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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
二章 ■■にあつまれ
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家出の理由

どうも、作者です。四十一話です。

俺は急いでギルドに走る。といっても、誘っておいて、置いていくわけにもいかないのでヒビキさんも追いつける程度の速度だが。


しかし、ヒビキさんは意外と早い。これなら、それなりの速度を出せる。ただの旅人かと思ったが、冒険者だったようだ。


俺たちはギルドにたどり着く。そういえば、視覚共有切ってたから場所が分からないな。ハイカさんは……いない。となると、クランと一緒にいるのか? クランの方は、混乱してるのか一向に通信を寄こさないし、


「あれ? 泉さん」


と、そこで声をかけてきたのは、アイカだった。そうか、別にアイカもギルドにはいたんだったな。


「えっと? 後ろの人は?」


ヒビキさんのことを話したいところだが、今は緊急事態だ。


「すまん、調理室ってどこだ? クラン曰く緊急事態らしくてな」


それを聞いたアイカは、心配そうな顔をする。正直、俺もなにがあったかわからないから、詳細を話せないし。


「と、とにかく調理室ですね!」


俺たちはアイカの後ろについていき、調理室にたどり着く。あいつ、一体何があったんだ。少なくとも、調理室は静かだ。本当に視覚共有さえしてくれれば状況把握ができたんだが。


俺は調理室の扉を開ける。


「クラン、せめて視覚共有して……」


「って、お姉ちゃん!?」


そう言おうとした矢先、気絶したハイカさん、幼女姿に戻って頭を抱えているクラン、天を仰いでいるアメイ、という地獄絵図だが、問題はそこじゃない。俺は出会ったことがないはずなのに、顔を知っている人間、いや厳密には魔人がそこにいた。


ハイカさんはとりあえず、アイカに任せるとして、


「なんでお前がここにいる?」


俺は、クランが言った意味が分かった。そこにいたのは、クランの友人で、そして魔王たる、エフィ。エフィ・ルベロス・エリアズヴェールがそこにいた。


確かにこれは緊急事態だ。あの時、クランの正体がばれた時に言っていたが、魔王がいるのはまずいとのことだった。本当になんでいるんだ?


「これは……驚きましたね、吸血鬼ですか」


あ、しまった!? ヒビキさんにクランの正体がばれる。元の幼女姿だと吸血鬼の要素が強すぎる。というかなんで、元の姿に戻ってるんだ?


「え~と、あなたたちは?」


「俺は泉。まぁ、こいつの……ちょっと待ってくれ、情報が渋滞してるから先に状況把握からさせてくれ、えっと……」


ヒビキさんをそのままこの部屋にいたままにするのはまずい。かといって、外に放置しておくわけにはいかないし、どうすれば。


「イズミさん、私のことはいったん無視してください。といっても、無視できないでしょうが……そちらの吸血鬼さん、竜人については知っていますか?」


「何!? 竜人じゃと!?」 「は? 竜人?」「え!? 竜人!?」「竜……人?」


クラン、アメイ、アイカ、エフィの四人は四者四様の驚き方をする。もしかして俺が思うより、竜人という種族はやばいのか?


「やばいのレベルではないわ!」


やばいレベルではないらしい。ヒビキさんも稀とは言っていたが、それだけじゃなさそうだ。


「おや、皆様知っているとは……とにかく、今はこの竜人という血に誓って、ここでのことは口外しないと誓いましょう」


(クラン)


(そう言うことなら……恐らく問題ない)


クランもそういうのなら、問題ないだろう。とはいえ、どうする。アイカもいる中で、エフィが魔王というのは言うべきなのか。


「落ち着いて聞くがよいアイカ。こやつは魔王じゃ」


「え!? お、お姉ちゃんも気絶するわけだぁ」


そう言いながら、アイカは、かなり渋い顔をしていた。しかし、姉が気絶している以上、気絶できないと思ったのか何とか踏ん張って真面目な顔している。


「魔王……ですか、なるほど」


ヒビキさんもここまでの状況になっている理由を納得したらしい。さてこれで事の重大さが全員に伝わった。


という訳で、俺たちは詳しく事情を聞く。


「と言っても、わしも詳しく知らんがの、エフィがとにかくここにおるという事実だけじゃ」


うん、まぁそれが一番おかしい事実だ。確か、前の話では、魔王がここにいるのはまずいということだったはずだ。それこそ、国際問題に発展しかねない話だろう。


どうも、この世界の魔王は特別な存在だ。と言っても、創作なんかではよくある話だが、魔王というのは、基本的には悪側として登場して勇者が倒す存在だ。そしてこの世界にも勇者がいるし、魔族はどうも差別されているし、やはりそこらは変わらないのだろう。


「そして、こいつがここに来た理由は……家出じゃ」


……。なるほど、この地獄絵図の理由が分かった。異世界人で、まだこの世界の事情にあまり詳しくない俺ですら、頭を抱える。なら、魔王の存在や影響力を理解しているこいつらからすれば、まさしく頭を抱える案件だろう。


というか、家出って……クランと同じ理由なのか。なんだ? 魔族は今空前の家出ブームなのか? 家出ブームってなんだ?


「えっと、事実なのか?」


「……はい」


本人は何で詰められているんだろうという顔だ。そうだった。俺が一方的に知っているだけで、こいつは俺のこと知らないよな。


「それで、家出した理由は何じゃ?」


そうだ、クランも家出少女なわけだが、一応、納得できる理由があった。父親と反発はあったとはいえ、”人の傷を癒したい”という理由は立派だろう。


「えっと……実は」



「――あほか貴様!」


クランはその理由に激高する。まぁ、クランが怒る理由もわかる。


その理由は簡単な話、自分が無力だと思った、からである。


何でも、彼が魔王に就任してから百年、最初の方こそ防衛システムの構築なんかもあって忙しかったらしい。しかし、エフィの国、というよりは魔尾の国はとにかく安定していた。というのも、彼の側近たちが優秀すぎたのだ。


閉じられた空間かつ、平均寿命が五百歳もある魔尾――尻尾を持つ魔人の国は、とにかく反乱も起きなければ、侵略も起きない。魔獣に関しても、自分で作った防衛システムのおかげでほとんど必要なくなったらしい。その時点で優秀だと思うが。


そして、残るは日々の政務や問題なわけだが、側近がすべてやってしまう。しかも、エフィ自身はそういう政が苦手だったせいで、任せるしかない。


つまり、彼にはやることがなかったのだ。国は安定し、政務の一切は側近が完璧にこなす。そんな状態が五十年、彼は自分の存在意義が分からなくなり出した、という訳だ。


しかも、問題なのは、家出してから三日ほど経ってから、国にこっそり戻ると、一切問題なく国が動いていたらしい。だからここまで来たんだとか。


いや、うん。まぁ、理由としてはひどい。しかし、同情はしてしまう内容だった。何もやる必要のない時間というのは、劇毒になりうる。


「ひぃ、すいましぇん」


クランは、エフィにひたすら説教をしていた。王としての務めの話や、急にいなくなって民はどう思うなど、その内容は正論である。


「お嬢、ちょっとだけ、その説教やめてやってくれねぇか」


「わ、私も、ちょっとは手加減してほしいかも」


そこで、口を出したのはアメイとアイカだった。二人も、どうやら同情してしまったらしい。


さっきも言ったが、何も役に立てないというのは、かなりつらい。俺は正直、そうなったことはない。しかし、それで苦しんだ人間は、知っている。


特に、俺も記憶を覗いただけだが、エフィという少年は、自信がなく、大きな目的がないタイプだ。そういう人間は特に、人の役に立てないという状況に余計に苦しむ。人の役に立てるというのは、それだけモチベーションになり、自分に自信がないという部分を覆い隠してくれるが故に、そこにすがってしまう。逆を言えば、それだけ大きな柱を失ってしまえば自分の存在意義さえ見失ってしまう。


多分、二人も、それが分かってしまったから、こうしてエフィをかばってしまうのだろう。


「お二方……ありがとうございます」


エフィは申し訳なさそうだ。流石に、事の重大さ自体は分かっているのだろう。クランも、二人の切実そうな表情に、強く出れなくなっている。


「うーむ、じゃがこいつが魔王という事実は消せんぞ」


「「「う」」」


まぁ、そうである。どんなに切実な理由があろうとも、彼は一国の王であることには変わりない。そこをどうするか、である。


「……ふむ、エフィさんは今、国に戻りたいですか?」


そう言ったのは、ずっと静かに聞いていたヒビキさんだった。


「……し、正直、僕だって戻ったほうがいいと思います。でも……今戻っても、きっと今までみたいに何もできない」


それは、苦しそうな声だった。


「なら……戻らなくてもよろしいのでは?」


「「「「……え?」」」」


ヒビキさんは、にこやかな顔でそう言い放った。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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