英雄祭
どうも、作者です。二百九話です。
一日、馬を走らせ続けてそこにたどり着いた。カウデン帝国の中心、帝都カウデンに。未だ街の外でありながら、その喧噪はすさまじいものだった。たくさんの商人や冒険者と思わしき人間が並んでいる。
「わたくしたちは別門から通りますわ」
ここまで、本来なら通れない道をいくらか通ってきたらしい。普段なら封鎖されていたり、身体調査をする必要がある場所を、レーシュの権限で通ってきた。ここでもそれを使うらしい。
そして、並んでいる人たちをしり目に、俺たちは門を通っていく。何だか申し訳ない気分になるな。街の中に入れば、そこはさらに賑やかな空間が広がっていた。
どこを見ても人だらけで、そこら中に立っている屋台は忙しそうで、店と思わしき場所は、扉から入る手間すら省くためか、扉がない。
街そのものは、理路整然とした街並みだった。ダンジョン街のような乱雑さはなく、建物の大きさから何まで、計算されつくしたような街並みだ。
「では、わたくしは仕事をこなせばならないので、ここで失礼しますわ。明日には顔を出すので、よろしく言っておいてくださいまし」
「おう、あの王様にもよろしくな」
「ええ」
そう言って、レーシュさんとは一旦分かれる。昨日聞いた限り、レーシュさんはかなり高い地位にいるらしい。今は、帝国の王直属の騎士団に所属しているらしく、こうして忙しい立場ながら、モロゾフさんを待っていてくれたらしい。
さて、例の薬屋に向かうとするか。
「英雄祭、やはりにぎやかですね」
「帝都のものは世界でもトップクラスでしょうね」
英雄祭。名前の通り、かつていたと言われる英雄たちを祀り、称える祭りだ。地域によって、どんな英雄を称えるかは変わるらしいが、こうして楽しく祭りを行うは何処も共通しているらしい。
”シゲン”の街も、今頃楽しくやっているのだろうか。やってるだろうな。あそこの冒険者は祭り好きだからな、豊穣祭の時もかなり賑やかだ。
「あ、泉さん、ヒビキさん、私たちから目を離さないようにお願いします」
「気を抜いたらはぐれるからな」
確かにこの人混みの中だと簡単にはぐれてしまうだろう。この広い都市じゃ、店を見つけるのも大変だしな。
「ヒビキさんならはぐれても大丈夫そうだけど」
「私も三年ほど帝都には来ていなかったので、多少は変わっていますが」
「え、三年前には来てたんですね」
「ええ、帝都は変化が多くてよく来ますよ……まぁ、あまり来すぎると、彼にいい顔をされないので、数年に一度程度ですが」
世界中を渡り歩いているヒビキさんが数年に一度来るだけでもすごいと思うが……それだけいいところなんだろうが。
歩き始めて十分ほど、大きな道に出る。そこはさらに賑やかで、どこも武装した人だらけだった。多分ここにいるのは冒険者だ。
ということは、冒険者がよく使う通りなのだろう。そう思って道の先を見てみると、見覚えがある大きな建物がある。あの形状……冒険者ギルドか。
”シゲン”の街の冒険者ギルドにそっくりなあたり、あの建物の形は使いまわしなんだろう。大きなギルドの形は一緒なんだな。
「パレードまでには間に合うか?」
「あれが始まると、人が余計増えますからねぇ」
パレード……何とも祭りらしいものがあるんだな。こういう帝都のパレードということは、あれだろうか、王様とか見えるんだろうか。
少し気になるな。ここの王様、どんな人なんだろうか。レーシュさんが王直属の騎士ということだから、レーシュさんもいたりするんだろうか。
「と、そろそろ着くから、気を抜くなよ」
「了解」
ギルドにかなり近づいて、人が増えてきて、気を抜くと本当にはぐれそうだ。俺たちはギルドを素通りし、その先の道に向かっていく。
ギルドの方、受付嬢らしき人たちがかなり忙しそうに動いている。どうやら、冒険者たちに飲み物を配っているようだ。大変そうだな……
(な! あれは……!?)
! あれは、どこか見覚えのある顔が受付嬢がそこにいた。多分、クランの記憶で見たような顔……いや、見間違えじゃ……あれ?
……しまった。それに気を取られ、俺は完全にみんなとはぐれた……どうしよ。
(泉、ギルドの方へ向かえんか!)
クラン、気持ちは分かるが、はぐれた以上、下手に動くのは……
「おい、盾野郎! ここで立ち止まったら迷惑だろうが! ただでさえでかいんだからよぉ!」
「す、すまん」
確かに、ただでさえ人で渋滞しそうな人混みだ。とりあえず移動しよう。とはいえ、ギルドの方には近づけそうにない。
一旦どこか、人が少なそうな方に……そういえば、豊穣祭の時もこんな感じではぐれたような……考えるだけ無駄だな。
とはいえ、人が少ない場所なんてあるのか……? とりあえず、どこかの裏道に……お、ここなら人が少ないのではないだろうか。
ギルドの近くだからか、治安は悪くなさそうだ。とりあえず、一旦ここで休憩しよう。ヒビキさんあたりが見つけてくれるかもしれないし。
とはいえ、入ったとして、一体どうしようか。クラン何かいい案はないか?
(ないのう。というか、さっきの……”ルミナ”にしか見えんかったが……)
ルミナ……クランの友達の名前だ。俺も詳しいことは知らないが、数十年前から消息を絶っている”魔眼”の少女。いや、王族の一人だった娘。
クランの記憶では、魔眼の王権争いに敗れ、逃げた可能性が高いというところまでしか分からない。クランもどこかで会える可能性もあるかと期待していたようだが……。
いや、ギルドの受付嬢なのだったら、その内話が聞けるだろう。ハイカさんはギルドに伝手があるだろうし。とにかく、今は合流を優先した方がいいな。
ここでおとなしく待つか、どこかもう少しわかりやすいところに行くか……いっそのこと建物の屋根を伝うか……流石に非常識か。
うーん、とりあえずもう少し移動してみるか、誰かに薬屋の位置を聞いてみるのもいいだろう。かなり腕利きの薬屋のようだし、知っている人もいるだろう。
「お……さ……ろよ!」
「えぇ……めん……ひ……いし」
そう思って少し移動すると、道のさらに細い方から話し声が聞こえてくる。誰かいるのだろうか? その方を覗いてみると、そこには少女がいた。一人で話してる?
迷子だろうか……だとしたら俺と同じなわけだが、声を……いや、知らない人間から急に話しかけるのはあれか……? いや、俺も困っている身だ。もしかしたら、道は分かるが、人混みに混じりたくないだけかもしれないし、どこぞの商人のごとく腹を空かせているかもしれない。とりあえず、話しかけてみるか。
「迷子か?」
「んぎゃ! あ、どうも……えっと、誰ですか?」
「迷子だ」
少女は腰にある何かを隠して、俺の方を向く。さて、何か打開できるといいのだが。
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