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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
一章 始まりの■■
26/58

はじまりの”契約”

どうも、作者です。二十六話です。

章タイトル回収回です。

「――ズミ! イズミ!」


「姉貴?」


声が聞こえて、咄嗟にそう呼んでしまう……。ここは?


「なーにを言うとるんじゃ! わしはお前の姉ではない!」


クラン……。そうだった、戦闘の最中に俺、気絶してたのか。俺は、痛みでうまく動かないからだを、何とか上半身だけ起き上がらせる。


「どれくらい気絶してた!? あのトカゲは!?」


「無表情で叫ぶでないわ。気絶してたのは一瞬だけじゃ、回復魔法をかけたらすぐ目を覚ました。トカゲに関しては、どうもさっきの一撃が相当堪えたらしくてのう、遠巻きにわしらを観察しておるわ」


そうか、まだ外には出ていないようで安心した。それにしても、あのトカゲ、さっきの一撃もそうだが、かなりの知能があるな。


正直、今は少しだけそんなことはどうでも良かった。さっきまでよりずっと体は重たいのに、何となく心がすっきりしているせいだろう。


「さて、どうしたものかのう」


クランは、そう言って、トカゲを見つめる。実際、あいつはどうにかしなきゃいけないが、


「クラン」


俺の呼びかけにクランはこっちを見る。


”――貴方は根っからの守護者なのですね。ですが、それはどうしてでしょう? ”


あの日、マゼランから問われた”どうして”に答えるように、


”――お主に”信念”はあるか?”


昨日、クランの”信念”を聞いた後の、答えられたなかった”答え”を、今度こそ


「見つけたよ、俺の”信念”を。俺は――お前を”守る”。そして、俺と関わってくれた人を、”守る”よ。それが俺の”信念”で、”約束”だ」


戦闘中に何を言ってるんだ、なんて怒られてもいいと、そう思った。だが、クランはほんの少し放心したかと思うと、すぐに顔を綻ばせた。


「なるほど、お主の”始まり”を見つけたか」


「ああ」


俺たちは見つめあう。多分、ようやっと、互いの意味を知れた。クランは満足げに、しかし気を抜かないように、トカゲの方を見つめる。俺もそれに習った。


そうだ、別に、この問題は解決したわけではないのだ。


「じゃが、わしらはここで終わってしまうかもしれんのう」


「そうだな」


それは変えようのない事実だった。攻撃力も、防御力も、技術も、あの魔獣に勝つには何もかもが足りない。それだけはどうしようもない事実だ。かといって、もう逃げる手段をとる気もない。だから、抗って終わってしまうだろう。


「もし、この状況を打破する手段があるとしたら、どうする?」


それは、クランの言葉だった。俺は迷うことなく答えた。


「使うさ」


クランはその言葉に、笑みを深める。そう答えるだろうと、分かっていたように。


「実はあるんじゃ。しかし、それをすれば、わしらは一生離れられん。恐らく……あっちの世界に帰ることすら難しくなるかもしれん」


それは、辛いな。家族に会う手段はなくなるかもしれないか。でも、そうだな。”繋がり”は、腰にかかっている。俺は、その”鍵”を見つめた。多分、その時間は一秒にも満たず、もう一度クランの目を見つめる。いつの間にか、クランの方もこっちを向いていた。


「問題ない」


「まだ、デメリットしか話してないんじゃがのう」


クランは呆れたようにため息をつく。その割には、不機嫌そうではない。だから多分、大丈夫だ。


「”契約”じゃ、イズミ。お前の魂と、わしの魂を、つなげる。つなげてしまえば、もう離すことはできない。片方が死ねばもう片方も――死ぬ。じゃが、問題はないな?」


クランは不敵に笑う。ああ、なるほど、それは本当に最終手段だな。


「問題はない。だが、それは本当に打破する手段になるか?」


確かに、すさまじいことをするのは分かる。しかし、それだけでこの状況を打破できるかはわからない。


「恐らくじゃが……お前は異世界人にしては、スキルが地味すぎる。それは、単純にそういうものなのだと思っていたが、今までのお前を見ていると、そうではなかろう」


スキル。確かに、一緒に転移した新は明らかに強いスキルを持っていた。それを俺は才能がなく、持っていなかっただけだと思ったが、


「じゃから、魂をつなげて揺さぶる。スキルとは、魂の在り方が表象に出たものじゃ、なら、それでお前の、いやわしたちの潜在能力を引き出す、それに、契約すれば、それだけじゃないからのう」


なるほど、それなら、やる価値はある。それにしても、スキルとは、そういうものだったのか。


にしても、スキルを生み出すほどの契約か。これは、一世一代の賭けになりそうだ。


「わかった、じゃ、やるか」


「それにしても、お主は即答してばかりじゃな」


確かに、こいつに出会ったときも、こんなやり取りをしたっけか。


クランは何故か、一度変身を解く。いや、本来の姿でやりたいのだろう。それとも、初めて出会ったあの日のように、だろうか。どちらでもいいな。


俺は、今にも死にそうな体に力を入れて、体を起き上がらせる。ああ、『再生』とクランの魔法で多少回復しても、ほとんど死に体だな。それでも、俺は問題ない。


手を差し伸べる。あの時も、今も、きっとこれからも変わらない。俺とこいつの関係性はきっと変わらないんだろうと、死を前にしてものんきに考えていた。


「お主、何考えておるんじゃ。 まぁいい、本当にいいんじゃな?」


「あぁ、もう変える気はない」


そう言うと、少女は呆れ顔でこっちを見たかと思えば、すぐに前を見る。


「はぁ、お主は相変わらず変な奴じゃの」


「お互い様だ」


クランは俺の差し伸べた手をいつの間にか、握っていた。


俺たちの体が、光の粒子が包む。魔獣はそれが危ないものだと察知したのか、様子見をやめてこちらに向かってくる。


しかし、そんなトカゲの動きは、スローモーションになっている。きっとこの契約は、あの魔獣が来る前に……。


それは、感情の濁流、思考の濁流、そして、記憶の濁流。


”――では、お嬢様、また明日”


きっとそれは、彼女が語ってくれた、旅人とのなんて事のない、記憶だ。次から次へと断片的に記憶が流れ込んでくる。


庭仕事、本の記憶、家族の記憶、友の記憶、次から次へと、そして、クランの身分。あいつ、何てこと隠してたんだ。


(ふっ、今更じゃ!)


わかってる、というか、当たり前に話しかけるな。


(もうだいぶ繋がっておるからのう。これからはこうじゃ、慣れるがいい。にしても、お主の家族、いい人そうじゃな)


……お前もな。


(……うむ。さて、そろそろ完了じゃ)


クラン、お前が誰かを”癒す”ために、進む続けるなら、俺が”守る”


泉、お主が誰かを”守る”ために、前に立ち続けるなら、わしが”癒そう”


未だ、導のない旅路であろうとも、ここに確固たる”契約”は結ばれた――



――さて、死なないための反撃といこうか/いこうかの。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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