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【全24話・毎日18時投稿】異世界よりもヤバいとこ〜バグってはいけない警察学校〜  作者: いふや坂えみし
第四章 平成三十二年十月八日〜十日

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第二十三話 お前は俺の何を知ってるんだよ

 十月八日。この日も座学や剣道、逮捕術といった術科に加え、入校式訓練が行われる。今日と明日の訓練を終えると、次の日が入校式となる。一晩眠っても、平沢の現実感は乖離(かいり)したままだった。自分では平静を装っているつもりでも、案外、周囲には見抜かれているのかもしれない。単に気を使って誰も触れないだけかもしれないが、それを確かめる気にはなれなかった。


 昼休み、頭が重くて両手で頭をもみながら一人で階段を(のぼ)っていると、判教官が階段を下りてきた。


「平沢、大丈夫か」


 少し心配そうな顔をしている。そんなふうに話しかけられるのは意外だった。判教官も、ただ役割として学生を叱っていただけなのかもしれない。


「はい、大丈夫です」


 平沢が笑顔で答えると、判教官も「そうか」とふわりと笑った。こんな笑顔を見せる人だったのかと、改めて意外に感じた。



 十月九日。手錠を落としたりうまく笛が吹けなかったりした通常点検も、それなりに形になってきた。「学生、起立」という号令への反応も随分(ずいぶん)と揃ってきた。


 手の振りと足の踏み出しを揃える行進の訓練や、入校者の名前を呼んでいく呼名の訓練も始まり、入校式の準備も整ってきた。


 午後になると、学生全員に飾緒(しょくちょ)という、右肩から胸元にかけて垂らされる金色の飾り紐が貸与された。警察官の結婚式などで目にすることがあると言えばイメージしやすいかもしれない。入校式が終わればすぐに返却することになっている。


 続けて、飾緒を制服につけて来客の出迎えの訓練が行われた。それが終わると会場設営に移るため、学生たちはいったんジャージに着替える。講堂で入校式が行われるため、壁全体には紅白の垂れ幕と花飾りを取り付ける。また、警察の音楽隊による生演奏が行われるため、椅子も準備する。二十名ほど来る予定だという。



 十月十日。今日は土曜日だ。今は十月の第二月曜日が体育の日だが、平沢が十歳の頃までは、まさに今日が体育の日だった。この日は「晴れの特異日」として知られていて、今日も見事(みごと)に晴れている。体育の日と説明したが、今年から「スポーツの日」になったらしい。どうにも、しっくりこない。


 今朝は日朝点呼の後、ジョギングはなかった。式典前に汗をかかないための配慮だろうか。朝食を終える頃には、すでに校長を含む全教官が登庁していた。


 正面玄関ロビーが来客受付会場として設営される。会議室用の細長いテーブル三台が搬入され、それぞれの前面には「受付」「記載台」や各県名が墨で書かれたA4用紙が貼られていく。各テーブルの上には筆記用具と出席者名簿が置かれ、脇には大きな生け花が飾られた。


 やがて正面玄関に大きなトラックが到着し、各県警の音楽隊員が楽器を搬入する。彼らによって、君が代と校歌が生演奏されるとのことだった。楽器の搬入が終わると、さっそく音楽隊によるリハーサルが始まる。


 まだ姿は見えないが、地方テレビ局も各社来校し、入校式の様子を撮影するらしい。学生への取材も許可されているとのことだった。


 午前九時に開場し、午前十時から入校式が始まる。宮城県内に住んでいる家族なら、当日の朝に出発しても十分に間に合うだろう。だが、平沢の両親のように県外に住んでいる場合は、前日から県内に宿泊しているケースも多い。


 すでに入校式の案内が各学生の家族に送付され、出欠の確認も済んでいる。警察学校の中に足を踏み入れる機会は、警察関係者でなければ一生に一度あるかないかだ。多くの学生の家族は、この機会に学校を訪れる。



 午前九時。入校式受付が始まった。二十二期生の学生たちは正面玄関に整列し、家族の到着を待つ。通常、室内では制帽を着用しないが、今は全員が制帽をかぶっている。入校式における特別対応だ。


 玄関から、保育園児くらいの男の子と手を繋いだ母親、その両親がやってきた。家族が受付をしていると、子ども自慢の仁平が前へ進み出る。受付を終えた家族の前で、仁平が敬礼した。


「おとうしゃん、かっこいい〜」


 男の子が仁平に駆け寄り、膝に抱きついてぴょんぴょん跳ねる。その様子に、平沢はほっこりした気持ちになった。たしかに、これでは自慢したくなるのも無理はない。仁平は男の子を抱き上げ、家族とともに食堂へ向かった。食堂は、入校式が始まるまでの待機場となっていた。


 それから二十分ほどして、正面玄関から平沢の両親が姿を見せた。その顔を見た瞬間、平沢の中に懐かしさと、期待を裏切りかけた痛みが同時に押し寄せる。


 両親が受付に向かったのを見届け、平沢は列を抜けて前に出た。手続きを終えた両親の前に進み出て敬礼する。右手を戻して太ももに当たると、ぱん、という小気味よい音が響いた。


「ようこそいらっしゃいました。ご案内いたしますので、こちらへお越しください」


 その挨拶に、両親は誇らしさと照れくささが入り混じった表情を見せた。平沢はふたりを案内してロビーを抜けると、ふっと緊張を(ほど)く。


「今日はありがとう。昨日来たの?」

「うん、仙台のホテルに泊まったんだよ。聡、ちょっと痩せたかい?」


 聡の問いかけに母親が答える。父親は普段からあまり口数が多くない。


「うーん、どうだろう。ご飯はちゃんと食べてるよ」


 階段を上り、食堂に入る。テーブルにはまだ空席が目立っていた。室内にはお茶とお茶請けが準備されており、調理員たちが忙しそうに動き回っている。


「ちょっとお茶とか持ってくるから、座って待ってて」

「制服汚しちゃまずいから、お母さんが取ってくるよ」

「お客さんなんだから、座ってて」


 そう押し切って、聡はカウンターへ向かった。お盆に茶托(ちゃたく)を三枚、それぞれに湯呑みを置き、お茶を注ぐ。饅頭(まんじゅう)を三つ、小皿に取り分けてお盆に載せる。テーブルに戻って給仕すると、両親から「ありがとう」と礼を言われる。なんだか少しくすぐったい気分だ。


「警察学校はどう?厳しい?」


 そう尋ねられ、平沢は一瞬、言葉に詰まる。


「⋯⋯うん、厳しいよ。怒られてばっかりだよ」

「そう。でも、何年もがんばってやっと受かったんだから、がんばんなさいよ」

「うん、わかってるよ」


 普通に答えられただろうか。すでに一度、諦めてしまった。まだ、自信を持って「頑張れる」とは言い切れなかった。


「聡、なんだか立派になったね」


 父親がぽつりと(つぶや)く。


「ありがとう。でも、まだ十日しか経ってないよ」

「警察官の制服着てるからかな」

「ああ、これ飾緒(しょくちょ)っていうんだけど、儀礼用でさ。たぶんこれのおかげかな」


 聡が金色の飾り紐に手を添える。


「写真撮ってやるから、並んで」


 父親は写真を撮るのが好きだった。聡と母親が並ぶと、いつの間にか食堂へ来ていた綿貫が声をかけてくる。


「良かったら、私が撮りましょうか」

「え?あ、いや私は⋯⋯」


 父親は写真に撮られるのは苦手だった。


「お父さん、来なさいよ。撮ってもらえばいいでしょ」


 母親が強引に呼び寄せ、渋々ながら父親も列に加わる。


「じゃあ、いきますよ〜」


 綿貫は父親のデジカメを手に、シャッターを切る。


「もう一枚いきま〜す。ほら平沢さん、敬礼しなよ」

「えっ?いや、まあ、そうか」


 少し照れくさいが、こういう機会は滅多にない。諦めて敬礼する。


「ありがとう、綿貫。綿貫も、家族で撮るだろ?」

「うん、頼むわ」


 綿貫がスマホを差し出す。彼の家族は母親と妹だ。聡は、綿貫の父親が彼が小学生の頃に離婚したと聞いていた。


「あ、お父さん、撮ってくれる?」


 聡が父親にスマホを渡す。


「うん、わかった」

「平沢さん、親御さんにやらせんなよ」

「いや、俺写真撮らないから下手なんだよ」

「あ〜、そんな感じするわ」

「だから、お前は俺の何を知ってるんだよ」


 綿貫の言葉に、聡は思わず返した。——あれ、なんだろう。なんだか調子が戻ってきた気がする。両親と話したからかもしれない。聡はなんだか、ほっとしてしまった。


 写真を撮りおえ、雑談をしていると、場内放送が流れる。


「まもなく、入校式が始まります。ご来客の皆様、学生は本館受付に隣接する講堂までお越しください」

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