羅針と篭手
どうも、作者です。三十四話です。
「さて、鑑定といきましょう!」
マゼランはそう言いながら、ウィンクをして、ピースを開いている右目の横に置く。眼鏡もかけているので情報量がすさまじい。
二人そろって本当に大丈夫なのだろうかと思いつつ、とりあえず持ってきていた金のコンパスと籠手を見せる。
マゼランはそれをそっと布越しに受け取ると、集中し始める。金のコンパスをいろんな角度から見始める。先ほどまでのお茶らけた雰囲気はどこに行ったのだろうか。
『魔なるものよ、この物の価値を写せ』
『物品鑑定』
今度は魔法を使う。鑑定専用の魔法なんてものもあるのか。コンパスは淡く光を帯び、マゼランはその光を見逃さないように、集中を深めていた。
そこから数分、特に話すこともなく、所々から聞こえる鉄を打つ音だけに耳を傾けていた。ふとマゼランが眼鏡を外す。
「ふむ……とにかく金のコンパスの方は、”鑑定”し終わりました」
どうやら鑑定は終わったらしい。これは早いのだろうか。
「どうだったのじゃ!」
「はい、これは……価値はそこそこですね!」
そこそこなのか。金だしすごいのかと思っていたのだが。クランの方も、上げて落とされたせいか、すごい表情になっている。
「ええ、素材としては、普通の魔金でしょう。純度は高いですが、量は多くない。中のコンパスは普通のものですし、ただどうも魔具のようですね。ただ、効果が分からないです。なので、私としては、そこそこという価値のつけようがないですね」
それを聞いてクランは妥当だという感じで納得していた。にしても、魔具といい、魔金といい、俺が知らないことが多いな。
(魔具はダンジョンで見つかる魔道具のことじゃ、よく人が作る物と混同しないようにそう言われることが多い。効果が分からないと価値が薄いのは妥当じゃな)
なるほど、そんなものがあるのか。しかし、効果の分からない魔具だと、価値が分かりにくいから、他の素材部分を元にそう評価したのか。
(それで、魔金のほうじゃが、ダンジョンで見つかる金じゃ。魔力を持っており、加工がしやすい。そして、他の物質と混ざらんから、重量もごまかせないという代物でのう。しかし、その一番の特徴は、魔金の魔力は独特の波動を出しておるから、偽装ができないという特徴がある)
なるほど、面白いな。魔金は、要は金だ。しかも、科学技術が弱いこの世界でも魔力という形で簡単に本物か看破できるようになっているのか。ということはつまり、
(俺たちが使っている硬貨にも)
(使われておる。何だったら、銅貨や銀貨にも、偽装防止用に入っておるのう。ちなみに、銅貨に入っている魔金は、銅貨144枚分集めると金貨と同じ量になる)
つまり、ちゃんと同価値になるようになっているのか。ちゃんとしたシステムがあるんだな。
と、コンパスを売るか考えているふりをしつつ、脳内会話を終え、マゼランに話しかける。
「なら、売らなくてもいいだろう。効果が分かったらまた考えたらいいし、それに今、別に困ってないしな」
これを売らなくても、あのダンジョンの宝箱で手に入れた量だけでも、半年。この世界では四か月半ぐらいは遊んで暮らせる量である。
だから、別に問題はないだろう。
「そうじゃのう」
「そうですね、このコンパス、やたら頑丈なので劣化もしないと思いますし」
クランは同意し、マゼランはそう言う。とりあえず、俺はクランに渡しておく。こいつの方が持っていて栄えるだろ。
「さて、籠手の方ですが……正直これに関しては、泉様が装備していればいいんじゃないでしょうか? ピッタリですし」
確かに、この籠手は俺の腕にジャストフィットである。実際、悪くない付け心地だしな。
「それはそれ、これはこれじゃ、価値は知りたいじゃろう」
「うーむ、私が見てもいいのですが、ここは本職の方に見てもらいましょうか!」
そう言って、マゼランは立ち上がって歩き出す。俺たちもそれに従ってマゼランについていく。
着いたのは、他の鍛冶工房と特に見た目は変わらない小屋である。もちろん、ここからも鉄の打つを音が聞こえるが、マゼランが全力でノックをすると、音が止まる。
そして、それを感じた瞬間、マゼランは全力で扉を開ける。
「バレンさーん! アイドル商人、マゼランちゃんの御登場ですよー!!」
「うるせぇ」
そこにいたのは、低身長で小太り、ひげを蓄えた男だった。しかし、小太りとは言ったが、その体のすべてが筋肉でできているのではないかというぐらいがっしりとした体型だった。もしかしてだが、
「ドワーフ?」
「ん? なんだ、誰か連れてきたのか……てめぇが?」
どうやら、俺たちに今気づいたらしい。バレンと言われたその人は、俺たちを奇異の目で見ている。そう、
「こいつといるとか正気か?」
という目で。というか直接言われた。でも正直反論できないかもしれない。
「わしも思う」
流石に即答はどうかと思う。
「もー、ひどいですね、とにかく改めて紹介しますね! 彼は鍛冶師のバレンさん! 泉さんの言った通り、ドワーフです!」
やはりドワーフで鍛冶師だった。まぁ、いかにもという感じの気難しそうな職人だ。
「泉です」
「クランじゃ」
俺たちは自己紹介をする。
「あ~、思ったよりまともそうか。そっちの女は微妙にマゼラン似ている気がするが」
「暴言じゃぞそれは!」
「流石に泣きますよ!」
まずいな、場がカオスになってきた。
「それで、この人に籠手の鑑定をしてもらうのか?」
収拾がつかなくなる前に、俺はマゼランに聞く。ここに来た理由は籠手の鑑定だったはずだ。まぁ、”鍛冶師”ということは、恐らくそれだけじゃないのだろうが。
「籠手?」
「おっと、そうでした。バレンさん、これの鑑定お願いできますか?」
「ちっ、鍛冶中にずけずけと」
そう言って、マゼランは籠手を渡す。面倒くさそうに籠手を受け取ったかと思うと、一瞬にして職人の顔に変貌し、籠手を見始める。時に軽く叩いたり、覗き込むように内側を見たり。ついには、レンズのようなものを取り出して見始める。
クランは、先ほどの発言がよほど堪えたのか、隅っこで考え込んでいるが。
「こいつはどこで手に入れた?」
「ダンジョンじゃ」
急に声を出したかと思えば、そんなことを聞く。それに答えたのはクランだった。さっきまで話聞いてなかったのに。
「なるほどな、だとしたらこいつは異常だ」
異常、というのは、何というか変な感想である。他の装備品とそんなに違うのだろうか。
「劣化がねぇ。ダンジョンの宝箱なんかに眠ってる装備品は基本劣化してる。こいつにはそれがない。いやそれどころじゃねぇな。どっちかというと、変化がない。物ってのは、劣化するにしろ、鍛えられるにしろ、変化するもんだ。だが、こいつにはそれがない。最初からそんな形だった、そんな感じだな」
なるほど、それは異常だ。物は変わる。当たり前で忘れやすい論理だが、それゆえに不変的な論理だ。それがないというのは、確かに異常である。
「ちなみに価値としては?」
マゼランが聞く。確かに肝心な部分を聞いていなかった。
「高い。正直、売ればかなりの高値はつくだろうな。恐らくだが、こいつはこれからも劣化しねぇし、変わらない。多分そう言う代物だ、要は整備いらずな上、壊れない武具だ。しかも、どうも簡単な魔力の気配がする、魔具の類だな。効果は……衝撃吸収だな、弱いが確実な効果はある。籠手としての性能としては破格だろうさ」
かなりの好感触である。そんなにいい代物なのか。これはダンジョンでの一番の収穫はこれで決まりか。
だが、あの短時間でそこまで見抜けるとは、この人、実はかなりすごい人なのか? いや、鑑定眼は確かそうなマゼランが頼むぐらいだ。やはり、すごいのだろう。
「なるほどのう、なら売ってしまうか?」
うーん、金に困ったらありだろうか。
「いや、売るのはお勧めしねぇ。さっきはああ言ったが、そっちのあんちゃんに合いすぎてる。あんちゃんが使うことを最初から想定してるみてぇにな」
そこまでか。そんなことありえるのか? というか、俺のことは少ししか見ていないのに、もうそこまで見抜いているのか。
「うーん、噂には聞いていましたが、ダンジョン暴走で得られる報酬とはすさまじいですねぇ」
「……なるほどな」
バレンさんはそう言って納得する。なるほど、ダンジョン暴走を攻略したからこそ、手に入れられた代物なのか。
「てめぇらが、マゼランが言っていた奴らか。納得したよ」
いや、納得したのは別のことだったらしい。というか、俺たちのことマゼランに前々から聞いていたのか。ならさっきまでナチュラルにそのこと忘れてた?
「えぇ、ようやく思い出してくれましたか♪ そういえば、お二人は、レベルが上がって、新しい装備が欲しいところでしたよね♪」
「ん? もしかしてじゃが、この展開……」
クランが目を輝かせている。これは、多分考えている通りだろう。
「はぁ、ダンジョン暴走を止めた逸材ってんなら、こっちから言うしかねぇな。作らせてくれ、てめぇらの装備――久々にいい仕事が出来そうだ」
やはり、そう言う流れだったらしい。
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