”空間”の王
どうも、作者です。百六話です。
四章『■■の王』編、開幕です。え? 最初から答え見えてるって? そこは、まぁいいじゃないですか。
「――一か月後お会いしましょう。後のことはお任せします」
一瞬の交差。私の横をすり抜けていく。何故あなたが、そう言う頃には、彼女は泉さん達と共に、崩落しくした岩に巻き込まれていた。
「い、イズミ君!」
「ちっ! どうにか!」
アメイさんとエフィさんは、二人に気を取られて彼女の存在に気づいていない。ハイカさんは気づいたようで、私の判断を待っている。正直、私も焦りと不安が強かったが、彼女のせいで冷静さを取り戻した。
一か月後……そういうことですか。恐らく彼女が向かったのは最下層の歪みですね。彼女ならその”最善”を知れる。なら、問題はないでしょう。
「皆さん、今は私たちの脱出を優先します!」
「なっ! クランたちは!?」
「あっちは、彼女に任せます」
二人は気づいていないので、何のことかわかっていないようですが、今は言う時間もない。
「二人とも、今はヒビキさんの指示に従いなさい」
ハイカさんがフォローをしてくれる。彼女の出すオーラに押されて、少しだけ冷静さを取り戻したようだ。とにかく、今は脱出を優先する。
私たちは走り出す。イズミさんとクランさんは、もうマゼランに任せるしかない。
「これ、本当に間に合うか!? 特に一層!」
アメイはその懸念をこぼす。確かに、ダンジョン崩落まで、もう一、二時間といったところ。一層の迷路構造も、壁が動くギミックが止まっているとはいえ、迷路の構造自体は変化しているだろう。
それでも、数時間かければ簡単に突破できる。しかし、今はその数時間が惜しい。だが、
「問題ありません。恐らく一層はすぐに突破できます」
「?」
アメイさんは何を言っているかわからないという感じだが、行けばすぐ分かる。
二、三層の残りを三十分で攻略して、ついに一層への階段にたどり着く。そして、思った通りの光景がそこに広がっていた。
「! この白線……まさか」
「なるほど、”アリアドネの糸”ですか! マゼランさんが残したものですね」
アリアドネの糸、というのは聞いたことはないが、多分異世界の用語でしょう。そして、恐らくその通りで、マゼランがダンジョンに入った際に、自分が通った道を残しておいてくれたのでしょう。
その白線を辿って私たちは一層の迷路を突き進む。答えが分かっている迷路ほど迷いなく進める迷路はない。振動を利用した探査も試したが、間違いなく出入り口に繋がっている。これなら、一時間もあればここを出られる。
「で、出口です!」
「? とにかく、皆さんすぐに階段へ!」
何だろうか、嫌な予感がする。ダンジョンから出られるはずなのに、圧迫されたような雰囲気から抜け出せる感じがない。
――”後のことはお任せします”。それは、マゼランの言葉だった。”後のこと”とは一体なんだ? いや、そもそも、なぜ彼女はダンジョンの中までやってきた? ダンジョンの異変が、地上と何か関係があるのではないか?
その懸念は、ダンジョンに出てすぐ思い知らせることになる。一番最初におかしかったのは、ダンジョンを出てすぐのところで、疲れを癒すでもなく、呆然と立ちつくしていたアメイさんだった。
「……は?」
「どうしたんです――」
強烈な衝撃音が、私たちの横で響く。その衝撃音の位置、そこには大きなクレーターができていた。その中心、そこにいたのは、フル武装がボロボロになっている”ギルドマスター”だった。
……ボロボロの彼は、今にも死にそうだった。ダンジョン街最強戦力であり、この世界でも、指折りの実力者が、だ。一体何が起こっている?
彼は吹っ飛ばされてここに来たのだ。なら、その前、彼は一体何と戦っていたか、それは、すぐに理解する。何せ、ずっと見えていたのだから。
後ろから来ていたハイカさんとエフィさんも、いつの間にか地上に出て、同じように立ち尽くす。ボロボロになったギルドマスターと――数十メートルはある、巨大な熊の姿を目にして。
「あれは……”神災魔獣”?」
”神災魔獣”。それは、厄災そのもの。出現すれば、最低でも国一つを滅ぼすとさえ言われる、間違いなく、最強の獣。なぜ、そんな魔獣が、しかも成体が出現している!?
「……アメイさん! 今はとにかく、ギルドマスターの回復を! ハイカさんが作ったものを使ってください!」
「……お、おう!」
運が言うべきか、それとも悪いのか。神災魔獣はこちらを見ていない。なら、今ならギルドマスターを回復できる。しかし、それでも、すぐに復帰はできないでしょう。
何より魔獣が見ている方が方角は――ダンジョン街”シゲン”。考える、考える。しかし、この状況を打開できる方法が思い浮かばない。
あの魔獣は、恐らくギルドマスターに切り落とされたであろう腕と足を再生している最中。だが、それが終わってしまえば、ダンジョン街に突っ込み、中にいる住人たちは、ほぼ確実に死ぬことになる。
私が”力”を開放すれば……駄目だ。それでは足りない。私の力は戦闘向きじゃない。ハイカさんに全盛期の力があれば……それであれば、どうにかできたかもしれない。しかし、それはもう、できない。
「……駄目です……どうしようも、ない」
ハイカさんの声が聞こえる。ハイカさんもきっとどうにかできないかと考えたのだろう。しかし、例え、ダンジョン街の総戦力を使ったとしても、足止めにしかならない。つまり、街の住民を逃せたとしても、冒険者の全滅は確定している。
それでは、意味がない。この状況を打開する方法は……一つだけ、”ある”。しかし、それは……
「――ヒビキさん。すみません。特大の迷惑、かけてもいいでしょうか?」
その言葉を発したのは、エフィさんだった。私の目をまっすぐと見ている。きっと、ダンジョン前ではしてくれなかった、覚悟を決めた目。
成長したとは感じていたけれど、こんな目をするんですね。貴方は……。彼がそう言ってくれた。共に戦った戦友が、そう言ったのなら、竜人としてではなく、一人の友として応えましょう。
「はい、エフィさん。私が何とかします。だから、やってください……存分に!」
「はい、お願いします!」
彼が、”頼って”くれたのなら、”黄金羅針”の司令塔として、後始末はしましょう……!
――彼は前に進む。あの”厄災”に向かって。しかし、一度、立ち止まる。
「アメイさん……いや、アメイ君」
「あ? ど、どうした?」
ギルドマスターの治療をしていたアメイさんに彼は話しかける。とてもやさしい笑顔で、胸に当てて。
「僕、見つけました。自分の”答え”を……。だから、先に進みます」
「……ああ、わかった。でも、すぐに追いついてやるよ」
「……はい!」
彼は進む。憑き物が落ちたような顔で、”神災魔獣”に向かって……”空間”の王は、その姿を現した……!
――皆に、助けてもらった。たくさん……。このダンジョン街に来てから一か月ちょっと。たったそれだけ、でも、ここはもう、僕の居場所の一つだ。天秤にかける、必要もない。
『我は、王が一人。魔族が一柱、魔尾の、王。今ここに、赤月の女神に誓おう。この力を誰かのために振るうと。”空間”の権能宿すものとして……!』
『――我が名は、エフィ・ルベロス・エリアズヴェール。魔尾の頂点者である』
力を”開放”する。その意味は、大きい。この場所でしてしまえば、その余波は、この大地を駆け巡るだろう。魔王の降臨は、多大な影響を及ぼすだろう。それでも、救うと決めた。ダンジョン街の皆さんを、そして、頼ると決めた。”黄金羅針”の皆を……!
『我は魔王! 世界の行く末を決める、一柱である!』
さぁ、あまりに唐突に現れた”厄災”よ……僕の手で、滅ぼそう。
魔王の力を開放したせいか、クマの姿をした”神災魔獣”は、こちらへと向かって突進してくる。
『我が声に応えて顕現せよ、かの剣ども』
『双魔剣』
二振りの剣を、出現させ、”無限”へと落とす。剣は、同じ場所をぐるぐると”落下していく”。上から、下へ、そして、下から上へ。だが、少し、時間がない。
『空間加速』
空間の重力を上げる。剣はまるで一筋の線のようになる。あともう少し、しかし、そこで魔獣の拳がこちらを襲おうとする。
『空間断裂』
熊の手は、僕に到達する前に停止する。厳密には、空間が繋がっていないのだから到達しないだけであるが。
熊は物理攻撃では意味がないと気がついたか、魔法を使う。周りの植物を槍のように変え、こちらに飛ばしてくるが、それも意味はない。さて、今ので何となく装甲の硬さもわかった。なら、こんなものかな。
でも、小手調べから行こう。
『座標固定、繋げ。』
剣の落下位置を別の座標につなげる。厳密には、クマの肩口あたりにつなげる。剣は、落下する。魔獣の腕を引き裂きながら。
うん、大丈夫そうだ。でも、首を切るなら、もう少し落下エネルギーを増やそうか。魔獣は唐突に切られた腕に困惑して、逃げ出そうとしている。させるわけがないだろ。
『空間固定』
僕は魔獣の周りの空間を固定する。見えない檻に、魔獣は抜け出そうとして攻撃をしているが、その程度では、逃れはしない。
そろそろ、終わらせようか。
『座標複数固定、繋げ』
魔獣の両足、片腕、そして、首。そこの空間同士をつなぎ、剣の落下軌道を合わせる。あとは、落とすだけでいい。
それでも、動き出そうとするので、僕は肉を少しずつ細切れにしていく。そうして、肉の塊とは言えないほどになってやっと、沈黙した。
「これで、終わり」
”神災魔獣”は、沈黙した。”厄災”は、終わらせた。
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