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どうも、作者です。百十話です。

「――聖王国の横断か……うーん、どうにか素性隠さないとなぁ」


「流石に、他の領地に無断で他の領主様が入るのはまずいものね」


ヴァティさんとアルさんがそんな会話をしている。確かに、立場としては偉い身分の人間だから、そういうしがらみはあるか。


というか、やはりついてきてくれるのか、すごくありがたいが、領地の運営なんかは大丈夫なんだろうか、そう思って聞いてみると、


「まぁ、一か月くらいならば大丈夫でしょう。特に赤月の時期は天候が安定していますから、僕のやることはあまりありませんし」


確かに、さっき少し聞いた話では、一年中雪が降る過酷な土地らしいし、むしろやることは多そうな気がするが。


「大丈夫ですよ。この土地にいる人は皆慣れているので、基本的に僕の有無はあまり関係ありません」


「それならいいんですが……」


「大丈夫よ! イズミくん! 私ももうこの土地に三年くらいいるけど、ここにいる人たちはみんな強いわ! 生きることを諦めなかった人たちですもの!」


ヴァティさんまでそう念押ししてくれる。それなら、これ以上は野暮だな。それにしても、三年ってかなり長いこといるんだな……。


「あ、アルコル様。確かに、素性がばれるのは面倒なので、これをどうぞ」


そう言って、マゼランが差し出したのは、真っ黒な面だった。


「これは……?」


「知り合いから譲ってもらった面の魔道具です! なんと、認識阻害の効果があるんですよ♪」


認識阻害、つまり、つけている間は素性がバレない代物か。でも、こんなのつけてたら怪しくないか……?それとも、それ込みで認識を阻害してくれるのだろうか。


「そういうことなら、ありがたく使わせていただきましょう」


「あっさり信用するんじゃな」


クランの言う通りだ。少しくらい怪しく見えないのだろうか。


「マゼランちゃんさんとは、何だかんだで生まれてからの付き合いになるので……残念ながら頭が上がらないのです」


マゼラン”ちゃんさん”……? まぁ、呼び方は人それぞれだな。というか、生まれてからの付き合いって、そんなに……と思ったが、そうか、ヒビキさんと同じ竜人だから、不老なわけだし、あり得るか。


「マゼランちゃん、毎年ここに来てるよねぇ」


「ええ、彼女には、食糧や服やら毎年、物々交換で支援してもらってます。交換といっても、ほとんど無償に近いですが」


そうなのか。確かに、食糧などほとんどとれなさそうなこの土地においては、かなりありがたい支援だろうし、頭が上がらないのも納得だ。


「アルコル様含めて、セラフィ家の皆様方は、私の素性を知っている数少ない対等な友人ですから♪ まぁ、私としても、人を殺すだけの土地なんて、あまり歓迎できませんからねぇ」


”人を殺すだけの土地”。その一言で、この領地の過酷さが分かるな……。もしかして、『節制』というのは、そういうことなのだろうか。


「そういえば、『節制』の体現者ってどういう称号なんだ?」


何というか、あまり聞いたことがないような気がする。


「青月教における、『七つの美徳』の一つです。人がするべき七つの善行、もしくは善い生き方、でしょうか」


七つ、七つでその並びだと、よく漫画なんかに出てくる『七つの大罪』を思い出すな。何か関係あるんだろうか? いや、そもそも別宗教の概念だし、関係ないか。


「そこらへんも勉強していかねばならんのう……」


確かに、聖王国にいる間、少しでも俺たちの存在がバレるような違和感は持たせないようにしなくちゃいけないな。


「出立はいつになるかな?」


ヴァティさんが聞いていくれる。確かにいつになるだろうか。


「明日にしようと思います。お二人も体調は大丈夫そうですし。猶予も大きく余裕があるわけではございませんので……まぁ、聖王国の横断は、思ったより簡単だと思いますよ。何もなければですが♪」


マゼランも、絶対何かあるとは思ってるんだろうな……。まぁ、そういうことなら、気を引き締めていこう。今日はしっかり休まねば。



「――獣王国までの行程ですが……恐らく、”亜人街”を通ることになるかと」


私は、獣王国ファクタムまでの道を説明する。このダンジョン街から、ファクタムまで行く道のりは二つ。北から進む、聖王国のルート。これに関しては、私やハイカさんの存在が目立ちやすいこと、そして、同行してくれる赤月の眷属お二人的にもまずいので除外。


それに、道のり的にも少し遠回り気味になるし、何より、恐らく魔王の出現によって情勢が荒れている可能性がある。


そうなると、もう一つの南のルートだが、こちらにも問題がある。それがこの”亜人街”だった。


「”亜人街”か……確かに、色々と揉め事が起きやすい土地ではあるが……そんなに問題があるのか?」


「うーん、私も素性がバレたらひと悶着ありそうですが……通るだけなら簡単な気がしますが」


モロゾフさんとハイカさんが、あまり問題がなさそうだと感想を言う。実際、普通に通るだけならば、あまり問題がないのですが……


「問題は”私”なんですよ。”亜人街”の統治者とは、昔色々ありまして……未だに狙われてるんですよね……」


なので、基本的には、”亜人街”へは近寄らないようにしているのですが……


「うーん、”亜人街”以外を通るとなると、南ルートは一か月じゃ厳しいわねぇ。大山脈越えは一か月じゃ足りないわよぉ」


大山脈、通称”獣族最後の砦”とすら称されるその山脈は、獣の大陸最大級の山脈であり、南ルートを通るとなると、この山脈を越えるか、その山脈の間にある平地に作られた”亜人街”を通るしかない。一応、もう一つ、海を渡るルートもあるが、今の時期は使えない。


「つっても、すぐに抜ければどうにかなるんじゃないか?」


「そうですね。正直、何もないことを願って進むしかないでしょう」


「くそっ、こんなこったら”黒面”もってくりゃ良かった」


そうこぼすモロゾフさん。黒面とは何かわからないが、素性隠しの魔道具でしょうか?


「何より、街中っていうのが厄介ねぇ。私の魔獣ちゃんたちが出せないわぁ」


アグルスさんは、『調教師』の称号通りの、魔獣使いである。この話は、私も聞いたことがあった。何せ、現存する唯一の”調教師”の職業を持つ人間……いえ、魔人であるのだから。


ですが、魔尾の種族だと聞いて納得した。魔獣使いと言えど、全ての魔獣を使役できるわけではなく、あくまで調教した魔獣しか扱えないが、そうなると、街中に魔獣を連れ込むことになってしまう。それをどう解決しているんだろうかと、ずっと疑問に思っていたが。


魔尾の種族なら、”空間”の魔法が使える。エフィさんもできるだろうが、異空間を作って、そこに魔獣を閉じ込めているのだろう。恐らく、わきに抱えている、鳥かごがそれのようだし。


「とにかく、亜人街さえ、越えられれば、後は”試練の地”さえ、越えられれば獣王国にたどり着けます」


獣王国を囲む自然、通称、”試練の地”。そこを越えられるかどうかという問題もあるが、


「”試練の地”か……ま、この面子なら問題ないだろ」


ハイカさんとアグルスさん。二人のSSランク冒険者がいるのなら、越えられないことはない。


「出立は、明日。準備は私ができるだけ整えましょう」


「はい! 私も全力でお手伝いします!」


アイカさんが名乗りを上げてくれる。彼女はついてこれない。だからこそ、張り切っているのだろう。イズミさん達にも、会えていないのに、強い子だ。


「あ、最後に一つ、ヒビキとマゼランと知り合いなのか……?」


やはり、彼女は伝えていませんでしたね……。まぁ、商人という立場に竜人という身分は邪魔でしょうし、致し方ないですが。


はぁ、それでも彼女の奔放さには辟易しますね。まぁみんなそんな感じなのでいいんですが。私も他の竜人のこと言えませんし。


「マゼランは私と同じ竜人ですよ」


そう言うと、マゼランのことを知っている人たちは、全員様々な反応を見せた。何というか、愉快な光景だったな。私だけが思わず気を抜いてしまう。


とはいえ、とりあえず、今日は皆さんに休んでもらわねば、できるだけ最速で、抜けなければいけない。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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