とんかつ談義
どうも、作者です。四十三話です。
油の弾ける音、パン粉の匂い、ちょうど良いきつね色になったのを待ち、油から引き上げる。
「さて、できた」
ということで、特に面白みもなくとんかつが出来上がった。なんというか、異世界で道具などの使い心地が変わるかと思ったが、特にそんなことはなかった。というか、器具の感じは、現代日本で使われているものより、質こそ多少は悪いだろうが、あまり差がない。
ただ、大変そうだったのは俺たちよりヒビキさんだった。クランを筆頭にとにかく質問攻めにあっている。しかし、それを嫌がることなく、一つ一つ丁寧に対応していた。
「さっきまでのムードがどっか消えちまったな」
更に盛り付けている最中、アメイはそんなことを言う。
「そうだな」
さっきまで魔王がここにいるのはまずいというのが論点だったのに、ヒビキさんが自己紹介をするだけで、ここまで明るい雰囲気になるとは驚きである。
それだけ、『文化紀行記』の著者というネームバリューはすさまじいんだろう。
「それにしても、そんなに竜人ってすごいのか?」
そもそも、ヒビキさんが名前を出す前から、竜人という種族だけで周りの信用を得ていた。
「まぁ、竜人っていうのは特殊なんだよな……基本は中立、やりたいことをやるだけの種族だから、基本的に他者に誠実なんだよ。ある種、竜人っていう種族そのものが正直者って感じだ。まぁ、目的次第だがな」
なるほど、自由奔放であるからこそ、他者には嘘をつかない、か。
「あと、竜人は数が増えたりしないから、ほぼ全員把握されてる」
……どっちかというとそれがメインでは? でもそうか、竜人は増えない。それに、明らかに長命種というか、不老なんだろうか。
「さて、これで終わりだな」
というわけで全員分の盛り付けが終わった。献立は、とんかつ、米、スープである。それにしても、この世界随分と俺の世界に似た食料があるものだな。
やはり、異世界人が多いのが理由なんだろうか? いや、それだけでは、似たような食材がある理由にはならない。異世界から人は来ても、食料になるようなものは来ないはずだ。
豚肉もどきにしろ、米もどきにしろ、あまりに似た食材が多いような気がする。流石に、味噌はなかったから、流石に菌は似たようなものはないんだろうか。
「あ! とんかつだ!」
やっぱりアイカは知っていたらしい。まぁ、そもそもアメイが知っていたのだから、幼馴染っぽいアイカが知っているのは当然だろう。
「アメイ! 早く持ってきてよ~!」
「うっせぇ、おとなしく待っとけ」
あの二人仲いいよな。年は十個は離れているはずなのだが、とにかくアイカのアメイに対する態度が雑だ。昔からあんな感じなんだろうか?
「アイカって、昔から懐いてるのか?」
「……昔っからあんな感じだよ」
何だろう、少しだけはぐらかされた気がする。だが、やはり昔から変わっていないのは間違いなさそうだ。
「ほら、泉早く持ってくるがよい!」
「わかったわかった」
配膳が済んだので、全員で椅子に座る。唯一ハイカさんは起きてこなかったが、気絶したのもあるが、どうも今日まで仕事詰めでうまく寝れていなかった反動が来たらしい。
「「「「「いただきまーす」」」」」
「……これ僕も食べていいんですか?」
俺たちがそう言って、料理を食べようとしたとき、エフィはそう言う。
「いいんじゃないか?」
別にいいだろう。同じ机に座っているのだったら、それで食事を提供する理由としては十分だ。親の仇でもあるまいし。
「遠慮するでないわ! まぁ、粗末なものかもしれんがの」
「なんでてめぇが言ってんだ」
それはそうだが、こいつの場合、一心同体だから絶妙にお前が言うなとは言えない。俺の感情理解したうえで言ってるし。
「まぁ、とにかく食べ……モグ、美味しい!」
アイカが目を輝かせながら言う。言い切る前に食べ始めるとは、料理人冥利には尽きるかな。とはいえ、
「アイカ、用事があるんじゃなかったのか?」
「……あ」
アイカはそのことをすっかり忘れていたようで、焦り始める。その割に、手は止まっていないが。
やはり、用事というのはハイカと合わないための方便だったのだろう。しかし、肝心のハイカさんが寝ているため、問題はないだろう。
「ま、用事もなくなることもあるわな」
「そ、そうだよ! あはは、言うの忘れちゃってて」
まぁ、誰も咎めない。もう食べ始めたしな。
「私たちは事情を知りませんが、ですが……はむ。ええ、この味には逆らえませんね」
とてもうれしそうにとんかつを食べるヒビキさん。やはり、何かとんかつに思い入れがあるんだろうか。
まぁ、お気に召したようでうれしい。
(うまいか)
(うむ、中々やりよるではないか!)
クランからもお墨付きももらえたので、どうやら食事会は成功したようだ。アメイも普通に食ってるし、エフィも……うん、ちゃんと食べてる。少なくとも悪い顔はせずに食べているから問題ない。
こうして人の顔を見ると、やってよかったと思える。やはり、人にふるまうというのは、気分がいいものだ。
と、表情を観察していたのをエフィにバレる。
「えっと……食事ありがとう……ございます、えっと」
そう少し口ごもりながら言うえふぃ。あ、そうか。名前言ってなかったな。
「泉だ」
「イズミさん……あの、一つ聞いてもいいですか?」
そう言われるたので、何だろうかと思いつつうなずく。
「どうして、僕のこと知ってたんですか?」
あ、そうか。そのこと話してなかったな。しかし、一応ヒビキさんもいるが……まぁここでのことは口に出さないと言っているし、大丈夫だろう。
俺、というより俺たちは今の俺たちの現状を話す。思考、感覚などを共有していること、契約時に互いの記憶に触れたことなど。
それを聞いたエフィと、そしてヒビキさんは驚いた顔をしている。まぁ、流石に予想外だろう。
「ク、クラン流石に何やってるの?」
「異世界人と吸血鬼の契約、ですか。ここにいるだけでも驚きましたが、これは予想以上ですね」
いつも思うが、この説明をするたびに、異世界人と吸血鬼という組み合わせそのものに驚かれている気がするな。まぁ、それだけ異例のことなんだろうが。
「まぁ、とにかくクランの記憶をのぞき見したせいで一方的に知ってたわけだ。すまんな」
「い、いえ、事情が分かれば納得しました。でも……クランはお父さんにどう説明するの?」
そういえば、まぁ確かにそう言う問題があったな。
だがクランの方はけろっとしている。最初から問題にしていないらしい。ずっと思ってたが、こいつ父親の扱いが雑だな。
「そんなもんはどうでもいいんわい。わしがやったことじゃ、父上に文句など言わせんわ」
はぁ、でもいざ会ったら、俺の方に色々と問題が降りかかる気もするが、もうやったことだしな。
「それで、エフィは結局残るのか?」
ああそうか。確かに、ヒビキさんは残ってもいいとは言っていたが、残る場合の責任は結局エフィが取ることになる。つまり、バレた場合のリスクは、エフィ自身がどうにかしなきゃいけない問題だ。
「うん、やっぱり……僕はこのまま帰りたくない」
「はぁ……そうか。ならば、わしらと一緒にパーティを組まぬか?」
パーティメンバー、その言葉に、アイカとアメイのフォークが止まる。それもそうだろう、魔王をパーティメンバーに入れようというのだから。
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