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状況は動きすぎる。

どうも、作者です。百七話です。

神災魔獣(ディザスタービースト)”は、一分足らずで、沈黙した。これが、魔王の力、いえ、”空間”の王の力ですか。流石は、王の中でも最強格といわれるだけはありますね……。


「どうにかなった……とは言い難いですね」


ハイカさんはそうこぼす。その通りだ。とにかく、直近の危機は去った。しかし、それは他の問題にすり替えて先送りにしたに過ぎない。


「あ、え、えとヒビキさん、聞こえますか」


すると、どこからともなくエフィさんの声が聞こえてくる。恐らく、空間をつなげて声だけ通しているのだろう。


「はい、聞こえます……単刀直入に聞きます。猶予は?」


「一か月くらいなら、籠れます」


籠るとは、恐らく、権能を利用した絶対防御状態のことだろう。つまり、猶予は一か月。その間に、この問題を解決する必要がありますね。


とにかく、今は、ギルドマスターをダンジョン街に運んで事情を色々と聞きましょう。解決策はその後に――


「――あらあら、これは一体どういうことかしらぁ? 急いで来たのにねぇ」


「お前の助力、必要なかったな」


見知らぬ二人組が、森の奥から現れた。低身長のローブを着た女性と、それよりももっと身長が低い、幼い少年の二人組だった。


「――あなたは、”アグルス”!?」


「あら、その声、レイドちゃん? なら、あなた達が”黄金羅針”ねぇ」


女性の方は、ハイカさんと知り合いのようだ。しかも、SSランク冒険者時代の。そして、どういうわけか、私たちの存在を知っているようだ。彼女たちは一体?


「そうね、自己紹介しなくちゃねぇ。私はアグルス、SSランク冒険者が一人、『調教師』アグルスよ。よろしくねぇ」


「……俺もやるのか、俺はモロゾフ。今はそれでいい。てめぇらが”黄金羅針”で間違いないんだな?」


「お、おう間違いないぜ」


アメイが困惑しながらも答えてくれる。どうして、私たちの名前を知っているのだろうか? 私たちのパーティは結束して日が浅い。世間になど、知れ渡っているはずがない。


「三人、四人か? 少ねぇのは気になるが、まぁ、どっちでもいいや。単刀直入に言わせてもらうぜ。俺たちは、”赤月の女神の眷属”。そっちにいるはずの、泉とクランの同類ってやつだ」


これは、思ったより状況が複雑になりそうだった――。



――俺は、気絶する瞬間。何かを感じた気がする。それは、絶対的な何か。圧倒的な力をどこからか、感じた。それは何だっただろうか? そんな意識の中、俺は見知らぬ小屋で目が覚めた。


「――それで、ここはどこなんだ?」


「ここは、領地の城ですよ。立派ですよね♪」


立派というか、普通の家にしか見えないが。あとあまり答えになっていない。


「冗談……ではなく、ここは領主の家で間違いありませんよ♪個々の領主とはよく取引をしておりまして、そのおかげでこうして泊めていただいております」


「それに関しては、わしも保証しよう。お前をここまで運ぶ時に会ったからのう」


なるほど。本当に領主の家で合っているのか。


「じゃが、本当のところ、ここは何処じゃ? あの領主が人間ということは、獣の大陸、要はダンジョン街と同じ大陸ではありそうじゃが」


同じ大陸なら、そう時間がかからなさそうで安心した。とはいえ、雪山という土地は中々過酷そうだが。


「やはりそこが気になりますよねぇ。では、流石に話しますか。ここは、”聖王国アウラス”の『節制』領です」


……聖王国、というのは確か。ダンジョン街がある、レディポートを属国にしている国の名前であり、人間の国としては最大級の国であり……


「わしら魔族を目の敵にしておる青月教会の本拠地かつ、アイカを襲った集団の総本山という訳じゃ」


「これ、俺たち相当まずいんじゃ……」


俺は青月教の主神と敵対する赤月の女神の眷属。そして、クランは魔族であり、何だったらそのお姫様だ。普通にまずいだろう。


「そうですね。この土地を横断するのはまずいと言えばまずいですが……ま、”ここ”は大丈夫です」


「なんで大丈夫なんだ?」


「ちょっと特殊な土地なので、そこは領主様が帰ってきたらお話しましょう♪」


まぁ、俺達よりこの土地に詳しいこいつが言うなら、とりあえずは信用していいだろう。聞きたいことはまだまだある。


「はぁ、わかった。なら、もう一つ聞こう。地上で何が起こった? お主のことも聞きたいがそっちが先じゃ」


「ええ、まぁそこですよね。じゃないと、彼の”魔王”の件が説明できませんし」


魔王……? 魔王というのは、いや、一人しか考えられない。エフィのことだ。どういうことだ?


(エフィが使ったんじゃ。魔王の力をの)


(どういうことだ!?)


魔王の力は確か、使ったらバレるという話だったはずだ!? それを使ったって……というか、なんでわかるんだ?


(お主も寝てる時に感じなかったか? あのすさまじい力の奔流を。あれは、間違いなくエフィが”力”を解放したからじゃ)


確かに、感じた。あれは、エフィの力だったのか。だとすると、


(間違いなく、この聖王国の上層部や、それ以外の獣の大陸の統治者たちはエフィの存在に気づいておる。このままいけば、間違いなく、戦争になる)


戦争、それも、魔族と獣族の戦争になりかねないか。当たり前だ、一人で一国どころか、大陸の半分くらいは消し飛ばしかねない魔王が唐突に現れたのだから。だから、それを解放した要因を知る必要がある、か。


「さて、地上で何があったか、ですが、単刀直入に言えば、”神災魔獣”が唐突に出現したからです」


「”神災魔獣”じゃと!?」


クランがすごい驚いて一瞬放心している。なんだその魔獣は?


「泉様に説明いたしますと、要は”厄災”です、国家を滅ぼす”厄災”、それこそ人類すら滅ぼしかねないほどの」


国を滅ぼしかねない厄災、正直、口だけで言われても実感がわかないが……そんなものがダンジョン街近辺に、唐突に? そんなことがあり得るのか?


「しかも、成体。これは、ギルドマスター様一人では対処しきれないという結果が”見えた”ので、ハイカさんがいるらしいあのダンジョンに飛び込んだのですが……結果的に、魔王という、”最善”かつ、”最悪”の対処法だったようですが」


最善かつ最悪。まさしくその通りだ。最強の魔獣を倒すうえで、”魔王”は最善だが、その後のことを考えれば最悪だろう。もはや国際問題である。


「……なるほどのう。そういうことか……なら最後に一つ、お主は、何者じゃ」


クランは、その答えに納得したうえで、警戒心を一切隠すことなく聞く。やはり問題になるのはそこだった。


「どうして、わしらの正体を知っておった? そして、どうやって、わしらの元へたどり着き、そして、あのダンジョンの歪みがここにつくと知っておった?」


マゼランの動きは、全てが不可解だった。俺たちの正体を知っていたこと、俺たちがあのダンジョンにいたと知っていたこと、そして、ダンジョンの歪みという不確定要素すら知っていたような、脱出方法、まるで、全ての答えを知っていたかのようだった。


「やはり、そう言う話になりますね。仕方ありませんねぇ、私の正体、明かしておきましょうか♪ 特別サービスですよ、私の正体を知るなんて♪」


マゼランはこの状況においても、特に態度は変えない、いつも通りのマゼランであった。別に、正体なんて最初から隠していないような。


「そう、私はただのアイドル商人ではございません! その正体は、お二人がよくご存じの彼女、今はヒビキと名乗っている、彼女と同じ! ”竜人”マゼラン! 改めて、よろしくお願いしますね?」


……竜人、だと? こいつが……?


「おや、お二人とも、納得できないという顔ですねぇ? 本当なんですが、ほら、この通り、角もありますよ」


そう言うと、彼女の頭から角が現れる。ヒビキさんのものとは少し違うが、しかし似たようなねじれた角が。


「それに、これで私の力の正体、クランさんならお気づきになられたのは?」


「……エフィと同じ”力”、いや”権能”か!」


……”権能”。それが、エフィの力の正体にして、マゼランも持っている力か。


「厳密には、それをスキルのレベルまで落とした『廉価版』ですがね。私の”権能”の一つ、『正義、あるいは公平』をスキルにした、『正義の天秤』というスキルです。効果は単純、善行を積むことで、それに応じて、いつでも私のしたいことに対する”最善”を知れるスキルです」


”最善”を知れるスキル。なるほど、それなら、俺たちの位置を割り出したのも、あのダンジョンの歪みに飛び込むのが正解だとわかったのも理解できる。だが、あまりに無法な力だろう、それは。


「じゃが、それじゃとわしらの正体が分かったのはなぜじゃ!?」


「そっちは、私が単純に持っている『鑑定』のスキルです。泉様に説明すると、この世界の万物の効果を知れるスキルですね。もちろん、人のステータスも含めて、ですよ♪」


人のステータスも問答無用で覗き見る!? それって、なんていうチートなんだ? この世界で生きていたら分かるが、ステータスは、個人情報だ。俺の世界で言えば、戸籍だとか、住民票、電話番号なんかを無断で盗む行為に近い。それを、問答無用で……!?


「まぁ、そういうことにしておいてください! これ以上は、聞かない方が身のためですよ」


こいつ、まだ何か隠してるのか……? いや、いつもの調子と変わらないから、多分茶化してるだけだな。


「さて、私のことはそんなところです」


そんなところ、じゃないが。普通にすさまじい情報だが!? というか、エフィも同じような力を持っているのか……待てよ、まさかと思うが……。


「まぁまぁ、とにかく、今は、お二人のパーティメンバーの状況について」


マゼランがそう言う途中、扉が開く。誰かが、家の中に入ってくる。


「――おや、起きたようですね。大事がないようで何よりです」


「本当だ! お姉さん心配したんだからね! 怪我がなくて良かった良かった!」


雪山の装備にしては軽装の男性と、はつらつそうな女性だった。


「おっと、泉様にご紹介しますね♪ この土地の領主と、うーん、まぁいいですか。元勇者パーティの一人です」


何というか、情報量が多くてパンクしそうだった。

読んでいただき、ありがとうございます。誤字脱字報告・コメントお気軽にどうぞ。

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