竜人ヒビキ
どうも、作者です。四十話です。
買い物中、出会ったのは、角の生えた女性だった。
「では、その疑問の解消も含めて自己紹介をば。私の名前はヒビキ――竜人です」
何だろう、ヒビキという名前に聞き覚えがある気がする。だが、どこで聞いたか思い出せない。
「竜人?」
竜人、という種族はまだクランから聞いたことがない。だが、竜人だと言われれば納得する。確かに立派な角と、よく見たら、服の下から尻尾のようなものが見える。
「すみません、知りらなかったみたいですね」
「すみません、常識でしたか?」
常識だったらまずいな。また、異世界人だとばれてしまう。今のところほぼ百パーセントバレてるし、これ以上は流石に自分の隠蔽能力に自信を失ってしまう。
「ふふ、知ってる人の方が少数派だと思いますよ。それと、そこまでかしこまらなくて結構ですよ」
年上の人(多分)に敬語を使わないのは慣れないが、相手にそういわれるなら、遠慮しない方がいいだろう。
「えっと、わかった。ヒビキさんは、どこに行きたいんだ?」
話しかけてきた理由を忘れかけていたが、元々道案内してほしいということだった。
「ああ、そうでした。ギルドの資料館に行きたいんです。知っていたらでいいんですが」
資料館か。それなら知っているというか、昨日行ったばかりだ。場所もわかるが……口頭は難しいか。
「わかった。付いてきてくれ」
「ありがとうございます」
ここから資料館までは普通に歩くと三十分ぐらいかかる。まぁ、夜まで時間はあるし、調理時間を考えても余裕はあるだろう。
二人そろって歩くが、少し何も話さないのは気まずいな。何か……あ、そうだ。
「その竜人ってどの種族なんだ?」
この世界には、大まかに、魔族、獣族、霊族という分類があって、知能種はこの三族のどこかに分類される、という形らしい。
「ふむ、あ、そういえば、貴方の名前を聞いていませんでしたね」
そういえば、俺も言うのを忘れていた。
「泉だ」
「イズミさんですね。ではイズミさんは種族学についてはどこまで知っているでしょうか?」
種族学、まさしくそういう種族に関することだろう。俺は、三族については知っているということ、知能種は基本その三族に分類されること、そして
「あとは、魔族が吸血鬼、魔人、ハーピィ、スライムに分かれてるって話を……どこかで聞いた」
流石に直接吸血鬼から聞いたという訳にはいかないので、そう言った。
それにしても、スライムが最初種族の一種と言われたときは流石に驚いたな。だが、この世界では特段変な話でもないらしい。まぁ世界が違うのだから、常識が違うのは当たり前か。
「魔族に関してはそこまで知っていると。ではそこから話していきましょう」
おっと、これは授業の時間らしい。暇つぶしにちょうどいい授業だといいのだが。
「まず、イズミさんが言った通り、魔族はその四種に分かれます。厳密には、魔人はさらに細かい分類がありまして、魔眼、魔角、魔尾、という三魔人という分類があります」
ふむ、魔人は三種に分かれるのか。魔尾、というのは少しだけ思い当たる節がある、クランの友達の中に、尻尾がついた子がいた。確か名前はエフィだったか。
「なるほど……ん!?」
「! どうしましたか?」
急に強い感情が流れ込んでくる。これは……クランの感情だな。あっちで何かあったのか?
俺はクランに思考を繋ぐか迷うが、あっちで内緒話とかしてたら嫌だしな。まぁ、何かあったらあっちから連絡してくるだろう。
「すまん、足を引っかけた」
「そうですか、それだけならいいのですが」
いらない心配をさせてしまった。しかし、あっちで何があったんだ?
「えっと、話を戻しますね?」
「そうしてくれると助かる」
とにかく、今はちょっとこの種族に関する話が気になる。竜人の話も気になるし。
「魔人は三魔人に分かれると言いましたが、とにかく、魔族は四種に分かれるという訳ですが、実は獣族も、霊族もそれぞれ四種に分類されます。これを三族四種と、種族学では呼ばれます」
なるほど、魔人が吸血鬼からハーピィまでの四種であるように、獣族も霊族も四種なのか。ということは、竜人は、霊族か獣族の種の一つなんだろうか? 竜、と言うと、獣というイメージではないし、
「竜人は霊族?」
「うーん、間違いです」
「じゃあ、獣族か」
「それも違います」
何だと、霊族でも、ましてや獣族でもない。もちろん、さっき言っていた通り、魔族にも分類されていないはずだ。じゃあ一体?
「ふふ、少し意地悪でしたね。私たち竜人は、どこにも分類されていないんです。具体的にそれぞれの種を説明すると、霊族は、獣精、エルフ、ドワーフ、精霊。獣族は、人間、小人、獣人、魚人という四種に分かれます。このように、竜人は何処にも属していないわけです」
なら、一体どこに所属しているんだ?
「では、泉さん。そもそもこの三族はどのように分けられたか知っていますか?」
「確か、それぞれが女神に創られた種族なんだよな」
クランが言っていたように、魔族であれば赤の女神が創った種族で、だから赤の女神は魔族には信仰されていると言っていた。
「なら、もし女神に”創られていない”種族がいるとしたら?」
「そこには分類されない……それが竜人?」
ヒビキさんはうなずく。なるほど、確かにそうだ。女神に創られたことが分類の条件なら、女神に創られていない時点で分類のしようがない。つまり、竜人は例外の種族なのか。
「そうです。現状、三族四種を除けば唯一の知能種、要は例外ですね。そして、そんな竜人の一人が私、という訳です。といっても竜人自体数は少ないので、知名度はかなり低いですし、会えること自体稀でしょうが」
なら、俺は結構幸運だな。こうして目の前にいるわけだし。だが、希少で女神に創られてない種族か。かなりすごい種族なんじゃないだろうか。なにより”竜”だ。弱いわけないな。
と、そんなことを話しているうちに資料館についてしまった。わかりやすい講義でつい夢中になってしまった。
「――あ、イズミさん! また来てくださったんですか!」
資料館の前で掃除をしていたのは昨日俺たちを案内してくれた職員さんだった。
「あ、いや俺は」
「どうぞどうぞ! 実は少し出来上がってるので見ていってください!」
どうやら、俺たちが攻略したダンジョンの情報がもう展示準備に取り掛かってるらしい。ってそうじゃなくて、俺はただの案内だったんだが。
「――すごいですね、資料館に名前が残っているなんて」
「成り行きなんだが」
結局、資料館の中まで入ってしまったので、これまた成り行きで二人で資料館を巡っている。ヒビキさんは魔獣の説明を特に熱心に見ていた。
確かに、この説明は面白い。まぁ何故か魔獣が食えるかとか、美味しいかとか載っているのは不思議だが。誰がこんな情報集めたんだ?
「すみません、中までついてきてもらって」
「あ、いや大丈夫だ。こういうのは、二回目行った時にも発見があるものだし」
こういうのは、何度訪れたって新しい発見があるものだ。
「そうですね、資料とは、歴史とは、一度目を通しただけでは分からないものです」
その一言には、彼女なりの経験があるのだろう。それは楽しいという感情がにじみ出る経験なのだろう。
「――ですが、そんなすごい冒険者さんは、今日はお休みですか?」
別にそんなすごい冒険者ではないんだが。
「ああ、そのダンジョン攻略に大分体力を使ってな。お休み中で、今日は料理でもふるまおうかと……」
あ、そうだ。料理、三人分の食材が余っているのを忘れていた。
「ほう、料理ですか、いいですね」
ヒビキさんは料理という言葉に思ったより強く反応する。まて、これも何か縁だろう。
「ヒビキさん、実は食材が余ってて、せっかくなら食べてくれませんか?」
お願いするものだからついつい敬語に戻ってしまう。
「料理ですか? 一体どんな料理を?」
「とんかつです」
厳密には豚にほど近い何かだが、この世界では普通に油やパン粉などが売っており、これなら作れるだろうとそれに決めた。
「とんかつ……ですか。これまた懐かしい」
ヒビキさんは、少し放心したかと思うと、嬉しそうに何かつぶやく。
「ぜひ、私も食べたいです」
うん、一人分だが、どうにかなりそうだ。どうやら、今日は本当に運がいい日らしい。
「ですが私、味には少しうるさいですよ?」
「頑張ります」
食べてくれる人が満足するように頑張るのも料理の醍醐味というものだろう。
「ええ、お願いします」
――俺たちは結局、そのまま必要な食材を買っていく。時間にすると、昼下がりぐらいまで。時間も余ったし、足が早い食材を買うにはまだ少し時間があるし、どうしようか。
「さて、もうずいぶんと買いましたし、他におすすめの場所でも教えてくれませんか?」
ヒビキさんも同じことを考えていたようで、そんな提案をしてくれる。それなら……
(……はっ! 泉ぃ! ちと急いで帰ってくきてくれ! 緊急事態じゃ!いや、随分と前からなんじゃが! )
(なんだ? どうした、おい)
そこで、通信が途切れる。確かに焦りの感情がすごい感じる。しかし、さっきまで感情共有は無だったのに、いや待て、無だったということは気絶してたのかあいつ?
「すみません、ヒビキさん、ちょっとすぐに戻ります」
「? わかりました」
俺たちは、途中メインの肉を買いながら、ギルドへと急いだ。何があったんだ?
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