予想外
どうも、作者です。百四話です。
――”黄金羅針”の皆がダンジョンに出発して四日。早ければ今日にもダンジョン攻略を終えて帰還するかもしれない。私は、皆が帰ってきた時、どんな風に労おうかと、書類仕事を片付けながら考えていた。
「アイカ、そろそろ休憩しな」
そう言って、ギルマスが声をかけてくる。私の誘拐の余波の激務から解放されたおかげか、随分とマシな顔になっている。
「はーい! お姉ちゃんたち、そろそろ帰ってくるかなぁ」
「ま、ハイカもいるし、正直そろそろ攻略していてもおかしくない」
やっぱりそうだよね。ならダンジョン攻略記念パーティ、そろそろ準備しなきゃ。あ、そうだ。
「ギルマス。これ、報告書」
「ああ、ありがとう……やっぱり、魔獣の移動が活発になってるな……本当に偶然か?」
ギルマスは、何かを考えこんでいる。報告書の中身は、最近、長引いている本来の生息地から魔獣たちが移動しているという報告書。
移動に関しては、南から北側に向かって移動している、ということが分かったくらい。
「聖王国からの妨害、ダンジョン暴走、魔獣の移動、いくらなんでも重なりすぎている気もするな。いや、過去にも似たようなことはあったが……」
確かに、約三年前にも似たような事象は起きてた。しかし、その時は特に何にもなかった。だからギルマスは悩んでいるみたいだ。
でも、今回は、泉さん達の件もあるし……少し怖いだろうか。
「流石に、南側の調査を増やすべきだな……もう、四回行っているが」
魔獣の移動以外にも、南側で行われるクエストでの……冒険者死亡数が他方角より多いという異変もあったため、調査自体はしていたのだ。
しかし、調査の結果は、特に変わったところはないという結果しか出ていない。だから、違和感ぐらいしかなかったのだが。
「流石に、次は僕が行こうかな」
「でも、激務から解放されたばかりなのに大丈夫?」
「それが、ギルマスの仕事だからね」
うーん、お父さんのパーティメンバーはみんなワーカーホリックってやつだ。お父さんが絶対なりたくないって言ってたやつ。でも、そうなっちゃったのは、お父さんが亡くなったせいだろうな……。
でも、スティスさんとヴァティさんはあまり変わってない気はするけど……。とりあえず、お姉ちゃんたちを労わるときはギルマスにも参加してもらおう。一緒に疲れを癒すのだ。
「とりあえず、今日もちゃんとご飯を食べよう!」
「そうだね。じゃなきゃ、君のお父さんに怒られる。”食事は笑顔の源だぞ”ってね」
「そうだね!」
そう笑いあいながら、私達がギルド会館から出た瞬間だった――突然の振動が町を襲ったのは。それは、最悪の予兆だった。
「――どういうこった!? なんでもう、ダンジョンが崩壊し始めてる!?」
突然の振動と共に、ダンジョンが軋む音がそこら中から聞こえてくる。それはダンジョンが崩れる前兆に違いなかった。
「……今はとにかく脱出を! 崩れるまでの猶予はまだあるはずです!」
俺たちはそれに対して、うなずくことすらなく、上へ向かう階段に向かう。
「クラン、抱えていいか!」
「ええい! 仕方ない!」
「じゃあ、エフィ、背中に乗れ!」
「は、はい!」
足が遅い二人を俺は抱える。やっぱり二人は流石に重いな。だが、今はそんなことを言っている暇はない。
俺たちは四層についてすぐ、休憩する暇もなく、三層に向かう階段に向かう。四層は一本道だ。それに、道中に魔獣の姿も見えない。急ぐしかない!
「泉さん、揺れで落ちないようにしてください!」
俺たちは、細い道を、一番前から、アメイ、ヒビキさん、ハイカさん、そして俺たちの順番で、進んでいく。
しかし、ハイカさんが言ったように、今のところ大きな崩落は見えないが、定期的に大きな振動が襲っている。
正直、この振動は四層では相当に怖い。一瞬でバランスを崩して下に落ちかねない。流石にそうなったら大変である。
(それにしても、ダンジョンの崩壊でこんなに強い振動が起こるのか……?)
俺に脇に抱えられているクランはそんなことを考えていた。正直、俺はダンジョンに関してはあまり詳しくないため分からない。
だが、クランの言いたいことは何となくわかる気がする。何というか、ダンジョンが苦しんでいるような、無理やり崩壊させられているような印象を受ける。
だが、観察している暇はない。わずか数分程度で、三層への階段にたどり着く。しかし、本番はここからだった。
俺たちは、そのままの陣形で三層にたどり着く。正直、どう足掻いたってここから地上まで、数時間はかかるだろう。ダンジョンが保ってくれるのを祈るしかない。
「アメイ、道は!?」
「覚えてる、俺が先導する!」
数秒の小休止。前の二人はそれだけを確認して、すぐに移動を再開した。
「泉さん、体力は大丈夫ですね?」
ハイカさんが確認してくれる。俺は、喋るだけでも移動に支障が出そうなので、うなずきだけを返して、それを見たハイカさんもまだ大丈夫だと判断してくれた。
「すみません……また運んでもらって」
「仕方なかろうて、わしらの足が遅いのはどうにもならん」
俺の代わりに、クランがエフィに対して返事してくれる。その通りだ。この場では、エフィが自分で進んでもらうよりも、俺が運んだ方が速いというだけのことだ。
俺たちは何度も階段を上がり下がりしながら、一階層への階段を目指す。しかし、定期的に大きな振動がダンジョンを襲っては、壁が軋んだり、ひびが入ったりしている。
恐らく、移動を始めてから一時間、ほとんどノンストップだ。息が乱れそうになったのを、ハイカさんが察知し、一分程度の小休止を入れてくれた。おかげさまで随分と楽になったが、今はそれもロスなのではないかと、不安に感じる。
それから、また三十分。どこまで来たか分からないが、もう半分は越えたはずだ。だが、振動の頻度は増している気がする。
「問題は一層だが……!」
「私が何とかします!」
また、三層への階段に入ったとき、何となく既視感を覚えた時だった。前の二人が、一層のことを視野に入れ始める。つまり、もうすぐ階段にたどり着けるんじゃないか。そう思って、足を速めようとした瞬間だった――さっきまでよりも、強い振動が俺たちを襲った。
(泉! 上じゃ!)
クランの言う通り、上を見る。しかし、もう遅い。岩はすでに落ち始めていた。だめだ……! 間に合わない!
(エフィじゃ!)
分かってる……!
「え?」
俺は、肩にいたエフィの身体を掴む。そのまま、腕を全力で振り上げ、アメイめがけてぶんなげる!
「アメイ、エフィを頼む!」
「は!?」
「なっ!? 貴方は!?」
「泉さん!」
「イズミ君!?」
俺はクランを抱えたまま、どうにか岩を避ける。しかし、完全に岩は、俺達を。他の皆と完全に分断した。
「さて、どうするかのう……」
「とりあえず、迂回路を探すしか……!」
「いえいえ、先導は私にお任せください♪ あ、バックパックは無事ですね」
俺とクランは絶望に染まりそうになるなか。俺たちは唐突に聞こえてきた、その声の方に、振り向く。その姿は、久しぶりのその姿に、固まるしかなかった。
「みんなのアイドル商人、マゼランちゃん! 皆さんのピンチに久しく参上です! お久しぶりですね? 泉様、クラン様♪」
何故ここにいるかとか、確かに久しぶりとか、ここでもそんな挨拶するのかとか、思考が全くまとまらないが、とにかく、予想外の人物が、そこにいた。
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