防戦一分
どうも、作者です。百一話です。
『大地は灼熱、業火に焼かれろ』
僕は詠唱を開始する。選んだ魔法は、未だ唱えたことのない、広範囲殲滅魔法。Lv.50に到達したキャスターのみが扱える、到達者の特権。
「! それは……!」
詠唱を止めることはできないから、僕は目で訴える。一分、耐えてくださいと。多分、クランが分かっているはずだ。だから、言わなくてもわかるはず。
イズミ君も意味は分かったようで、うなずいて前を見る。戦況を変えるまでの一分、僕は頼る。イズミ君たちを。
『獣どもよ、この音を聞け、衝撃の咆哮を』
イズミ君も魔法を唱える。それは、敵の目をくぎ付けにする魔法。
『魔獣挑発』
盾の咆哮が鳴り響く。先ほどまで統率されて動いていたマドハンド達は、一斉にイズミ君の方を向き始める。最初の数秒は、特に効果が強い。
それに気づいた他の皆は、一斉に動き始める。それを待っていたかのように。特に動き出しが早かったのはクランだった。クランがイズミ君に向かおうとしたアイスハンドをハンマーでつぶし、外側に向かう。
『『交換』』
そして、二人の位置は入れ替わった。イズミ君の代わりに前に現れたのは、クランだった。
「エフィ、イズミに変わって、わしが守ってやろう! 感謝せい!」
そう言いながら、僕の周りにいたマドハンドはつぶす。大仰な仕草と物言いで、いつもみたいに軽口をたたきたいけど、やっぱり詠唱は止められない。
『大地を這う竜は怒り狂い、番犬は出るものを許さない』
詠唱を続けていくほど、僕の身体と周囲に、大量の魔力が集まり、膨張していく。魔法は詠唱するだけじゃない。制御する力が必要だ。だから、普通に喋るより時間がかかる。普段なら、ここで魔獣がさらに寄り付くが、敵は、イズミ君に夢中だった。
イズミ君は、僕が作った土の槍に次から次へと飛び移っている。真ん中の巨大なマドハンドはイズミ君に向かって溶岩弾や氷弾を飛ばしている。
そうなれば、もう一人のアタッカーががら空きだった。
ハイカさんは、小さく詠唱して水の刃を生み出し、巨大マドハンドに一閃。またも小指を切り落とす。それだけで終わらず、次から次へと斬撃を放ち、氷の部分を削っていく。
「! なるほどのう!」
クランは何かに気づいたようだ。クランが見た方向を見る。それは、先ほどまで大量のアイスハンドたちがいた方向だった。しかし、アイスハンドたちは少し減っただろうか? もしかして、分け身だから……
「お主は気にせんでいいわい! 詠唱に集中せい!」
もう、言われなくてもわかってるよ! 口に出せないのがすごく惜しい……! とにかく、クランの言う通り詠唱に集中する。他の皆も、頑張っているんだから。
『そこは地獄、悪性を許さぬ地』
詠唱は進み、さらに魔力は膨張していく。そうなれば、敵もだんだん僕のことを無視してくれなくなる。それでも、詠唱は続ける。みんなを信じるしかない!
『――加速指令!』
その一言によって、クランの速度が少しだけ上昇する。といっても、元が元なので、微々たる差だが。
「お主、今失礼ないことを考えなかったか!?」
クランが振り返る。僕はそれに対して、集中して! という視線を送る。それに対して、クランも戦闘中だから仕方ないといった風に向き直る。
「仲がいいのは良いことです! しかし、一人では大変でしょう?」
先ほどの魔法を放ったのは、ヒビキさんだった。そして、ヒビキさんも、アイスハンドが減ってこちらに来れるようになったらしい。クランだけだった僕の護衛に、ヒビキさんも加わってくれる。
「ハイカ! 少し、攻撃に集中するので、回復はお願いします!」
そう言って、次から次へと敵を攻撃していく。アイスハンドは次から次へと撃破していく。このダンジョン攻略を通じて思う。ヒビキさんは、指揮官として有能なだけじゃない。戦闘能力も高い。ハイカさんほどじゃないかもしれないけど、それでもかなりの技術がある。
ずっと、憧れの人だったけど、一層冒険者としても尊敬してしまう。でも、冒険者をしていたなんて、知らなかったな。『文化紀行記』にもそんな記載はなかった。一体いつやっていたんだろう?
そんな思考が思い浮かぶのは、僕にとってはいいことだった。普段はもっと余裕がないから、魔法に集中しすぎて、周りが見えなくなる。それがないのは、今、僕がちゃんとできているはずだ。
そんなことを考えていると、ラヴァハンドの攻撃が飛んでくる。僕はそれを避ける。うん、大丈夫だ周りが見えて……あ!
「今のは誘導です。気を付けるように」
そう言いながら、ヒビキさんは腕で僕のことをかばってくれる。それをすかさずクランが回復を施す。少し怒っているようだが、僕には何も言ってこない。次からは気をつけます……!
『権限せよ、地獄の業火』
詠唱がもうすぐ完成する。しかし、それ以上に空間に膨張した魔力が、マドハンド達がどんどんと引き付けている。それをクランとヒビキさんが撃退していく。しかし、それでは処理能力が足りない。
『――魔獣挑発!』
反対方向から、盾の咆哮が聞こえる。それで大きいマドハンドと、それなりの数のマドハンド達は再びイズミ君の方に向き直る。しかし、一回目より効き目は薄い。それでも、かなり分散してくれたのはありがたい。
それに、敵を引き付けてくれてるのは、イズミ君だけじゃない。ずっと、ハイカさん近くのマドハンドを退治してくれている人がいる。そう、アメイさんだ。
アメイさんは、巨大マドハンドを攻撃し続けているハイカさんを、アメイさんはずっと一人で援護し続けている。普段は、あまり戦闘に参加しないのにダンジョンに入ってからずっと戦っている。
でも、昨日から、やっぱり雰囲気が違う。僕が、アメイさんの話で前に進めたように、きっとアメイさん自身も何かが変わったのかもしれない。
アメイさんも、本人は戦えないとは言っているけれど、立派な戦力になってくれている。僕も、頑張らなければいけない。
ちゃんとお礼を言おう。そして、何度でもアメイさんと、皆とこうして戦いたい……!
『この大地に、悪性の試練あるならば、』
詠唱がもうすぐ完成する。そうなれば、魔力は一気に空間に充満していく。敵の目は、もう僕を離してはくれない……!
魔獣は、僕に一斉に集まってくる。それを察知したハイカさん達もこちらに向かうが、大量のマドハンド達に阻まれて動けない。
「! 嘘じゃろ……!」
クランが驚いているのは、目の前の巨大マドハンドの動きだった。これは……僕たちを押しつぶそうとしている!?
こちらを捉えた巨大マドハンドは体をこちらに向け、その巨体を倒そうとしている。僕が詠唱に集中している以上、ここが一番のつぶし時、僕以外じゃ、あれは止められない。
そうきっと、敵は考えるはずだ。
「備えは、しておくものですね」
『――開放』
イズミ君が一言、そう唱える。その瞬間、四方から四つの魔法陣が現れ、そこから『魔鎖』が現れる。イズミ君がここまで一度も使わなかった、イズミ君だけの力……! 『設置』魔法!
そして、四つの鎖は巨大マドハンドを縛り上げる。それによって、数秒、巨大マドハンドは完全に静止する。
――その数秒があれば、魔法は完成できる……!
『それらを焼き尽くせ』
『業火地獄』
僕は、魔法を開放する。反撃、開始だ。
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