だが、そうか、こんな重量のもの、大抵の人間が持ったらつぶれるか。二人がかりなら持てないことはないだろうが、ダンジョンなんかじゃ致命的すぎるな。というか、これを戦闘中に手放して味方に当たったら怖いな、無事じゃいられん。
手放すことも、倒れることも許さない盾か――うん、俺のための盾だ。
「ありがとう、バレンさん」
「俺としてはまだ満足してねぇから、たまに来てくれ。調整するから」
「うむ! あ、仲間も呼んでいいかのう?」
確かに、あいつらの装備も作ってもらえたらいいな。
「ああ。俺の魂を揺さぶるんなら、そいつらのも作ってやるよ」
「うむ、なら大丈夫じゃな」
さて、なら早速、試運転といこう。
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