竜人の一声
どうも、作者です。四十二話です。
「なら……戻らなくてもよろしいのでは?」
「「「「……え?」」」」
にこやかな笑顔でそう言い放つヒビキさん。いくらなんでもそれはどうなんだ。
腐ってもエフィは一国の主。それがいないままというのはまずいだろう。それに、さっきも言っていたが、相手は魔王だ。
「さ、流石にそれはまずいじゃろう!」
その言葉に対してヒビキさんはにこやかに対応する。
「ええ、正直言っていることとしてはクランさんが正しいでしょう」
ヒビキさんもそれ自体は否定しなかった。なら、なんでそんなことを言ったのか。
「確かに魔王という存在がここにいるのは問題でしょうが、実際国そのものは、正常に運営されているのでしょう?」
「う……はい」
確かに国家運営そのものには問題はないらしいが。確かに、一つ目の問題は確かにあってないようなものだろう。とはいえ、家出は良くないが。
「なら、問題はないでしょう」
「いや、問題大アリだろ……」
アメイが冷静にツッコむ。
「本当にそうでしょうか。エフィさん、あなたがこの大陸に渡ったのは何日前ですか?」
「えっと……六日くらい前ですね」
六日前と言うと、今が赤月の初月、今が半分くらいだから、俺たちがダンジョン攻略の準備してた頃か。
「つまり、六日はばれていない、という訳ですね?」
まぁ、そうなるか。それなら問題ないか。いや、そういう問題なのか? 確かに極論バレなければいいが、それをするのは難しいだろう。
「そもそも、魔王は力こそあるものの、職業を変えればそもそも魔王としてのオーラはありませんし、何より”権能”の行使さえなければ、後は魔族という身分さえ隠せば問題ないでしょう」
”権能”、というのは良くわからないが、いわゆる魔王としての力なんだろう。そして、魔王というのも一種の職業なのか。農民も職業の一種としてされているらしいし、魔王もそのくくりという訳か。
だが、他の、というより、クランの感情からある程度の納得感を感じるということは、説得力があるんだろう。
「まぁ、そうじゃのう。そのレベルになれば、わしも同じじゃ、というか、隠れて人間社会に紛れておる者たちは、全員同じわけじゃが」
言い方的に、やはり他にも魔族は人間社会に紛れているのか。
「それに、まぁ魔王としての貫禄なぞこいつに一切ないからのう」
「ひ、ひどい」
エフィは涙目になるが、誰も声を出さない。うん、まぁ貫禄がなくてもいいだろう。
「まぁ、雰囲気を隠せるのならそれに越したことはないでしょう。それに、正直、”王”なんて皆さん本性を暴けば似たようなものですし」
ヒビキさん、どうもいろんな王様に出会ってるらしいな。多分、王に出会って話していなければこんな風には評せないだろう。
それに、クランも”確かに”と思ってるし、エフィも”確かに”という表情をしている。少なくとも、”魔王”という存在は俺たちが考えているような貫禄はないらしい。まぁ、俺もちょっとクランの記憶があるから少しわかる気もするが。
「ええ、種族に関してはいくらでも隠しようがありますし、それに、貴方もどちらかというとそっち側でしょう? ちなみにお名前は?」
きっちりバレている。まぁそうか。貫禄が……まぁないとはいえ、魔王は魔王である。そのエフィに、ここまで強く言えている時点で、少なくとも似たような身分なのはバレるだろうな。
「う……クランじゃ」
それを聞いたヒビキさんは、少し目を見開くと、すごく優しい笑顔で笑う。それは、懐かしいものを聞いたような笑顔だった。
「クラン・クリュサオル・ブラッドリード。ふふ、やはりかの魔王の次女さんでしたね」
クランの身分をぴったり言い当てる。クランも驚いている。クランがヒビキさんに出会った記憶はない。ということは、出会ったことがあるのは、父親か?
「お察しの通り、貴方の父上とはお会いしたことがありまして、と言ってもあなたが生まれる前ですが、あとはお姉さんにもお世話になったことがあります」
どうやら、父親とクランの姉に出会ったことがあるらしい。というか、クランが生まれる前って、三百年以上は前だぞ、長命種の感覚は分からなすぎる。
「さて、他の皆さんの名前も知りたいところですが、その前に私の名前ですね。私はヒビキ、ただのヒビキです」
「「「ヒ……」」」
「ヒビキじゃとおおおおお!?」
俺以外の全員がその名前に驚愕する。特にクランはすさまじかった。他の三人が言い切る前にその声でかき消してしまった。それどころか、俺の感情まで驚愕で染まりそうなほど驚いていた。
「ほ、本当にヒ、ヒビキ様なのか!?」
様付け!? クランが? まじか、
「そんなすごい人なのか?」
クランはマジかこいつ、という顔で喋ることすら忘れている。
「すごいなんてものじゃないよ! ほら、『文化紀行記』あるでしょ! それ書いた人、竜人さんだよ!」
アイカがそう言ってくれて納得する。『文化紀行記』、都市や種族の文化を書き表したこの世界ではかなりメジャーらしい書籍。アイカやハイカさんでさえ、よくその話をしている。
何より、クランにとって、そしてクランの友人であるエフィもまた、この書籍のファンだ。あの時の収穫祭の時の初刷りの本ですら、多くの人間を引き付けた代物、その著者。
「そんなすごい人だったのか……」
「すぐに気づけお前!」
流石に、クランの記憶から書籍の著者名まで覚えてないし、俺は直接手を取ったこともなかったから気づかなかった。俺ももっとこの世界で過ごしていたら名前ぐらいは覚えたかもだが。
「俺がこの世界に来てからまだ一か月経ったかどうかだぞ、流石に名前までは……あ」
「ふふ……やはり異世界人でしたね。自分で言うのもなんですが、文字が読めるのに私の名前を知らなかったり、その割に料理は日本風なものをつくろうとしていたりなど、そんな気はしていましたが」
またバレた。まぁ、正直こいつらの身分が一瞬でバレた時点で、あまり関係ない気もするが。
でも、何だろう。多分正攻法じゃない方法でばっかり異世界人だってバレている気がする。というか、とんかつが日本食って知ってるのか。まぁ、魔王にあったことあるぐらいだし、異世界人にも会ったことがあるんだろう。
それだけじゃない、エフィの方にもバレた。エフィもすごい驚いている。だが、お前だけには驚かれたくない。魔王だけには本当に。
「と、というか、さっきまでの態度、わしはどうすればいいのじゃ……!」
「すごいすごい! 竜人だし本物ってわかってますけど! 本物なんですよね! じゃあ、質問してもいいですか!」
「あ……ず、ずるい、僕も……!」
しかし、エフィはアイカの言葉に引っ張られるように興味がヒビキさんの方に向いている。まぁ、好きな本の著者が目の前にいたらこんな風になるか。
アメイは俺の顔を見て呆れている。どうして、こんな人と行動していたんだ? という奴だろう。いや、まぁ俺も偶然なんだが。俺が思ってるより、ヒビキさんはすごい人らしい。
「ふふ、さて皆さんの名前も聞きたいところですが、おひとり気絶しているようですし、私に質問したいこともあるようなので、ここからはお食事でもしながら……ね?」
ヒビキさんはそう言って、俺に目配せしてくる。はぁ、そうだな。料理を食べているうちにこの情報が渋滞した情報も咀嚼できるだろう。
「わかった、作るので対応お願いします」
「ええ、楽しみにしております」
はぁ、正直急にこう、ドタバタした雰囲気になってきたが、料理でもしながら落ち着くか。
「手伝うぜ」
そう言って、他の三人がヒビキさんに夢中になっている中、アメイがそう言ってくれる。と言っても、アメイも疲れた顔をしている。いつもやっていることをして落ち着きたいのだろう。それでもありがたいが。
さて、とりあえずは料理に集中しますか。
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