悠久忘れぬ”冒険”の景色
どうも、作者です。百二話です。
『――業火地獄』
僕たちを押しつぶそうとした巨大なマドハンドは中途半端な状態で静止した。その間に詠唱は完成する。冒険者職、キャスター(火)の魔術師が基本到達できる最奥の魔法。厳密にはその先があるが、ほとんどのものはそこにたどり着かない故に、ほとんどの人にとってはこの魔法が最奥といっていい。
それが故に、この魔法の威力は絶大だった。広範囲殲滅魔法、魔獣相手であれば一撃必殺に近い威力を出しながら、それを空間全体に放つ、絶対の魔法。
この空間にいる魔獣は、全て捕捉している。漏らしは、しない。僕の頭上に現れた巨大な炎の塊を、真ん中にいる巨大マドハンドめがけて放つ。
巨大なマドハンドを中心に絶大な量の炎が空間に広がる。そして、業火は、マドハンド達を焼き尽くしていく。それは、ラヴァハンドすら例外ではなく。溶岩の塊は、より強力な炎によって焼き尽くされていく。
僕は、炎をパーティの皆に当たらないように制御する。炎は冒険者相手には効果が薄いとはいえ、当たってしまえば、炎は体に張り付いて中々消火できない。だから、味方に燃え移らないように。
イメージは炎のドーム。みんながいる位置だけ、炎のない空間を作り出す。みんなの場所は、事前にヒビキさんがマークしておいてくれたおかげで大分楽だ。
巨大なマドハンドも、炎に悶えているのが分かる。体(というか巨大な腕全体)をねじっている。僕はそれすら、炎の塊で制御する。『業火地獄』の効果時間がもうすぐ切れる。その間にみんなのいない方向に腕を制御する。
残り、三、二、一。効果が切れる。
――その瞬間、炎で隠れていた巨大マドハンドの全体像が見える。その姿は、氷の部分がほとんど消えており、恐らく核であろう結晶が露出している。
「クラン、ハイカ!」
ヒビキさんの号令が二人に飛ぶ。二人ならあれを破壊できる。敵は、もう追加のマドハンドを出す余裕がない。体が削れたことで、その力のすべてを修復に当てているせいだろう。
つまり、行く手にいる敵はただ一体、あの巨大マドハンドだけ。
何より、余裕がないのが分かる。敵は、炎が相当に怖くなったのか、氷でできていた部分を全て溶岩の身体で修復している。それでは強みも半分だというのに。
「エフィ、極大魔法を使ってすぐですみませんが、三人の援護を!」
三人、巨大マドハンドの元に向かっているのは三人だけ。クランと、ハイカさんと、イズミ君。巨大マドハンドは、その三人に対して必死で溶岩を飛ばす。
僕は三人への攻撃を減らすために、単体魔法を飛ばし続ける。それでもこちらを向かない当たり、あのマドハンドはもう余裕がない。
溶岩弾も、そのほとんどをイズミさんがはじいている。左右に飛ばされる溶岩弾を、ハイカさんとクランに当たりそうな弾だけを的確に潰している。あれ、目が二つじゃ出来ないよね……あ、クランの目があるのか。あと、ヒビキさんのマーカーだ。それらを利用して、的確に潰しているのか。
とにかく、イズミ君がどんどんと距離を詰めていく。しかし、敵もその間に体を修復していく。核を覆い隠すように、どんどんと元の形に戻っていく。
完全に戻ってしまえば、また大量のマドハンド達を生み出すだろう。そうなれば、また一からやり直しになってしまう。それはあまり良くない。
でも、きっとそうはならない。だって今あのマドハンドに向かっているのは、あの三人だ。実際もう、巨大マドハンドの懐まで来ている。
それに気づいた巨大マドハンドは攻撃を溶岩弾から、巨体を生かした物理攻撃に切り替えるが、それさえイズミ君は受け止める。
そして、受け止められた巨体に向かって、ハイカさんが飛ぶ。
『精兵共、攻めろ』
『攻撃指令』
その瞬間、ヒビキさんは付与する魔法を切り替える。速さを上げるものから、攻撃を上げるものに。
『変形』
ハイカさんは持っていた剣を巨大な剣へと変形させ、切りつけるのではなく、えぐるようにその巨体に剣を当てる。イメージはスコップ。その体を掘るように剣を使って抉っていく。
ハイカさんの剣には迷いがない。核の位置が分かる以上、迷う必要がないんだろう。物の数秒で、剣は核に到達しようとした。しかし、それに気づいた巨大マドハンドは全力で抵抗しようと、体を振り上げる。
それによってハイカさんは振り落とされるが、もう遅い。僕はその露出した核に土が覆うのを、魔法をもって妨害する。そうしている間に、二人が来る。
『『交換』』
先ほどまで下にいたイズミ君の代わりにクランがその位置に現れる。そして、
『――開放』
クランが、一歩踏み出した瞬間、その足の位置に魔法陣が浮かび上がる。魔法の効果は『脱兎跳躍』。クランは核の位置まで飛び上がる。
クランの槌が、巨大マドハンドの核を捉える。それを察した巨大マドハンドは意地になったかのように核の周りの土を修復して、壁のようにしようとしたが――クランの槌相手には、意味がない。
『魔獣破砕』
魔法が付与されていた槌は、圧倒的な破砕音と共に土の壁ごと核を砕いた。その瞬間、もがいていた腕は、完全に停止し、そして崩れ出す――ああ、討伐、完了だ。
「――ああ……ふぅ。エフィさん、お疲れさまでした」
僕の前にいたヒビキさんが、振り返って手を差し伸べてくれる。僕は、いつの間にかへたり込んでいたらしい。ヒビキさんの顔には、達成感のようなものがあふれていた。それは、少し遠くに見える皆の顔にも、そして、きっと僕の顔にも。
僕たちは、成し遂げた。ダンジョン攻略を、きっともう、忘れることのない”冒険”を。
「うおおおおお! 倒したのじゃあああああ!」
イズミ君にキャッチされたクランは全力で叫んでいる。ああ、本当に倒したんだ。あの、巨大なマドハンドを、ダンジョンのボスを!
「ふふ、行きましょうか」
「……はい!」
僕とヒビキさんは、アメイさんも含めた四人の場所まで歩き出す。ああ、こんなに達成感に満ち溢れたのはいつぶりだろうか。
「イ、イズミ君」
「エフィ……やったな」
いつもと変わらない顔だけど、少しだけほおが緩んでいる。きっと全力で喜んでいるだろうな。
「はい!」
皆で、掴みとった、それが何よりうれしかった。それと同じぐらい、答えを得られたのが、うれしかった。地上に戻ったら、アメイさんに言おう。僕が見つけた”信念”を。
「とりあえず、早く報酬を見るぞ!」
「ええ、そうしましょう」
皆、倒された腕の近くに現れた報酬の元へ向かう。僕も早く確認したいな。
「いくか」
「はい、イズミ君」
――何度でも、言おう。僕はきっと、この冒険の景色を忘れない。
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