二人の想定外
どうも、作者です。三十八話です。
さて、今日は俺が皆に料理をふるまうと約束した日だが、致命的なことを忘れていた。調理室にある器具が分からんぞ。
食材の方は、前二日間でどんな食材が売っているか把握していたからわかるが、調理器具がそろっていなければ作る物も決められない。
どうしようか。食材を買いに行く前にギルドに行ってくるか? といっても、街を回るのは結構時間がかかるし、朝から行くつもりだったしな。
(ん、泉、食材を買いに行かぬのか?)
俺は、クランに事情を教える。
(なるほど、それだったらわしが行こうではないか)
なるほど、その手があったか。こいつとは視覚を共有しているし、最悪脳内通信で教えてもらえばいい。それなら俺がギルドに行くことなく、器具を確認できる。
(じゃあ、そのままギルドで待っててくれ。料理は内緒ってことで)
器具を教えてもらったあとに、視覚と聴覚の共有さえ切ってしまえば、こいつにもどんな料理を作るのかが分からなくなる。今までずっと繋がりっぱなしで隠し事の一つもできなかったから、それのいい練習にもなるだろう。
(おお、それは良いのう。じゃあ、夜集合じゃ)
(ああ)
というか、久々の、いやこの街に来てからは初めての単独行動か。変な気分だな、二人で行動するのがずいぶん当たり前になっていた。
「――ということで、一人で来たわけじゃ」
わしは少し寄り道をしてから、ギルドに到着をする。そういえば一人で行動したことがなかったなとついはしゃいでしまったが、まぁ、集合時間は決めてなかったから誤差だろう。
「なるほどね。じゃあ泉は買い物に行ってんのか」
「まぁの」
アメイに案内されて調理室にたどり着く。そこにある調理器具を泉に一通り伝える。鍋や包丁など、一通りのものはそろっているらしい。と、言ってもわしには何が何かさっぱりだったから、アメイの言った言葉をそのまま聴覚で泉に伝えただけだが。
(わかった。問題なさそうだ)
さて、これ以降は一切の情報を断つ、という試みなわけだが、実はそれをするのは共有して以来やっていなかった。純粋に切るのが難しいためである。接続状態が基本だから、逆に五感の共有を切り続ける方が難しい。
泉はその訓練も兼ねて今回のことを提案したんだろう。実際、繋がりっぱなしはかなり不便ではあるし、できるようになって損はないだろう。何かあれば片方から繋がればよいし。
「あ、ちょっとまった、もう一個伝えなきゃいけねぇことがある」
アメイがそう言ったので、聴覚を切るのをいったん止める。そして続くアメイの言葉は少し予想外だった。
「アイカは用事、ギルマスは遠征、ハイカはギルマスの仕事の代わりをやらなきゃいけねぇってことで不参加だと」
「まじか」(それはちょっと困るな)
どうも、視覚は切っているため詳細は分からないが、ある程度の食材は買っているらしい。どうするかのう。
「ま、最悪泉が食べるじゃろう」
(ちょっと残念だが、しょうがないか)
いけると思い込んだわしらのミスじゃな。とりあえず、今日のところはアメイと二人で泉の食事を毒見してから、アイカ達に食べさせるということで良いじゃろう。
「運が悪いなぁ。まぁ、アイカは多分、ハイカと会いたくないのもあるんだろうが」
まだ喧嘩中らしい。早く仲直りできるといいのだが。
「仕方なかろう」
アメイはそういうが、何事にもタイミングが悪いときはあるからのう。
わし等は今度こそ、接続を切る。といっても、互いの感情は共有してしまうし、完全に接続を切れず頑張って九割九分という感じで、絶妙にのこっているが、まぁ問題ないじゃろう。
一応、アメイにも今の状態に関して話す。
「思ったよりお前らの”契約”面倒くさいところあるんだな。便利だと思ってたけど、俺はやりたくないわ」
まぁ、普通他者と常時繋がり続けるというのは、受け入れらないだろう。親しき仲とて、やはり互いに理解しきれぬ所や悪感情を持ってしまうこともあろうし。そういう意味で、やはり泉も相当な覚悟があったはずだ。まぁ、あの時はしなければ死ぬ状況だったというのもあるが。
「逆にお前らすげぇよ、よく関係性変わんねぇな」
元より、わしが吸血鬼の姫ということ以外隠しおらんかったしのう。しかし、言われてみれば、わし等は出会ったころから特に何も変わっていない。
何故か、と聞かれると困るが、とにかく遠慮する必要がなかったというのはある。未だに自分たちでも説明しきれぬ関係だ。
なんとなくだが、これからもあまり変わることはない気がする。それは特に根拠のないものであるが、何か確信めいたものがあるのは確かだ。
「それに、もうわしらは死をもってしても分かつことが出来ないからの」
「……それもそうだな」
アメイは少し渋い顔をする。おっと軽々しく死などという言葉は使うものではないの。
「あ~、流石に夜まで何も食わねぇのはきついな」
アメイはどうやら夜まで飯抜きにするつもりはないようだ。それだったら、昼食を食べねばな。
「そうじゃの、ついでにハイカ殿の様子でも見るか」
「お嬢、ハイカのこと心配してんのか?」
おっと、何のことだか。妹と喧嘩中で会えず、その上でギルマスの仕事を押し付けられ、それで根を詰めて精神的に参ってしまわぬかなど、ちっとも思っておらんが。
それで、様子ぐらいは見ておこうなどというのは決して思っておらん。まぁ、本当はアイカの所にもいきたいが、またあとで行くとしよう。
「さて、何のことじゃか」
「……何でもねぇよ」
ということで、わしらは今も受付で仕事をしているであろうハイカ殿の所に向かう――
「――さて、どうしようか」
アメイから、ハイカさんたちが不参加という報告を受けて、少し迷う。何せ、もう食材はすべてではないが買ってしまっている。かといって、余らすのはもったいないし、いや、遠征中らしいソテルさんはともかく、ハイカさんとアイカには差し入れとして後で持っていけばいいな。
だが、それでも一人分残ってしまう。何より、俺が二人前ぐらい食べる予定だったから、その分食材も多めに買ってしまった。そこにさらに一人分は少しきついな。クランに日光に当たって……いや、夜だから駄目だな。今やられても逆効果だし。
バレンさんは……今お邪魔するわけには行かないな、どこまで作業が終わってるかわからないし。
「すいません、そこのお方」
俺が道端で考えていると、誰かが話しかけてくる。そこに立っていたのは、長身で落ち着いた雰囲気の女性だった。
いや、それだけじゃない、この人は――
「今お暇でしたら、少しだけ道案内を頼めないでしょうか?」
俺はそれを言われてはっとする。道案内か。
「別に構いませんが、えっと」
そのお姉さんは、俺の視線の位置に気づいたらしい。そう、俺はある位置に目線が釘付けだった。
「ありがとうございます、あ、もしかしてこの角が気になりますか?」
そう、角だ。人間には生えていない、かなり綺麗な角、ひねりながら伸びているその角はかなり特徴的だった。
「では、その疑問の解消も含めて自己紹介をば。私の名前はヒビキ――竜人です」
俺が出会ったのは竜人のお姉さんだった。
――着いたのは七番受付、ハイカ殿がいるところ、しかし、そこにはもう他に客人がいた。別にそれ自体はおかしいことはない。いや、ハイカ殿がいるところにいるのは少し珍しいが、冒険者用の受付だからいるのはやはり、おかしくない。
おかしいのは、そこにいるはずのない男じゃった。
「えっと……ぼ、冒険者登録を……」
そんな自信のなさげな声で言う、まだ幼さの残る横顔は、やはり見知った顔で。
「何故、お主がここにおる、エフィ」
「――え?」
ここにいてはいけないはずの魔人が、そこにいた。
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