帝国に
どうも、作者です。二百八話です。
――船旅を終えて、今度は馬車を乗り継ぐこと二日。出発してから四日、俺たちは、その巨大な要塞にたどり着いた。
「到着しましたね。ここがカウデン帝国フーニル領、その領地です」
「旅人さんたち、本当にここでいいのかい? 一応帝都まで進むが」
「伝手があるので、ここで大丈夫です。あ、報酬です」
ここまで馬車に乗せてくれた商人に、感謝と報酬を渡し、俺たちは関門前で馬車から降りる。でかいな。
「フーニル家は、帝国でも屈指の武闘派貴族ですよ。そのために、聖王国方面であるこの東側を担当しているのです」
昨日あたりから目を見て話してくれるようになったヒビキさんがそう解説してくれる。いつもの感じでうれしい。
帝国と、聖王国は仲が悪いのか。どちらも、獣の大陸では最も大きい国二つらしいし、そういうのは大抵仲が悪いのだろうか。
そういえば、ここまで帝国が敵になるみたいな話も聞いていないし、何だったら、どうもギルドともかなり仲がいいらしいし、味方と考えてもいいんだろうか。
まぁ、大きいということは、政治的なあれこれもあるだろうから、一概にそうとも言えないか。
「それで、伝手っていうのは?」
「純粋に俺が知り合いっていうのと、あいつ」
? あいつというのは一体誰のことなんだろうか。ハイカさんは、あいつと言われてぴんと来ているようだった。まぁ、知り合いなんだろう。とりあえず、このまま進めばわかるな。
「モロゾフさん、フーニル家にも伝手があったんですか?」
「前職の……厳密には今も辞めたわけじゃないが……まぁ、その時の仕事でな」
「貴方一体何者なんですか?」
もしかして、思ったよりモロゾフさんはすごい人なのか? ハイカさんも少し驚いているようだし。
俺たちは関門を通る。いつも通り検査をするかと思われたが、モロゾフが兵士に何か渡すと、兵士はすぐに城の中へと入っていった。
待つこと数分、俺たちは、関門を通る許可を得た。この数分で関門を通ろうとしている商人たちを見る限り、この対応はかなり異例な気がする。
そうして、関門を通ると、兵士の案内で、他の人たちとは別の所に案内される。そこには、馬が数匹と……
「はぁ、モロゾフさん。手紙を渡すのならもう少し早く渡してくださいまし。あと少しで出発するところでしたわ」
「すまんね。こっちも急だったもので」
モロゾフを見るなり話し始めた、その相手は、まるでテンプレのような、金髪縦ロールお嬢様系騎士だった。属性が多い!
「申し訳ございません。そちらの皆さんが、モロゾフさんの仲間ですのね……初めまして、レーシュ・フーニルと申します。以後お見知りおきを」
今までにないくらい丁寧にあいさつをしてくれる。その所作は、恐らく帝国流のものなんだろうが、初めて見る俺からでも美しいと言えるくらいには丁寧で慣れた動きだった。
何より、体がぶれない。ただの貴族ではなく、騎士という一面があるのは分かるくらい、強い肉体を持った相手なのも間違いない。
「ふふ、私は初めてではありませんよ、レーシュさん。と言っても、この姿でお会いするのは初めてなので仕方ありませんが……」
「……その声、まさか、レイド様!?」
レイド……というのは、冒険者としてのハイカさんの通り名だ。そういえば、ハイカさんはSSランク冒険者をしていた時代は、あの二メートル近くはある魔法の鎧を身にまとっていたのだったか。
だったら、この姿で出られても分からないのは仕方ないな、顔も隠していたようだし。
「やっぱ知り合いだったか」
「当たり前でしょう!? そうではなく、どうしてレイド様と一緒に!?」
「成り行きだ。あと、そいつぐらいで驚いてたら顎外れるぞ」
こういうのはなんていえばいいのだろう。家族や友人とは違う、しかし他人ほどの冷たさはない雰囲気。あれだ、仕事の同僚のような、そんな感じのものが、二人の間から漂っている。
「とりあえず、明日には”英雄祭”だ。自己紹介その他もろもろは、馬を走らせながらだ」
「……はぁ、そういたしましょうか。そっちのほうが落ち着いて話ができそうですわ」
馬……俺、乗り方知らないぞ。そう思って仁王立ちしてると、それを察したモロゾフさんとハイカさんが目配せしている。
「あ~、ヒビキに……無理そうだな。だろうな、よし、俺の後ろに乗れ」
ということで、俺はモロゾフさんと馬を二人乗りすることになった。モロゾフさんは体格が小さく、俺の身体にすっぽりと収まる。まぁ、モロゾフさんは見た目は少年だし仕方ないが。
「――馬は俺が動かしとくから、今のうちに自己紹介でもしとけ」
馬ってこんな感じなのかと感じる暇もなく、俺は自己紹介を促される。いや、しなきゃいけないので仕方ないのだが。
「小山泉です。よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。ちなみに、この方は……」
「俺と同じだ。いろんな意味でな」
「なるほど……これはまた、大変な案件を持ってきたようですわね」
「たまには持ってくる側でもいいだろ」
モロゾフさんの言う通り、俺は色々とモロゾフさんと同じ立場である。転移者であり、赤月の女神の眷属なんだから。
「それで、そちらの方は……」
「申し遅れました。ヒビキと申します」
「……、……え?」
今まで一番飲み込めないといった具合にぎりぎり声を出す。やはりというか、ヒビキさんは有名人だ。この世界では、もっとも有名らしい著書の一つ『文化紀行記』の著者なのだから。
「お察しの通り、『文化紀行記』の著者で、竜人のヒビキです。今は、イズミさんとハイカさんのパーティメンバーをしております」
「すみません。思ったより、すごい状況ですわね」
まだ飲み込めていないようで、かなり抽象的な言葉しか出ていない。やはり、俺がおかしいのだろうか。ハイカさんにしろヒビキさんにしろ、偶然出会って、不意に友人になった人たち、という印象が強いのだが。
(普通におかしいぞそれは……いや、わしが言える立場じゃないが)
まぁ、吸血鬼のお姫様の方がよほど出会える確率は低かっただろう。というか、俺が初めてまともに交流した異世界人がクランの時点で俺はおかしいか。
「街に着くまでには慣れてくれ。あっちにつけば似たような反応がわんさか出そうだからな」
「そうですわね……ギルマス以外の皆さんは頭を抱えそうですわ……今のわたくしのように」
まぁ、そうなるだろうな。それにしても、帝都のギルマスか……もしかしてだが……まぁ、すぐにわかることか。今は帝都へと急ごう。
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帝国でのお話は、前日譚『三月裏道譚』の登場人物がかなり出てくるので、読むと面白いかもしれません。読まなくても大丈夫です(多分)。




