薬屋ジョゼ
どうも、作者です。二百十話です。
二百台はあと九十話。
私たちはいつもの路地裏にたどり着く、ジョゼさんの薬屋”ピース・スリープ”のある場所。
「よし到着っと……着いたぜ、ここが……あれ?」
「い、イズミさんが、いない」
……これははぐれましたね。この路地裏は、一種の認識阻害の結界が張られている。そのため、意識してこの道に入ろうとしない限り、入れないようになっている。
ここに入る方法は、ここまでの道を覚えて意識して入ろうとするか、無意識にこの道に入ろうとする無我の境地にでも至らない限りは入れない。後者はほぼ無理。
恐らく泉さんが入る瞬間に何かに気を取られたせいで、結界の認識阻害に引っかかりましたね。モロゾフさんが急いで、人混みの中を探すが、この中ではなかなか見つからない。
「どうしますか?」
「あ~、あいつに頼った方が早そうだな」
確かに、ジョゼさんなら見つけるのはたやすいだろう。一度会って、その後に泉さんを見つけましょうか。幸い帝都の祭り中なら、危険なトラブルには遭遇しないでしょうし、遭っても泉さんなら何とかするでしょう。
「そうですね。薬屋に入りましょう」
「イ、イズミさんは大丈夫でしょうか……」
「大丈夫だろ……それとヒビキよぉ。ここまで言う機会なかったから今言うけど……露骨だぞ?」
「……何のことですか?」
「泉に一目ぼれしたんだろ? あ、いや一目ぼれじゃないか……あれだ、恋を自覚したってやつか」
「へ!?」
すごい。ヒビキさんが今までにないほど取り乱している。普段から冷静で穏やかなヒビキさんが、自分の恋を自覚して、すごい取り乱している。
うーん、恋をすると人ってこうなるんですねぇ。特に千年生きて色恋沙汰とは無縁だったのでしょう。いえ、五十年以上生きている私も似たようなものですが。
「まぁ、ここ数日で随分隠すのはうまくなりましたね……肝心の泉さんは気づいていませんし」
「はぁ、後輩にいたわ……まっすぐな目して、他人から自分への感情に無関心な奴。ああいうのはきっかけがないと気づかねぇぞ」
確かに、泉さんの目はまっすぐですね。他者を守るという、自己の信念にまっすぐすぎますし、元々、自分に向けられた悪意に無頓着なタイプではありますね。
「そ、そんなにわかりやすかったですか?」
「泉が見えてない場面でチラチラ見てただろ……」
「馬に乗っている間も、泉さんの後姿を見てましたよね?」
「ひぇ……そんなことは……」
やっぱり見てましたね。バレバレです……いえ、そういえばレーシュさんも気づいてませんでしたね……考えてみれば、彼女も同じタイプですか。
「ま、とにかく、多少は抑えるか、もっと積極的に行くかのどっちかにしろ……別に人の恋路に邪魔だてはしねぇが。とりあえず行くぞ」
うーん、こういう面を見ると、確かに彼は見た目にそぐわない大人ですね。身長は私(144cm)よりちょっと上くらいなのに。
モロゾフさんの後に続いて、薬屋の扉を開ける。五年経っても、本当に変わりませんね、ここは。
「うぉー!! 主を探しに行くぞ!」
「落ち着いてください! イサムお兄ちゃん! ハイカお姉ちゃんはお兄ちゃんみたいに迷子にはなりませんから!」
「いや、主に俺の迷子癖がうつってしまったかもしれん!」
「そんなわけが……あ、いらっしゃいませ!?」
うーん、いつもより騒がしいですね。全然余裕で騒がしいです。
「お、モロゾフじゃん。おひさ~」
「てめぇは相変わらずだな、ウロク」
店にいたのは、イサム、デイアさん、ウロクの三人だ。店に行けば大体会える面子とも言えますね。いえ、”SSランク冒険者”のイサムは、普段は依頼をしているでしょうが。
「そっちのお方達は? えらい美人さんたちだけど」
「ふむ、久しぶりだな! レイド!」
「「え!?」」
ウロクとデイアさんに驚かれる。イサムは匂いで分かったんでしょうが、まぁ、驚くのも無理ありません。冒険者時代はずっと鎧を着ていましたし、鎧は二メートルはありましたしね。
今の私とは似ても似つかないでしょう。元々、この姿を隠すためにあの鎧を着ていたわけですし。
「とりあえず、今の私のことは、後回しで、ジョゼさんはいないんですか?」
「お、おう。今朝方、本を借りに行ったきり、帰ってきてない」
「だから某が探しに行こうと思ってな!」
「やめろ馬鹿。お前が探しに行っても迷子が増えるだけでしょうが……多分、人混みが嫌と歌唱もない理由で立ち往生してんだろ」
まぁ、ジョゼさんならありえる話ですね……さて、まさかあちらの日本人も行方不明とは、困ったものですね……。
「――迷子だ」
「お兄さんが迷子じゃん」
「全くもってその通りだ」
目の前の少女に突っ込まれる。その通りなので何も言えない。眠たげの目の少女は、気まずそうにしている。しまった、初手を見誤ったか。
「それで、ここで何してるんだ? 困ってそうだったが」
「いや~、人混みが嫌で……まぁ、朝のうちに本借りれば。人が増える前に帰れるでしょと思ったら」
案の定、人が増えてきて人混みという壁を前にこんな路地裏で立ち往生しているという訳だ。人混みが嫌いな人というのは、とことん嫌って入りたがらないからな。
しかし、少女に焦りのようなものはない。むしろ、このままここで昼寝でも始めそうな勢いである。何というか、マイペースな雰囲気を感じる。
「はぁ、面倒だし、人が減るまでここで寝ようかなぁ……あ、でもお兄さんが困るか」
「別に構わんぞ。他の人に道案内を頼めばいいからな……いや、流石に一人にさせるのはな」
流石にこんな路地裏で一人きりにさせるのは少し心配になる。少女は寝ようとするのをやめて、座って考え始める。
「うーん、どうしよっかなぁ。でも、人多いし、動くの面倒くさくなってきたし……出すわけにもいかないし……おにーさん、屋根まで飛べたりしない?」
「いけるぞ」
「やっぱ無理かぁ……そんなのできるのレイドさんかイサムくらい……え? できんの……? うわ、お兄さんけっこうな実力者じゃん……ん?」
何を見てそういったかは分からないが……レイド? レイドって確か……
「ハイカさんの知り合いか?」 「お兄さん、日本人?」
見事に被った。俺が聞いたのは、ハイカさんの知り合いかどうかということ。レイドとは確か、SSランク冒険者時代のハイカさんの通り名だ。あそこでその名前を出したということは、ハイカさんを知っていることになると思ったのだが……
それ以上に気になるのは、少女が俺を日本人だと看破したことだ。一体、どういうことだ?
「ハイカって確か……レイドさんの本名だよね? どゆこと?」
「俺も色々聞きたいが……実際俺は日本人だ……もしかして、お前が例の薬屋か?」
少女は驚いたような顔をする。ハイカさんの知り合いで、俺を日本人だと見破った。彼女がその薬屋なのではないだろうか。
「……本当にレイドさん……ハイカさんの方がいいか。ハイカさんの知り合いっぽいね、お兄さんのゆーとおり、薬屋のジョゼ、海野ジョゼ、お兄さんと同じ日本人だよ~」
「まさかこんなところで会うとは……迷子の功名か。はぁ、俺は泉、小山 泉だ。よろしく頼む」
まさかこんなところで、例の薬屋と邂逅するとは。
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