報酬、予兆
どうも、作者です。百三話です。
俺は抱きかかえていたクランを下ろす。その瞬間、クランは全力疾走する。別に十メートルぐらいだからそこまで走る必要ないだろ。
「うおおおおおお! 報酬じゃあああああ!」
クランがはしゃいでいる。まぁ、俺たちはなんやかんや報酬が目の前にあるのを見たことないしな。それにしても、攻略報酬ってこんな感じで出るんだな。
倒したボスの下に、宝箱が現れている。あれが攻略報酬なんだろう。出た瞬間に壊れるみたいなこともなさそうで安心した。
「アメイ! 開けて良いか!」
「ああ、報酬には罠ねぇから問題ないぜ」
それを聞いた瞬間子供のように宝箱を開ける。
「ふおおおおお! これは……本と紙束? あとは、指輪が二つじゃのう」
宝箱の中身は金銀財宝が入っているわけではなかった。代わりに入っていたのは、クランが言ったようなものだけだった。何というか、一見した時のがっかり感はあるが、多分俺が使ってる籠手と、クランが身につけているコンパスも似た感じだったんだろうか。
「この本、もしかして……」
「私も初めて見ました」
ダンジョン攻略熟練のヒビキさんとハイカさんが、本を手に取って、何か驚いている。
「開けないのか?」
俺は表紙ばかり見ているのが不思議で、何となくそんなことを聞く。
「開けるとまずいので」
「あ……もしかして、”スキル本”ですか?」
「恐らくは」
エフィが何かに気づいたらしい。というか、”スキル本”って名前で俺も察しがついた。つまるところ、
「これを読めばスキルが手に入るのか」
「しかも、基本固有のものですよ」
「なんだそれ! チートじゃねぇか!」
アメイが叫ぶ。実際、この世界のスキルは色々あるが、固有スキルというものはかなり貴重なものだ。俺の『機動要塞』や、クランの『治癒庭園』なんかは最たる例だ。
こういったスキルは、手に入るかは基本的に分からず、ほとんどの人間は手に入れられない代物らしい。異世界人は大抵持っているらしく、そういう意味でも貴重な人材らしい。
「問題は、中身がどんなものかわからないことですね」
「場合によっちゃ、デメリットになりうるのう」
だが、すさまじいものであるのは変わりない。それに、地上に戻れば『鑑定』するタイプの魔法かスキルで中身もわかるだろうし、いいものを手に入れただろう。
「あとは、この紙束と指輪か」
「この紙は、”魔法紙”ですね、えーと十二枚ですか、いい数ですね」
ハイカさんが言う。”魔法紙”というのは何だろう。そう思うと、早速クランが指をひっかいて地で何かを書いている。
しかも、数枚に一気に。こいつ、消耗品であろうものを早速使ってやがる。
「ほい、三枚分完成じゃ!」
「勝手に何やってんだバカ」
そう言ってクランの頭にチョップをくらわすと、不服そうにこっちを見る。
「別に悪いものを書いているわけじゃない『絶対治癒』の詠唱を書き込んだだけじゃ!」
『絶対治癒』、Lv.50に到達したヒーラーが使える単体治癒呪文としては最高級の回復魔法だったか。致命傷なら治せるという。しかし、クランの場合、通常の『治癒』でもかなりの回復力を誇るため、滅多なことでは使わない魔法だ。
「”魔法紙”は、その魔法が使える術者が自分の血で詠唱を書き込むことで、少し魔力を流すだけでその魔法が使える代物です。そういう意味でも、『絶対治癒』を書き込んでおくのは有用ですね」
確かに、回復魔法を使えるのはクランだけだから、緊急時に使う魔法としては破格か。だからって、何も相談せずに書くのは違うだろうが。
「次からは言ってから書け」
「ケチな奴じゃのう……次からはそうしよう」
それでいい。さて、後はこの二つの指輪か。それぞれの指輪には、赤い宝石と、青い宝石が埋め込まれている。これは……巨大マドハンドを思い出す配色だな。
「恐らく魔具じゃな。アメイ、いっちょ魔力を流し込んでくれ」
「なんで俺……あぁ、魔法使ってないの俺だけか。了解」
そう言って、赤い宝石を埋め込まれ指輪を、右の薬指に嵌め、魔力を流すアメイ。その瞬間、指輪から、炎が現れる。
炎の大きさは強くなったり弱くなったりしている。アメイが魔力の流し方を調節しているんだろう。
「まぁ、予想通りだな」
正直、全員何となく効果が分かっていた。何せあのマドハンドから出た指輪だしな。ラヴァハンドから名前を取って、ラヴァリングと名付けよう。溶岩というには火力は低めだが。この感じだと、もう一つはアイスリングだな。
「火力はそこそこ出ますし、かなり有用そうですね……どうします? これらの報酬は?」
ヒビキさんが言っているのは、分配、もしくは売却するかどうかの話だな。スキル本は、効果が分かるまでは何とも言えないが。
「指輪は詠唱が必要ない以上、護身用にちょうど良さそうじゃないか?」
「そうですね。こういう装備品は、売るより使った方が価値が高いです」
ハイカさんがそう言ってくれると、自分の考えが間違っていないのが分かっていい。そういうことなら、指輪は……。
「まぁ、アメイとエフィに一つずつじゃな」
「え、僕ですか?」
エフィは自分が名指しされて驚く。だが、正直俺達的には満場一致だった。
「俺もお前も近距離戦はこの中で弱い方だし、特にキャスターは詠唱前提でしか戦えないから近距離戦は特に弱いしな」
アメイの言う通りである。魔法は詠唱が必要な以上、近距離戦にはめっぽう弱い。そのため、誰かが常に守りに入るのが定石だが、それでも自分の身を守る手段は多いに越したことはない。
それに、純粋にこの中で一番指輪の力を引き出せるのはエフィである。魔力の数値がすさまじいからな。
「そ、そういうことなら」
エフィは、少し申し訳なさそうに、しかし嬉しそうに指輪を受け取る。そうだな、エフィにとっては初めて攻略したダンジョンの戦利品でもある。そういう意味でもエフィが持っていた方がいいだろう。
アメイがラヴァリングの方を持っていたので、流れでアイスリングの方はエフィが持つことになった。エフィはその指輪を身につけ、少しだけ魔力を流したようで、小さな氷が現れた。
「れ、練習すればいろいろできそうですね……!」
まぁ、エフィならすぐに使いこなすだろう。あとは魔法紙だが。
「まだ書いていないものは、三枚は使う用に常備。残りの六枚は緊急時に使ってもよし、売ってもよし、というのがちょうどいいでしょう」
「ま、それが無難だな」
「じゃ、三枚はわしが持っておこう」
まぁ、それでいいだろう。クランは植物魔法と回復魔法を使える。どちらも有用だしな。
(そういえば、今回植物魔法はあんまり使ってなかったな)
(氷と炎じゃったからのう……それに土も操ってくるとなると、相性が悪すぎるわい)
それもそうか、どれも植物魔法の天敵みたいな存在だしな。だが、そう考えると、有用ではあるが、かなり弱点が多い魔法でもあるか。
「なら、後は帰還するだけだな。こんなにゆっくりしてていいのか?」
「ダンジョンは攻略されても残存魔力で三日ほどは残りますし、帰りは魔獣がいませんから。ゆっくり帰って大丈夫ですよ」
それなら、安心だな。四層からはほとんど連戦だったし、しっかり体を休めながら――とてつもない、振動が俺たちを襲う。これは……!?
「な!? そんなはずは……!?」
「どういうこった!? なんでもう――ダンジョンが崩壊し始めてる!?」
――それは、最悪の予兆。俺たちに、立ち止まる余裕は消え去った。
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