秘薬の試練の始まり
どうも、作者です。二百四話です。
「――さて、帝国にはいつ出発するんですか?」
「そうですね……ハイカさん。その薬屋は何処にいるんですか?」
「帝都です」
帝都、ということは首都か。ヒビキさんは少し考えている。ここからどれくらいの時間でいけるか計算しているんだろう。
「でしたら、今から行くとぎりぎり”英雄祭”には間に合いませんね」
「英雄祭?」
「赤月の終月、その最後の日。そこで行われる祭りだ」
ああ、そういえば、そんなのあったな。この世界では大体どこでも共通して、終月の最後の日、そこでは祭りが行われるらしい。この世界の暦は、九か月で一年。そして、終月は、三色の月がそれぞれ三か月ごとに切り替わって、それぞれの最後の月、そこが終月だ。
つまり、三回祭りがあるわけだ。確か、青月の時は、”収穫祭”だったな。あれももう三か月前か。確かマゼランと初めてあったのもあの日だったな。
「行程で言うとどれくらいだ?」
「ここから帝国までだと、川を使っていいとのことでしたので、四日というところです。そこから、帝国に入ってから帝都だと、二日」
えっと、今日が確か、三十一日で、この世界の一か月が三十六日だから、六日か、ギリギリ間に合わないな。
「四日か、ここって帝都ってここから西の方角だよな?」
「はい」
「つーことは、帝都から見て東……なら通るな。ちょっと伝手がある。それを使えば一日短縮できる」
伝手か。それを使えば、英雄祭には間に合うんだな。
「ああ、フーニル領ですか。だったら確かに近道がありますね」
「そういうこった」
ハイカさんにも覚えがあるらしい。やはり、共通の友人がいると、何となく察せるものなのか。
「だったら、きょう出発するとよろしいでしょう♪ 帝都の英雄祭は賑やかで楽しいですよ!」
「え~、お姉さんも行きたぁい! 久々にお爺ちゃんにも会いたいし!」
ヴァティさんがお爺ちゃんって言うって、どれだけ老齢なんだ? この人、百歳越えてるんだよな……? というか、お爺ちゃんって誰なんだ?
「ヴァティ姉とグリムさんか……やかましい組み合わせだな……仕方ないだろ、獣人の国の祭りも楽しいだろうから、それで我慢しろ」
「それもそうね! さっすがアメちゃん!」
「その呼び方止めろ」
何というか、微笑ましいやり取りだな。昔からの知り合いなのだとよくわかる。勇者パーティの一人と、勇者が住んでいた村の子供らしいしな。
多分、アメイが生まれた時からの知り合いなのだろう。師匠のあしらい方が上手いというか、昔から苦労させられたんだろうな。
「それだったらぁ、急いでないし、私は、英雄祭まではいようかしらぁ。せっかくの祭り、一人で過ごすのは寂しいものぉ」
「ふふ、多少遅れても問題ないでしょうし、僕もいましょうかね」
アグルスさんはともかくとして、アルさん普通にまずいのではないだろうか……まぁ、ここまでついてきてくれたご褒美くらいに考えておけばいいか。いいのか?
(まぁ、本人がよいなら良いじゃろう)
まぁ、アルさんも思ったより天然というか……自由人よりの人だ。今さら言っても仕方ない気がするな。マゼランもにこにこするだけで何も言わないし。
「でしたら、もう出発しましょうか……マゼラン、もう準備は済ませてあるんでしょう?」
「まぁ……こんなこともあろうかと昨日の暇な時間に物資は調達済みですが……よくわかりましたね? もしかして私のこと理解してます?」
「いえ、あなたのことは一生理解したくありません。信用はしてるだけですよ」
やっぱりこの二人、仲がいいんじゃないだろうか……。
――ということで、会議を終えてすぐ、俺たちは旅の準備を終え、巨大な船に乗り込む。俺たちは”試練の森”を経由したわけだが、この国に来るだけなら、この船を使うのが基本らしい。
まぁ、俺たちみたいに、王に謁見したいというのなら、ああやって試練の名のつく場所を通る、ということらしい。確かに、あそこを普通の商人が通るのは、難しいだろうしな。
それにしても、でかい。獣人の国”ファクタム”は、元々大きな川の上にある国なわけだが、その幅を目いっぱいに使った巨大船だ。
本来、これに乗り込むには、事前に乗船券が必要らしいが、王の計らいで、人数分の乗船券を融通してくれた。
王様……クレオス王は基本太っ腹な人だ。ここまでしてくれる理由が分からなくてつい聞いてしまうと、”試練”に挑む者には、最大限の礼を尽くす、とのことだ。
一応、立場としては、敵に当たるはずなのだが、この人も敵味方という区別ではあまり動いていないな。
「はっはっは! だが、帝都に行くのか! それはうらやましいな! ヒビキ殿、皇帝殿によろしく頼む」
「彼が会ってくれたら、ですが」
と、乗船前の見送りには、そのクレオス王本人が来ていた。かなり気軽に来るな。この世界の王というのは基本自由なのだろうか。エフィも家出してたし。そう考えるとあいつ思ったより大胆だな。
帝都までは五日の行程、厳密には、五日目にはたどり着くわけだから、四日くらいだな。今までの旅路に比べれば、かなり短めだ。
「イズミさぁん。あぁ、イズミ君の方がいいかしらぁ?」
アグルスさんが話しかけてくる。せっかく出会えた同僚? に当たるわけだが、あまり話す機会がなかった。
「どっちでもいいですよ。俺の方が年下だろうし」
「そぉう? じゃ、イズミ君、また会いましょう。今度は色々と話しましょう? 女神ちゃんのお話ができる人なんて貴重だものぉ」
「ええ」
「ふふ、本当に声と顔が合わない人なのねぇ。君とは、初めて会った気がしないわぁ、女神ちゃんから色々と聞いてたしぃ、他の子たちにも、きっとこれからも聞くんでしょうねぇ」
そうだろうか。まぁ、ヒビキさんたちも旅をしてたし、俺のことは色々と聞いていただろう。俺も少し、アグルスさんのことを他の人に聞いてみようかな。
「モロのこと、よろしくねぇ。あの子、気がついたら消えちゃいそうだものぉ……君だったら、いい刺激になるかもねぇ」
モロゾフさん……もう一人の赤月の女神の眷属で、これから一緒に旅をする人。そして、俺と同じ異世界人。少しだけ聞いただけだから、モロゾフさん自身のことはまだあまりわからない。
だが、ちゃんと仲良くできるように努力しよう。少し気難しそうな人だが。そんな風に、アグルスさんと話していると、王様が近づいてくる。
「イズミ」
「クレオス王」
「我が試練、存分に励むがいい……越える自信はあるか?」
試練を越える……そんな自信はない。そもそも、元から自信を持つタイプの性格ではないし。だが、
「越えるしかないです。でなければ、誰かを”守る”という気概も、無意味になる」
「は! いい返事だ、やはり、貴様らが敵であるのが惜しいよ、異界の旅人」
敵、やっぱり、そうはなるよな。
「あら、まだ敵になると決まったわけじゃあない?」
「いいや、俺の勘が言っている。その時はもうすぐ来れる……何、貴様らの女神に聞くがいい。俺と同じように言うはずだ」
”その時”……それが何を表すかは分からない。だが、それが大きな戦いであることだけは、分かる。そんなものに、巻き込まれてしまうというのは、怖いものだ。
「……ああ、いい目だ。ふっ、貴様の目は何よりも雄弁に己自身を語っている。イズミ、敬意を表そう。貴様らの試練を見届けられることを、うれしく思う」
王は手を差し出す。俺も、それに応じるか一瞬迷って、自分の手を差し出す。この人は、敵になるかもしれないが、悪い人ではない、と思う。
他者を見下さない、強い目を持った人だったから。
さて、出発だ。旅を終えて、すぐまた次の旅というのは、余裕がないことだ。だが、これが試練というものなのだろう。
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