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三月羅針譚~盾持ちと吸血鬼~  作者: FOXtale
四章 ■■の王
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砂漠の日の入り

どうも、作者です。百九十八話です。

――”試練の地”に入って八日目。私たちは、喋る気力もなくなっていた。流石に毎日かなりの速度で移動している以上、疲労がたまっている。


その原因は二つ。一つは食料が底をつき始めたこと。今は、何とか節約して量をごまかしているが、ただでさえ体力が奪われるこの砂漠で、満足に食事もとれないとなると、疲労が抜けきらない。


そして、一か所で満足に休めないこと。砂漠も残りはあと少しの所まで来たところで、ビッグワームの出現頻度が上がった。それも、昼夜問わず。


そのため、睡眠量も満足に取れず、一か所にとどまって休憩するのも厳しい。熱いのと寒いのが繰り返されることで、精神的にもかなりきつい。


少しずつ少しずつ、私たちは地獄のような砂漠を歩く。この状況で、誰一人として他人に当たらないのは流石としか言いようがありませんね。


やはり、一番最初に足取りが重くなったのはアメイさんだった。この中でどうしてもレベル的に不利がある彼は、むしろ私たちの速度に追い付いているのがえらいくらいだ。


そして、その次は私。心得があるとはいえ、やはり私も体力はない側ですね……他の三人がすさまじいという方が正しいでしょうが。


しかし、やはり問題は食料ですね。残りの距離を考えれば、本当に少し足りない程度。通常の移動であれば、無理やりにでも行けるのですが……ここではそれは通用しない。それほどの地獄。本当に、厄介ですね。


まぁ、”亜人街”での一件がなければ食糧問題を考えなくてよかったのですが……本当に、うまくはいかせてくれないものですね……。


「アメイ君。私の鳥かごに入ってもいいわよぉ。というか、そうした方がいいかも知れないわねぇ」


「……そうだな。最初からそうすりゃよかった。そうすれば、食料ももうちょい在庫があった」


それは、どうでしょうか。もし、これがもう獣人の王による試練の範囲に含まれているのなら、そのやり方はダメと言われる可能性もあるでしょう……駄目ですね。これも憶測でしかない。そんなことを安易に言うのはよくない。


少し、思考に問題が生じ始めましたね。やはり、睡眠不足と空腹が同時となると、かなりきつい……それに、このまま行くと、到達できずに全員倒れる可能性もある。


可能性を巡らせる。しかし、その案を実行するのは、少々憚られる。何より、このまま到達できずに倒れるか、何とか到達できるかは半々といったところ。


「……ヒビキ。何か策があるのか?」


「それは……ただ、不確定要素が多く」


モロゾフさんは鋭い。何より、私に対して、敬意など一切持たないせいだろう、とても直接的に言ってくれるのは、とても助かりますね。


私も未だに、こういうところで人に頼ってしまう。私は、”黄金羅針”の司令塔だ。しっかりせねば。でなければ、イズミさんにも顔合わせができません。


「賭けになりますが……ビッグワームを狩ります」


「……は!?」


「まさか……」


アメイとハイカさんが声を上げる。二人は私の考えに気づいたのだろう。戦うには危険度が高い魔獣、ビッグワームを狩る理由。それは、


「あれを、食べます」


「えぇ……?」


全員の顔が引きつる。それはそうでしょう。ひたすらでかく、黒く、遠目から見てもグロテスク。正直、どこにも、一切、食べたいと思わせる要素はない。


「いやいや、そもそもあれ食べられるのかよ!?」


「これが食べられるんですよねぇ……私も彼女に付き添っていなければ、知りませんでした」


彼女……ツクリは、このビッグワームも食べられるかを試したのです。そして、実際、毒性はほとんどなく、普通に食べられることが判明しました。


私もあの時、正気を疑ったものだ。あれを食べるのかと……ツクリは”あの大きさなら百人でも食べきれないよ!” なんて興奮していましたが、そんなことはあの時の私には考えられませんでした。そして、今も。


「ち、ちなみに味は……」


「……死ぬほどまずいです。砂を煮詰めたような味と、砂のようなじゃりじゃり触感です」


「砂じゃねぇか!?」


その通り、あれは肉の見た目をした砂でした。あのツクリでさえ、砂を美味しくする術が思いつかなかったほどですからね。ですが、栄養に関してはそこそこあるようで、まずすぎるという理由でテンションが下がる以外は、割と完璧。


問題は討伐難易度が高すぎて、食料にするには割が合わないというデメリットも一緒につくことです。幸いに、今回のメンバーなら、多少苦戦することはあれど、問題なく倒せるでしょう。


「……ちなみに、食べないという手もあります。まだ、ここで倒れると確定はしていませんから」


「……ヒビキ的にはどっちの方が高いんだ?」


食べるか、食べないか、どっちの方が生き残る可能性が高いのかと、アメイは聞く。正直、半々ではありますが……それでも、総合的に加味すれば、


「全員が倒れない、という条件付きなら、前者の方が圧倒的に高い」


そう、数人、それこそハイカさんとアグルスさんだけがたどり着けばいいというのなら、後者の方が確率的には高い。


しかし、全員が”ファクタム”にたどり着く、とするなら、前者の方が高いでしょう。ビッグワームを倒す利点はもう一つあり、ビッグワームはそれぞれが縄張りを持ち、互いにその範囲内には近づかない。死んでも、ある程度は縄張りとして認識されるので、安全地帯が作れる。つまり、休めるのです。


「つーことなら、倒そうじゃねぇか。ビッグワーム。死ぬくらいなら、食った方がましだ」


「そうですね。やりましょうか」


「もぉ、仕方ないわねぇ」


「へいへい、従いますよっと」


四人が覚悟を決めてくれる。だったら、私もやるしかない。はぁ、勝っても、おいしくない虫だけを食べるだけの宴が、死にそうな暑さと寒さの中で行われるだけ。それでも、やるしかないでしょう。


それから数時間。私たちは体力を消耗しないようにじっと待つ。太陽は沈み始め、過剰な熱を与えていた砂は、今度は日を失って、熱を求めて私たちの身体から体温を奪い始める。問題ない。どうせまた、熱くなるでしょう。


振動が始まる。表面の砂から熱が無くなる中、その中に紛れる熱の塊を狙って、一直線に。もちろん、私たちも食べられるつもりはない。振動には振動をもって対抗する。私は、ビッグワームの輪郭を捉える。


「皆さん、走って!」


走る。私は先頭を行く。私が止まれば、他の皆さんも止まる。遠ざかりすぎてはいけない。初撃を逃してはいけないから。ビッグワームの口が届かないギリギリ、そこを狙う。


振動が一瞬止まる。それと同時に、私たちも立ち止まる。


「さて、やりましょうか」


ビッグワームが、私たちの眼前を通り過ぎる。本当は食べたくありませんが……今度はあなたが被食者です。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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