魔人エフィ
どうも、作者です。三十九話です。
ハイカの所には、新人と思われる少年がいた。その少年を見た瞬間、隣にいたクランは固まる。
「何故、お主がここにおる、エフィ」
ハイカと話していた小柄な少年に対してそう言う。知り合いなのか? ……まて、クランの知り合い?
「――え?」
エフィと呼ばれた少年は、クランの顔を見てフリーズする。二人そろって完全に固まったかと思うと、クランの方は一瞬で停止状態から復帰し、その少年の手首をつかむ。
「ハイカ殿! こいつをちと連れていくぞ!」
「あ、おい!」
クランは一言ハイカに断りを入れると、その少年を引きずりながら元来た道を戻る。俺も何が何だかわからないが、とにかく今騒ぐのはまずい予感しかしないので、おとなしく着いて行く。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ハイカの方も、クランの知り合いというところに引っかかんだろう、こっちに。そう、クランは吸血鬼で、その種の王の娘だ。そしてその知り合い、もう嫌な予感しかしない。
「――あ、え、えと、その」
俺たちは、元の調理室に戻り、四人で席につく。クランからは異様な雰囲気が出ている。いつものあんぽんたんそうな雰囲気が消え、かなり怖い。こいつ、素だと結構怖いんじゃないだろうか?
少年、エフィは完全に混乱している。そりゃ混乱もするだろう。俺も混乱してるし。
「本当に、何故お主がここにおるんじゃ?」
「あ、あの、えと」
完全にクランに気圧されている少年。これは、何だろうか。それだけじゃない気がする。
「……まさかお主、わしが誰か分かっとらんのか?」
「……」
どうやらそうらしい。いや、容姿はともかく、こんな喋り方するやつ忘れる奴いないだろ。いや、容姿でも忘れられないタイプだろ。
「はぁ……『解除』」
クランが一言詠唱すると、クランはたちまち幼女の姿に変わる。って変わった!?
いや、そういえば言ってたな。クランは元の姿は幼女だと。変身魔法で姿を変えているだけとは聞いていたが、こっちが素の姿なのか。といっても、容姿はあまり変わっていない。本当にそのまま幼くしたかのようだ。変わったのは瞳が黒から赤に、髪の色が茶髪から金に変わったぐらいだろうか。
この姿を見ると、確かに吸血鬼だと納得させられる。よく見たら、耳も少し尖り、犬歯が鋭く伸びていた。
「あの時、茶髪の色が変わったのはそういう原理ですか……」
ハイカには何か心当たりがあったのかそんなことをつぶやいていた。
肝心の少年の方はその姿を見て誰か分かったらしい。確かにここまで髪色や目の色が変わると一見するだけではわからない。いや、喋り方で分かれよ。と思ったが、そもそも使っている言語が魔大陸のものから、俺たち人間の、厳密にはアウラス語に変わっているのが原因だろうか。
「ク、クランかぁ……ってなんでクランがいるの!?」
安堵したかと思うと、ものすごい顔で驚いている。まぁ、こんなところに吸血鬼の姫いたら驚くわな。
「お主が言うでないわ!」
クランは怒号を響かせる。外まで響きそうなものだが、きっちり防音魔法を張っていたあたり、こうなることを多少は予測してたらしい。
「まーじで、なんでここにおるんじゃ!」
「そ、それはこっちのセリフだよ!」
二人は醜く言い争っている。さっきまでおどおどしていた少年が、クランだとわかった途端に少し強気な雰囲気に変わる。この感じを見るに二人は旧知の仲なんだろう。
「はぁ、貴方とアイカを思い出しますね」
ハイカがそんなことを言う。確かに、自分で言うのもなんだが、俺たちの関係に似ている。これは多分、幼馴染の類だなこれ。
「とりあえず、てめぇら落ち着け」
俺は二人を落ち着かせるように言う。この感じだと一生終わらない。これは経験則だが。
「そうですね。それに、魔人の方がここに行きつくの自体は珍しくないでしょう?」
ハイカの言う通り珍しいことではない。何せ、魔大陸から獣の大陸、要はこの街がある大陸に渡る場合、この街にたどり着く場合が多い。何故なら、その魔大陸と獣の大陸をつなぐ道は二か所しかないが、その一方はこの街にほど近い。
その上、この街があるこの国は、レディポートであるが、そもそもレディポートは聖王国、魔族排斥派の国だ。つまり、魔族だとばれるのは大変まずい。しかし、セントラルフラッグの管轄であるこの街だけは例外であるため、結果この街に流れ着く、という訳だ。
「問題はそこではない! こいつがいることがまずいんじゃ!」
「それはクランだってそうだろ! だって君は!」
「「魔王の娘」」
「え!?」
うん、指摘したいことは分かってた。しかし、それはもう知っている。まぁ俺たちも大分面食らったが。だが、俺たちももう納得してしまった。クランも言っていたが、”魔王の娘”であり、”魔王”ではないのだ。その差はずいぶんと大きい。
”魔王の娘”だからと言って、それ自体はそう何か影響を及ぼせるものではない。しかも、周りの家族からは了承を得ているらしいし、肝心の魔王様(父親)には言っていないが、そっちは母親(クランの母)がいるから大丈夫とのこと。
しかし、そのクランが”焦って”いるのは正直嫌な予感しかしない。
「わかったじゃろう! わしはもう受け入れられておるんじゃ!」
「で、でもそれにしたって、君のお父さんが許可を出しそうには……」
父親のことも知っていると。
「家出じゃあ!」
「大声で言うこと!?」
それはそう。本当にそう。俺たちはついついうなずいていしまう。改めて聞くとひどいな。というか、いい加減うんざりしてきた。
俺は勢いよく椅子から立ち上がる。
「ていうか、早くこいつの正体教えろおおお!」
それに対してクランも勢いよく立ち上がる。
「こやつは魔尾の王! 正真正銘”魔王”の一人じゃあああああ! ……あ」
そんな気はしてたけどおおお! 俺は地面に突っ伏す。そんな気はしたけど……! そんな気はしてたけど! 間違いであってほしかった。
その言葉に、俺以上にひどい反応だったのは、ハイカの方だった。完全に気絶している。あれだ、燃え尽きている。ただでさえ、アイカに会えておらず、ギルマスは不在。正気でいられるはずがない。
「あばばばばば」
肝心の本人も、急にばらされた事態にどうすればいいかわからず泡を吹いている。クランは衝動に任せていってしまったことを後悔しているのか、うつむいて無言だ。場はカオス状態だったが、誰一人として、この状態を戻せる奴がいなかった。
俺もいったんふて寝した。これは……夢だ。そういうことにさせてくれ。
――俺は一体どれぐらい寝ていただろう。夢から覚めただろうか?
しかし、夢だと思っていた情景から一切変わってない。まじで、夢じゃなかった……。
「一つ聞かせてくれ。お主は、なんでここにいるんじゃ」
いや、一つだけ変わっていたことがあった。エフィ、魔王と言われた少年が、起きてクランから尋問を受けていた。
「……僕も家出です」
俺は……もう一度意識を手放すことにした。クランが天を仰ぐのを無視しながら。
――しかし、意識を手放す前に扉が開く。そこに立っていたのは、泉だった。
「クラン、せめて視覚共有して……なんでお前がここにいる?」
唯一、混乱の場を正せそうなやつが帰ってくる。俺は泉が救世主か何かに見えて仕方なかった。
――問題は、泉がもう一つ厄介な人、いや竜人を連れてきたことだが。
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