チェンジ・チェンジ・チェンジ!
どうも、作者です。二十七話です。
契約は結ばれ、俺たちは文字通りの一心同体となる。とはいえ、明確に身体能力が上がったわけでも、レベルが上がったわけでもない。しかし、変わったことはいくらでもある。
(泉、来るぞ!)
一つ――声がいらないこと。クランに思ったことを送るだけで、意思が伝わる。逆もまた然りだ。
それに、五感の共有もできる。だから、いざとなればクランの視界を借りての状況把握も可能。
トカゲによる突進、クランが後ろにいる以上。もちろん受け止めない選択肢はない。俺はそれを、難なく受け止める。体にダメージが残ったうえで、余裕をもって受け止められた。
(! これは、成功したようじゃな!)
二つ――スキルが発現していること。正直、今ので気づいた。明らかに防御力が上がっている。それが何か分からないが、これなら、確実に受けきれる。
これなら、もうこの魔獣にやられることはない。
(泉、やるぞ!)
ああ、やるぞ。そう、そして三つ――突進を受けたまま、言葉を紡ぐ。
『『交換』』
後ろにいたはずのクランは、いつの間にか、前にいる。違う、厳密には、俺とクランの位置が入れ替わった。
『交換』、俺とクランの位置を入れ替えるというシンプルな魔法。契約時に、詠唱と効果を何となく理解できたため、使えた。
魔獣は、目前から唐突に消えた盾によって、突進の勢いを持て余す。その結果、隙だらけの頭にクランの一撃が叩き込まれる。二回目のクリティカルヒット。
しかし、先ほどのダメージはもう回復していたのかその一撃では倒しきれない。俺はクランの驚きを受け取る。
(クラン、まさか)
(うむ、今のでやれたと思ったじゃが、恐らく再生持ちじゃな)
さっきのクランの一撃を食らったあとの魔獣の様子見の意味を理解する。あれは様子見をしていたのではなく、自身の再生を待っていたか。
実際魔獣はもう一度俺たちから遠ざかって、壁を這いまわっている。壁を這いまわられるのは厄介極まりない。こっちは、高い壁にいる敵への攻撃が少ない。
(む? さっきと動きが違うわい)
正直俺は、さっきまで意識がもうろうとしていたので、よくわからないが、クランの言い分で動きが違うらしい。
俺たちは、少しだけ相手の動きを観察する……。そうか!
((扉!))
俺は全速力で扉へ向かう。敵の狙いは、この空間からの脱出。つまり、外への逃走だ。そうなると流石にまずい。外には、まだ冒険者がいるはずだ。それに、ダンジョンの外に出させるわけにはいかない!
急げ、急げ、扉を守れ!
その感覚と共に、俺の一歩の力は格段に強くなる。
(速い!)
クランの驚愕が俺に伝わる。俺でも思う。明らかに速度が上がっている。 これなら、魔獣より早くたどり着ける!
俺は扉の前に魔獣より先に立つ。しかし、魔獣はところ構わず突っ込んでくる。確かに、あの角度からであれば、俺の盾は避けられると、思ったんだろう。確かに――俺であれば、だが。
『『交換』』
一瞬で驚きから復帰していたクランは、しっかりと構えていた。クランの姿と扉は少しだけ遠くに見える。改めて実感する。俺はこの距離を一瞬でたどり着いたのか。そう、クランの位置になって思う。
クランは壁をつたって扉の横までたどり着いた魔獣に、攻撃をもう一度叩き込んだ。しかし、クリティカルヒットとはいかず、攻撃モーションに入る魔獣。
流石に、間に合わないか、だが、
『『交換』』
だが、その攻撃は、俺が受け止める。俺はもう一度扉の前まで戻っている。しかし、先ほどより威力が強い、というより、俺の防御力が下がった?
(ふむ、お主のスキル、恐らくじゃが、守る対象がいる必要があるようじゃの)
クランは冷静に観察結果を述べる。多分その通りだ。だが、それでも確実に防御力は増している。常在で防御が上がるものと、条件付きで防御が上がるものがあるとみて間違いないだろう。
と、実は『交換』前から近くまで来ていたおかげか、クランはもうトカゲの近くまでたどり着いている。クランは槌を叩きこむが、魔獣は流石に学んだようで横からの攻撃は避けられる。
(クラン、もう一つの簡易魔法、使ったらどうだ?)
(正直、あんまり使いたくないんじゃがのう)
そう言いながら、壁を這いまわる魔獣に対して、開いた手を向ける。
『撃て』
『魔弾』
小さな魔力の弾丸が放たれる。しかし、その弾は、あまりにノーコンであった。躱されることもなく、見当違いの方向に着弾した。
「当たらんわい!!」
別に、口で言わなくても通じるのに、というか、直接苛立ちが伝わっているのだが、それでも声に出すのを抑えられないくらいには全く別の場所に着弾していた。
流石に遠距離攻撃がないのはきついだろうと、アメイに持たされた『魔弾』だったが、クランのノーコンぶりには、(本人も含めて)三人で頭を抱えたほどだが、
「とにかく、相手の上側に攻撃するようにしろ、ひたすら撃て!」
俺もつい、声に出してしまうがとにかくクランに指示する。指示通り、クランはひたすら『魔弾』を撃ち込む。いくらノーコンでも、狙えば多少は魔獣の近くに着弾する。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、というやつだ。
そして、一発だけだが、魔獣に当たる。クランの魔力は高い、一発当たれば、敵にそれなりのダメージが入る。
俺も下から追いかけて圧をかける。通常時だと、少しだけ相手の方が速いな。
貫通力の高い『魔弾』が、魔獣は、体を貫かれ叫び声をあげる。まぁ数十発撃ってようやっと一発当たったわけだが。
(はっはっは! どうじゃ!)
笑い声は声に出してくれ。と、そんなことはどうでもよく、相手にダメージが入り、少しだけ下がる。
(そのまま)
クランはそのまま『魔弾』を放ち続ける。先ほどより当たらなくなったが、一度当たったことで敵の意識は弾に向く。そして、上側に着弾している弾に気を取られて、段々下がってくる。それでいい。
『『交換』』
そこまで下りれば、クランの攻撃範囲内、俺と入れ替われば、簡単に魔獣の位置まで近づける。だが、まだ。
『獣どもよ、この音を聞け、衝撃の咆哮を!』
『魔獣挑発!』
魔獣は、先ほどまでクランがいた位置にいる俺に完全に目が釘付けになる。つまり、隙だらけだ。
クランの一撃が叩き込まれる。流石にクリティカルヒットだ。しかし、それでも魔獣は倒れぬが、流石に今の一撃で地面に叩き落される。こうなれば、クランの攻撃は入り放題だ。だが、魔獣は必死の抵抗に入る。まずい、俺は全力で飛び出し、クランの前まで到達し、クランをつかむ。後ろに下がる。
魔獣は飛び跳ねその巨体をこちらに向ける。単純な質量攻撃と言えど、敵は巨体。普通に強い攻撃になる。
起き上がった巨体はそのまままた壁を這いまわる。
(くそ! またやり直しか!)
クランの言う通りだ、また、やり直し。倒されはしないが、倒せもしない。完全にじり貧、火力不足だ。形勢は確かに逆転した、しかし、一手足りない。
(他の冒険者が逃げるまでの時間稼ぎにはなる!)
(しかし、ダンジョン暴走は止まらんぞ!)
クランの言う通りだ。結局、ダンジョン暴走は止まらない。どうする。
「――いや、十分だ。君たちの勝利だ」
そんな言葉が聞こえる。圧倒的な風切り音と共に。
ドォン!
しかし、次の瞬間には、圧倒的な破砕音が聞こえる。その、音のする方向に振り向くと、先ほどまで這いまわっていた魔獣は、頭部を砕かれ、見るも無残な姿へとなり果てていた。
そして、その前に当たり前のように、佇んでいたのは、
「ギ、ギルマス殿?」
クランも驚きを隠せていない。そう、そこいたのは、槍を持った、ソテルさん...…だった。
「ああ、助けに、いや本当に君たちに関しては必要なかったね、ギルドマスターとして、認めよう。このダンジョンを、ダンジョン暴走を攻略したのは、君たちだ。ありがとう」
ソテルさん……によって、いや、ソテルさんが言うには……俺たちによって……攻略されたらしい。
だめだ……魔獣が討伐された……安堵で――意識が……
「ん? 泉! 泉!」
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